金足農・菊地彪吾 ツーランスクイズで生還した準々決勝、スクイズ失敗の決勝
熱戦を展開してきた夏の甲子園も残りわずかとなりました。4years.では昨夏の第100回全国高校野球選手権で活躍し、今春大学に入学した選手たちにインタビューしました。高校生活のこと、あの夏のこと、そして大学野球のこと。大いに語ってくれました。特集「僕らの甲子園~100回大会の記憶」第10回は昨夏の準々決勝でツーランスクイズからサヨナラ勝ちのホームを踏んだ金足農高(秋田)のライト、菊地彪吾(ひゅうご、現・八戸学院大)です。
バント、スクイズには絶対の自信があった
昨年の準々決勝第4試合、金足農は近江(滋賀)と戦い、9回にツーランスクイズを決めて金足農が逆転サヨナラ勝ちをおさめた。100回大会のハイライトの一つだ。今後も夏が来るたび、あの映像が流されるだろう。このとき、二塁からホームを突いたのが菊地彪吾だ。打球を捕った近江のサードがファーストへ送球。スクイズ成功で同点、と誰もが一息ついたところで菊地はスピードを緩めることなくホームを狙った。
「自分としては、まぁ、狙ってました。斎藤(璃玖)がバントした打球が、サードの前に転がったらホームまでいこうと。サードに転がったら、ランナーはサードの後ろだから見えてないんで、いけると思って。サードコーチャーも見ませんでした。ボールを見て自分で判断できるんで」
金足農ではバント、スクイズの練習は毎日全員が念入りにやっており、絶対の自信を持っていた。とくに近江戦の最後にスクイズを決めた斎藤はバッティングよりバントの練習に時間を割いていたという。この大会、金足農は1回戦で2度、準々決勝で2度と計4度のスクイズを決め、計5点を奪った。チームの「得意技」をこれ以上なく鮮やかに決めてベスト4進出。続く準決勝は日大三(西東京)を接戦の末に破り、秋田勢103年ぶりの決勝進出を果たした。
決勝の大阪桐蔭戦で痛恨のサイン見逃し
しかし、大阪桐蔭(北大阪)との決勝では得意技で流れを引き寄せられなかった。「最後まで勝つ気だったんで、悔しかったです。2回のスクイズも決めてたら……」と、菊地は悔しそうに決勝を振り返る。
3点を先制された直後の2回表、1死一、三塁のチャンスで菊地が打席へ。カウント2-2からの5球目。三塁走者の打川和輝が走り出す。しかし、菊地は見送った。サインを見落としたのだ。スタートを切っていた打川は懸命に三塁へ戻ろうとしたが、キャッチャーからサードへボールが渡ってタッチアウト。
「決勝の日、スクイズのサインが変わったんです。自分が見落としたのが悪いんですけど、監督さんがサインを出すタイミングがちょっと早くて見られなくて。自分はサインが出てないと思ったんです」
前日の準決勝の8回にスクイズを見破られたことから、金足農はこの日、スクイズのサインを変更していた。秋田大会でも1度サイン変更をしており、これが初めてではなかったが、大事な場面で失敗につながってしまった。秋田大会の初戦から甲子園の準決勝まで、すべて1人で投げてきたエースの吉田輝星(現・日本ハム)は、5回12失点でついに降板。金足農も3回、7回に1点ずつを返したが、2-13の大敗に終わった。
吉田が「行く」と言ったから、八戸学院大へ
高校進学の際、菊地が金足農を選んだのは「吉田が行くから」という理由からだった。中学の野球部で最後の大会を終え、秋田北シニアが開設する硬式球に慣れるための「中3コース」に参加していたとき、別の中学から参加していた吉田、打川、菅原天空(たく)ら現在のチームメイトと仲よくなった。「吉田と一緒に金農へ行けば、甲子園に出られるんじゃないかと思ったんです」
見込みは当たった。「出られる」どころか、夢だった日本一まであと一歩のところまで迫れた。菊地はこの春、青森の八戸学院大に進学した。「ここへの進学を決めたのも、吉田が行くって言ったからなんです(笑)。吉田がいたら絶対に(全国大会で)神宮へ行けると思ったんで。ところが吉田は来なくて、ひとりで八戸に来ちゃいました(笑)」
優勝した今春の北東北大学リーグでは8試合に出場。リーグ戦ではまだ無安打だが、新人戦の富士大戦では2打席連続ホームランを放ち、レギュラー獲得に向けアピールした。「大学のピッチャーは、やっぱりレベルが高いです。まずはレギュラーに定着して、活躍したい。やるからには上を目指していきたいと思います」
日本一にすぐそこまで迫った昨夏の大きな経験を胸に、大学では主役として頂点を狙う。