陸上・駅伝

特集:第103回日本陸上競技選手権

110mH日本タイ記録で敗れた順大・泉谷駿介、自分の弱さと向き合って世界へ

高山(左)と泉谷(右)は13秒35の日本タイ記録で駆け抜け、1000分の2秒差で高山が勝った(撮影・藤井みさ)

第103回日本陸上競技選手権最終日

6月30日@博多の森陸上競技場
男子110mハードル 決勝(向かい風0.6m)
1位 高山峻野(ゼンリン)13秒36(日本タイ記録) 
2位 泉谷駿介(順天堂大)13秒36(日本タイ、学生新記録)
3位 石川周平(富士通) 13秒67
4位 矢澤航(デサントTC) 13秒76
5位 栗城アンソニー(新潟アルビレックスRC)13秒92
6位 藤井亮汰(三重県体育協会)13秒99
7位 札塲大輝(ヤマダ電機)14秒00
8位 佐藤大志(日立化成)14秒16

日本選手権最終日の6月30日、男子110mハードル(H)決勝で高山峻野(明治大~ゼンリン)と泉谷駿介(いずみや、順天堂大2年、武相)が、向かい風0.6mの中でともに13秒36の日本タイ記録を出した。写真判定の結果、高山が13秒354、泉谷が13秒356と、1000分2秒差で高山の優勝となった。13秒36の日本記録は金井大旺(たいおう、法政大~ミズノ)と高山がすでに持っていて、この日泉谷が加わって日本記録保持者が3人となった。泉谷は日本学生記録も塗り替えた。

向かい風2.5mの中で自己ベスト

泉谷は5月19日のセイコーゴールデングランプリ(GGP)大阪で、2.9mの追い風参考ながら、110mHで日本記録を0秒1上回る13秒26で優勝。それから中3日で臨んだ関東インカレでは110mHで優勝し、三段跳びも優勝、走り幅跳びは2位という大活躍。勝負強さと底知れぬスタミナをもつ泉谷は、三段跳びと走り幅跳びについても日本選手権の参加標準記録を突破していたが、110mH一本に絞り、世界選手権の参加標準記録(13秒46)突破と優勝を狙っていた。

110mHには実力者が勢ぞろいした。昨年の大会で金井が13秒36(追い風0.7m)の日本新記録で初優勝。2位だった高山は今年6月の布勢スプリントで13秒36(追い風1.9m)で日本タイ記録を出した。さらに石川周平(筑波大~富士通)は4月の織田記念で13秒54(追い風0.6m)をマークし、泉谷に競り勝って優勝している。

泉谷は予選、向かい風2.5mの中で13秒53の自己記録をマーク(撮影・松永早弥香)

6月29日の予選、泉谷は向かい風2.5mの悪条件にもかかわらず、13秒53と自己記録を0秒02更新。金井、高山、石川に比べても、タイムは泉谷が頭一つ抜けていた。同日の準決勝では1組に石川と金井が登場。金井は不正スタートで失格となり、石川は13秒51(追い風0.1m)で決勝へ。2組では高山と泉谷がぶつかり、追い風0.7mの中、高山が13秒44、泉谷が13秒54でともに決勝進出を決めた。

前日夜、初めて感じた不安

準決勝を終えた泉谷は、リズムが崩れて思うようなタイムが出なかったことに不安を感じていた。一夜明けて決勝の日。先の全米学生選手権110mH決勝で2位になった選手の動きをイメージしながら最終調整に入った。「動画を見て、その動きをイメージしてやりました。手をうまく使ってるなとか、そういうのを見て自分でとり入れて」と泉谷。

招集所へ向かうとき、不安から急に足がすくんでしまったという。「こんな緊張はいままでなかったです。不安があったのも初めてなんで。そういうのを気にするのはまだまだ弱いなって……」。記録を出して勝たないといけない。そんなプレッシャーを感じていた。

序盤でリードしていた泉谷(右)は中盤で高山(左)に並ばれ、一度抜かされたところで粘った(撮影・藤井みさ)

冷たい雨が降る中での決勝、第6レーンの泉谷は大きく深呼吸をして位置に着いた。スタートから右隣の高山とほぼ並び、泉谷がわずかにリードをとった。中盤で高山に並ばれたことを認識し、焦りが出た。リードを許したが、粘る。最後は高山が左胸を、泉谷が右胸を突き出してゴール。電光掲示板には同タイムが表示されたが、写真判定で決まった1000分の2秒差での負けに、泉谷はひざまづいて悔しさを露わにした。それでも高山と握手を交わし、トラックを後にした。

泉谷は着差での敗北に悔しさを隠しきれなかった(撮影・松永早弥香)

「経験不足っていうか弱いところがある」

泉谷は「タイムはもうちょっと13秒1から2台を狙いたかったんですけど……。決勝はとりあえず、勝つつもりでいきました。昨日の準決勝はあまりタイムがよくなくて焦りました。すごい不安もプレッシャーもあって、足も震えて恐かったです。でもそこに負けないように自分でいけたんで、2位だったんですけど楽しいレースができたんで、よかったです」と語った。1000分の2秒差については「日常とか生活とか、やっぱり負けてる部分があるんでしょうし、そういうところで勝負に負けたのかなっていうイメージですね」と、悔しさをにじませた。

決勝前、泉谷は高山から「後は任せた」と言われたという。「でもすごい気合いが入ってるのは伝わってきて。これから金井さんと高山さんと石川さんと四人で競い合っていければいいなと思ってます」と笑顔。泉谷が自覚しているのは経験の差だ。「経験不足っていうか弱いところがあるんで、もっと経験を積む時間がもう少し必要かな。並ばれたときの経験ですね。横にいるとけっこう焦っちゃうんで。そこでどう自分のレースを展開できるかが、これからの勝負になるかなって思います」

レース後、仲間からの声かけに笑顔を見せた泉谷(撮影・松永早弥香)

7月にはイタリア・ナポリでのユニバーシアードが控えている。「どんな選手がくるか分からないんですけど、3番以内には絶対入るようにして、ここからどんどんタイムを上げていって、世界でも負けない選手になりたいです」と力強く話した。

超えるべきはいまの自分。この悔しさをエネルギーに、19歳はまた飛躍する。

in Additionあわせて読みたい