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特集:東京オリンピック・パラリンピック

走り幅跳び・城山正太郎 北海道で蓄えた力ぶつけ、8m40のスーパー日本新!

3回目の跳躍で福井のファンを大いに沸かせた(撮影・藤井みさ)

Athlete Night Games in FUKUI

8月17日@9.98スタジアム(福井県営陸上競技場)
男子走り幅跳び
1位 城山正太郎(ゼンリン)8m40(追い風1.5m)
2位 橋岡優輝(日大)   8m32(追い風1.6m)
3位 津波響樹(東洋大)  8m23(追い風0.6m)

福井の夏の夜、日本の走り幅跳びの歴史が大きく動いた。
24歳の城山正太郎(ゼンリン)が3回目の跳躍で1.5mの追い風にも背中を押され、8m40のビッグジャンプ。今シーズンの世界ランキング2位に相当する衝撃的な日本新記録だ。1回目には今シーズン日本記録まで3cmと迫っていた日大3年の橋岡優輝が8m32と、現在指導を受ける森長正樹さんが1992年の日大時代に出した8m25の日本記録を27年ぶりに更新していた。その約40分後、北海道で蓄えてきた力が爆発した。

函館生まれ、100mで芽が出ず転向

3回目の跳躍を迎えた城山は思っていた。「橋岡選手の日本新記録も津波選手の8m23も見てたんで、自分も跳びたいという気持ちがありました」。世界のトップ選手にも負けない助走から、両腕と両足を必死で突き出し、着地した。「お客さんの歓声で『これはいったな』と思いました」と城山。

まったく実感が湧かないという8m40の文字と記念撮影(撮影・藤井みさ)

8m40の大記録が掲示板に映し出されると、スタンドは揺れ、大歓声が会場を包んだ。2016年に出した自己ベストを3年ぶりに39cmも更新する日本新記録。ドーハ世界陸上の参加標準記録8m17と東京オリンピックの参加標準記録8m22の突破を目指していたが、それらを大きく上回る結果となった。4回目以降は足の張りが出たため、大事をとって跳ばなかった。福井での超ビッグジャンプに「実感はぜんぜん湧かないですけど、しっかり世界陸上とオリンピックでこの記録を出せばメダルが見えてくるので、そこを目標に頑張りたいですね」と話した。

城山は北海道函館市の生まれ。小3から陸上を始めた。ずっと短距離が専門だったが、函館大有斗高1の冬から走り幅跳びに転向した。「100mやってたんですけど、あまり戦えるレベルじゃなかったので、どうにか自分が伸びる可能性はあるのは何かと考えたときに、たまたま幅跳びをやったのがきっかけです」と城山。高2のインターハイに出たが予選落ち。輝かしい成績は収められなかったが、いまも城山を指導する東海大北海道の広川龍太郎監督には、確かな感触があった。「助走をワイルドにアグレッシブに走っていく選手だったので、決して踏み切りはうまくなかったんですけど、この助走ができたら将来につながる、と」。そして城山の入学以来、二人三脚で歩んできた。

この日の2本目が終わったとき、広川監督は城山に「抜けをよくしよう」とだけ声をかけた。助走で腰が低くなると、踏み切りでグチャっと潰れる感じになる。1、2本目を見る限り、腰を高く保ったまま、スーッと抜けていくような助走から踏み切りさえできれば、「来るぞ」という実感があった。

腰の落ちない最高の助走からビッグジャンプは生まれた(撮影・藤井みさ)

そして3本目、城山も広川監督も踏み切り前の4歩目で確信した。城山は「腰が落ちずに耐えきれた。踏み切りに力が伝わった。これはいける」。広川監督は「これはくるぞ」。果たして今シーズン世界ランク2位の8m40だった。

大学4年生だった2016年にリオデジャネイロオリンピックの代表を狙っていた。参加標準記録突破を狙った最後の大会。そのラインを3cm超える8m15を跳んだが、踏み切りでわずかにつま先が踏み越えていてファウル。涙をのんだ。その2週間後に8m01の自己ベストが出た。それをこの日、39cmも上回ってきた。

助走速度はワールドクラス

広川監督は城山の長所について尋ねられ、こう言った。「助走の速度が秒速10.7~10.8m出てます。これをトップ選手に当てはめると8m40ぐらいは跳べる速度だったので、助走速度は世界に通用するところまでいってると思ってやってきました。ウェイトトレーニングをきっちりやるようになって、腰回りは一回り大きくなりました。大きな筋肉の出力が上がったので、それも今日の記録につながったと思います」

7月にはベルギーの試合で理想的な助走が初めてできて、追い風5.0mの参考記録ながら8m32を跳んでいた。城山は言う。「ベルギーではたまたまでしたけど、今日はあの試合の経験を生かして、同じ感覚を出せたのでよかったです」

城山はいまも北海道の母校で後輩たちと練習している。北の大地で積み上げてきたジャンプで大記録を出し、一躍東京オリンピックの注目選手に浮上した。それでも広川監督は、こう表現した。「城山が城山らしく、“幅跳び道”を究めてくれたら、それでいいです」
どんな舞台でも動じない道産子が、恩師と二人三脚で世界の舞台へ羽ばたいていく。

大学1年生から指導を受ける広川氏(右)と握手(撮影・篠原大輔)

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