日大ラグビー金政豪 4年目でつかんだファーストジャージでもうひと暴れを!
ラグビーの関東大学春季大会Bグループ第5週目の5月26日、日大は拓殖大に81-0と大勝した。この試合に、4年目にして初のAチーム出場を果たした男がいた。金政豪(キム・ジョンホ、4年、東京朝鮮)。高校からラグビーを始め、3年生のときにはHO(フッカー)として創部史上初の全国大会出場に貢献した。日大では入部以降ずっとBチーム以下でプレーしていたが、あきらめずに努力し続けた彼のもとに、Aチーム出場のチャンスが巡ってきた。
空回りした3年間、最後に変わった気持ち
ジョンホは下のチームでもがいていた3年生までを振り返り「Aチームで試合に出たい気持ちはあったけど、実力を考えると無理だと思ってた。自分自身ができてないのに、環境や練習のせいにしてた」と口にした。同じポジションには毎年全国から実力者が入ってくる。2017年度から日大のスクラムコーチを務める今田洋介さんも「常に元気はあったけど、それが空回りして、なかなかAチームに上がってこられなかった」と、当時のジョンホを評した。
しかし、4年生になって考え方を変えた。そのきっかけは、主将の坂本駿介(4年、三本木農業)が打ち立てた「グラウンドでプレーをする『チーム』としても、日大ラグビー部という『クラブ(組織)』としても頑張ろう」という今年の目標だった。その目標のもと「腐らずに最後までやりきる」と決意したジョンホは、下のチームから一人でも多くAチームに絡めるよう、雰囲気を盛り上げるための声を出し続けた。「自分が試合に出られなくても最後まであきらめず、クラブの面だけでもいいからプラスになろう」。そう思って日々の練習に取り組むうちに、「もっと成長したい。もっと強くなりたい」と、自分自身の気持ちも変わっていった。
今田コーチは言う。「大学ラグビーでは3年生までまったくAチームに絡めていないと、最終学年でメンバーに入るのはなかなか難しい。ただ、どんな選手でも一回はチャンスがくる。ただし、そのチャンスがいつくるかは分からない。それまでに、いかに自分という剣を研ぎ澄ましているかですよね」。ジョンホは最上級生としてあきらめずに声を出し続け、自分のプレーを磨き続けた結果、最終学年でやっとAチームのジャージを勝ち取った。「ラグビーの神様は、頑張った人間に時々ご褒美をくれる」と、今田コーチは彼の頑張りをたたえる。
「試合が終わってもジャージをずっと着ていたかった」
その拓大戦。62-0と日大が大きくリードした後半30分、ついにジョンホがグラウンドに立った。「緊張は全然なかった。うれしさしかなくて、うれしさで頭がいっぱいで」。スクラムで自身の両隣に構えるPR(プロップ)はどちらも下級生。「ここは絶対にボール出すぞ。とにかくいくぞ! 」と声をかけた。出場時間は10分ほど。それでも、ジョンホは誰よりも強い気持ちでぶつかり続けた。
ファーストジャージに袖を通すことなく、4年間が終わるかもしれない。ジョンホ自身もそう思うことがあったという。たった10分ほどだったかもしれない。しかしその10分には、彼の努力と最上級生としての意地、そして初めてファーストジャージを着ることができた喜びが詰まっていた。「試合のあとも、そのままジャージを着てグラウンドに立っていたかった」というジョンホの言葉にも、彼の感慨の深さが表れている。
ジョンホは拓大戦のあとの春季大会(6月2日の筑波大戦、6月16日の明治大戦)もメンバーに名を連ねたが、出場には至らなかった。「悔しかった」と素直な気持ちを吐露する一方、「4年生だけど経験値も少ないし、藤村(琉士=りゅじ、3年、京都成章)の方が、信頼度もこれまでの積み重ねも尊敬するぐらいにすごい。そういった面で、自分はまだまだ」と奮起を誓った。
最上級生としてチームに貢献したい
春のシーズンも終わり、夏の強化期間を経たら、いよいよ秋のリーグ戦が開幕する。今田コーチはすべての4年生に「大前提として、選手をやってる以上は最後までレギュラーを狙いにいってほしい。いまの立場で後輩にカッコいい背中を見せられているかどうかを常に問いかけながら、日々ベストなパフォーマンスを出していってほしい」とエールを送った。ジョンホに対しても、「仲間を引っ張り上げられるようなエナジーをチームに与えてほしい。そのとき、日大ラグビー部はもう一段階上のステップへいける」と期待を寄せた。
「最後の一年は『頑張りたい』じゃなくて『頑張る』だし、『成長したい』じゃなくて『成長する』。すべてをマストにしていかないといけない」。そう語るジョンホは学生最後のシーズンへ向け「まずは秋もメンバー入りして、なおかつ信頼される選手になる。メンバー入りだけで満足せず、チームの勝利に最上級生として貢献したい」と意気込みを語った。不屈の精神でAチームへとはい上がったこの男が、決して最後まであきらめることはない。
自分が書かないわけにはいかない
私とジョンホは小中高と12年間同じ学校に通い、高校ではともにラグビー部で汗を流した仲だ。ジョンホは日大に、私は大東文化大にそれぞれ道が分かれた。大学でもラグビーを続けたジョンホに対し、私は「スポーツ大東」の編集部員として選手の活躍を発信する立場になった。拓大戦のメンバー表に彼の名前を見つけた瞬間、「自分が書かないわけにはいかない」と思い立ち、日大に取材を申し込んだ。彼の頑張っている姿を、一人でも多くの人に伝えたかったからだ。
彼が語る言葉の一つひとつに、最上級生としての強い思いや、ラストイヤーにかける熱い気持ちが感じられた。私から見て、彼はもうすでに立派な最上級生であり、立派なラガーマンに思えた。一人の記者としてジョンホへの取材を終えたとき、彼は「新鮮だな」とつぶやいた。私も同じだった。人生で親友にインタビューする日が来るなんて思いもしなかった。
春季大会でメンバー入りしたのを見たとき、本当に心の底からうれしかった。力になった。この先もジョンホらしく、最後の最後まであきらめずに戦い続けてくれ。
頑張れ、ジョンホ! 一人の親友として、また一人のラガーマンとして、ずっと応援しているから。