駒大陸上部、野尻湖の夏合宿でマネージャーの1日に密着しました
僕の母校・駒澤大学陸上競技部の夏といえば、恒例の約3週間にも及ぶ夏合宿。秋からの駅伝シーズンに向けてじっくり心身を鍛え上げます。数々の駅伝で優勝してきた先輩方も、この夏合宿を乗り越えてこられました。今回は頑張る選手たちをサポートする縁の下の力持ち、マネージャーのみなさんに密着しました!
4時に起きて練習に備える
取材にうかがったのは8月21、22日の両日。場所は先日のコラムでも紹介しました野尻湖です。
21日はポイント練習(野尻湖畔の周回コースで距離走)、22日は早朝と午前中にもう1度練習してから、同じ長野県の志賀高原へ移動する日でした。
約3週間のうち、最初の1週間は起伏のある野尻湖で脚力を鍛え、次の1週間で標高の高い志賀高原で心肺機能を鍛え、再び野尻湖に戻って脚力とともに粘り強さも鍛える、という伝統の夏合宿です。
例年、ポイント練習は午前中にやっていましたが、今年は暑さも考慮してAチームとBチームは朝練で距離走に取り組んできたそうです。5時集合、5時30分スタートということで、選手に合わせてマネージャーたちも早起きします。
「5時集合ってことは、いったい何時から準備するんだろう?」と思っていたところ、「前日の夜までに準備できることはします」と、青山尚大主務(3年、中京大中京)が教えてくれました。
マネージャーさんたちも4時に起床し、4時10分には距離走の準備を始めます。
給水(水とスポーツドリンク)を用意し、チームごとに振り分け、約30分で準備は終了。前日の夜にできるところまで準備しておいたのでスムーズだったそうです。ちなみに過去の合宿日誌には走った選手、タイム、気象条件などはもちろん、チームごとに振り分けた給水ボトルの本数(水を何本、スポーツドリンクを何本)といった細かい情報まで記載されているので、人数や気温を考慮しながら微調整を加えていきます。
選手のみなさんは朝から長い距離を走るということで、おにぎり、エネルギーゼリーなどをお腹に入れて走る選手もいます。おにぎりは、前日の夕食で余った米を、女子マネージャーが一つひとつ丁寧に握ったそうです。
女子マネージャーはタイム計測、給水など練習サポートのほかに食事準備の手伝いもするのですが、差し入れでいただいた果物の皮をむいたり、切ったりも……。見ているだけでも大変な作業を黙々と終わらせていきます。
練習をスムーズに進めるための準備
AチームとBチームの距離走は朝のうちに終わりましたが、マネージャーさんたちは次の練習の準備に取りかかります。午前中は集合して軽いJOGのため、水の準備です。
午後練習はCチームの距離走と中距離のトラック練習があるため、再び準備をにあたります。
練習中は監督、コーチが運転する車に同乗し、1kmごと、5kmごと、1周ごとのタイムを計測。車にも給水を積み込み、渡せるようにしておきます。練習が終わったらすぐにボトルをキレイに洗い、乾かして、次の日の練習に備えます。
常に選手の様子に心を配る
練習以外の時間にも、マネージャーにはさまざまな業務があります。例えば帯同しているトレーナーさんに治療してもらう順番を監督に確認し、表にして掲示します。選手のコンディションによって微調整が必要なため、選手の走り、練習消化率、脚や体の張り、痛みなどを把握し、監督やコーチ、トレーナーさんとも情報共有する必要があります。
翌朝の朝練は5時50分集合。マネージャーさんたちも30分前には準備を始めます。2チームに分かれての集団走。4年生と1年生のチームと、3年生と2年生のチームに分かれます。これも駒澤の伝統です。
藤田敦史ヘッドコーチのマネージャー論
練習の合間に藤田敦史ヘッドコーチに取材しました。藤田ヘッドコーチがマネージャーに求めていることは、計画性を持って準備すること。例えば今回のように急きょ、朝練で距離走をすることになっても、前の晩のうちにできることをやっておくといったことです。具体例を挙げて、分かりやすく教えてくれました。
今回、大林莉子マネージャー(4年、旭川龍谷)が練習の空き時間に、仕事を後輩に伝えている姿を見ました。4年生の大林さんにとっては最後の夏合宿。後輩たちに仕事内容を引き継いでいる姿を、藤田ヘッドコーチは「駒澤の伝統」と、高く評価されていました。選手が襷(たすき)をつないでいくように、マネージャーも代々、マネージャーとしての役割を襷リレーしていくんですね。
さらに「マネージャーがしっかりしていると、監督やコーチが選手の走りを見るのに集中できるんです」とも教えてくれました。「たとえ失敗しても、それを糧に成長してほしいです。もしスタッフには迷惑をかけたとしても、選手には迷惑をかけないように、しっかり選手をサポートしてほしいですね」と藤田ヘッドコーチ。
選手についても「努力することは我慢じゃなくて手段。上にいくための手段です。自分から行動する。少し角度を変えて視点を変えてみる。まずは一歩踏み出すことが大切です。一人ひとりがそうできれば、確実にチームは変わっていきます」。選手にも積極的に声をかけていた藤田ヘッドコーチ。選手もケアの方法や走り方などを相談しているようです。
大八木監督、変わらぬ情熱と指導哲学
そして、やはりこの方! 僕の恩師でもあります大八木弘明監督です。練習前、過去のデータを参考に、マネージャーさんと綿密な打ち合わせをしている姿が印象的でした。
「やはり、マネージャーがしっかりしているとチームは強い。マネージャーは人から言われてから動くのではなく、自分で気がついて率先して動けるように心がけてほしい。それは社会に出てから役に立つ。感性が大事」と、僕の学生時代から常々おっしゃられていた話をされていました。
時代に合わせて声のかけ方、練習内容などは少しずつアレンジをするそうですが、感性を大切に現場で選手やマネージャーを見るということを何よりも大事にされている大八木監督に、変わらぬ情熱と指導哲学を感じました。
「陸上への一途な気持ち。陸上が好きだから」。今年で61歳になられた大八木弘明監督の情熱はきっと、選手のみなさん、マネージャーのみなさんも肌で感じていることでしょう。
チーム全員が目標に向かって取り組む夏合宿。これからも応援しています!