数々の名ランナーが夏合宿で鍛えた野尻湖畔を、実際に走ってきました!
夏ですね! セミの大合唱が響きわたるこの時期、学生の皆さんは夏休みです。一般の大学生なら夏を満喫する時期だと思いますが、駅伝を目指すアスリートのみなさんにとっては鍛錬の夏、試練の夏、夏合宿です。今回は、数多くのランナーたちが夏に鍛えてきた合宿の名所、長野県の野尻湖に行って、私も走ってきました!
都心の猛暑を離れ、じっくりと走り込み
野尻湖のランニングコースでは、マラソンでオリンピック2大会連続4位の中山竹通さんをはじめ、数々の名選手たちが走り込んできました。駒澤大学などの大学や実業団の合宿地としても有名です。都心を離れ、少しでも涼しい環境で、秋の全日本インカレや駅伝に向けてじっくり走り込みます。
新潟県との県境に近い長野県上水内郡信濃町にある野尻湖の標高は654m。社会の教科書でもおなじみですが、ナウマンゾウの化石で有名です。
ナウマンゾウ博物館をはじめとして、野尻湖の周囲にはいたるところにナウマンゾウの像がそびえ立ち、選手たちの走りを見守ります。
野尻湖畔1周は15.38km。湖というと平坦なイメージがあるかもしれませんが、この周回コースの高低差は約80mあります。これはビル20階以上の高さに相当します。上って下るだけならまだしも、コースの途中に何度も起伏が現れます。
野尻湖の合宿で鍛えられる理由
野尻湖を知り尽くした駒大の大八木弘明監督と、藤田敦史ヘッドコーチのお二人に話を聞きました。
まずは大八木監督。ご自身の学生時代も野尻湖で走り込み、引退後は指導者として毎夏、野尻湖で合宿されています。野尻湖とのつきあいは、かれこれ40年近くになるそうです!
野尻湖で合宿をしてきた理由について聞いたところ「起伏が多く、全身を使って走るので、平坦よりも力がつくし、スタミナも強化できる」とのこと。また「起伏が続くので、上りや下りなど(駅伝の)区間の適正もわかる」「夏合宿を通じて後半の走りや性格を見極められる」といった監督ならではの着眼点も教えてもらいました。
そして、男子マラソン元日本記録保持者の藤田ヘッドコーチ。現役時代、大学3年生で30kmの学生記録(当時)、大学4年生でマラソンの学生記録(当時)を更新。実業団に進んでからはマラソン日本新記録(当時)を樹立されます。大学からずっと夏合宿は野尻湖でした。
現役時代、マラソン練習には4カ月かけていたそうです。「最初の1カ月は下地づくりです。あまりペースを上げず、野尻湖の起伏を利用して土台づくり、脚づくりをしてました。野尻湖はアップダウンがかなりあって、平坦な部分がほとんどありません。木陰が多く、日差しを遮ってくれるので走りやすいんです。上りはペースアップ。ヒルトレーニングのような形です。下りはペースを抑え、故障のリスクを下げます」と、教えてくれました。
野尻湖畔のコースを走ってきました
7月下旬、大学より一足先に駒大高校陸上部の夏合宿に参加させてもらいました。大学4年生のとき以来、13年ぶりとなる野尻湖、そしてそのときと同じ野尻寮(駒澤大学のセミナーハウス)です。
建物、景色、木々の香り……。学生時代の思い出が一瞬で蘇りました。
駒大高校陸上部は昨年の東京都高校駅伝で男子が初優勝を飾り、都大路に初出場。女子も関東高校駅伝に出場しました。駒大高校を指導されている渡邉聡先生は、以前このコーナーで紹介しました。
高校生は1500や5000mが主戦場。駅伝最長区間でも10kmなので、野尻湖1周の15.38km走が中心でした。男子のA、Bチームは合宿最終日、1周プラスアルファで21km走に取り組んでいました。ちなみに大学生は基本的には野尻湖2周の約30km走をやります。冬に30kmレースやフルマラソンを目指している選手は35kmや40km走に取り組みます。
僕が学生のころとスタート、フィニッシュ地点が約600m移動しましたが、コース自体の変更はありません。今回は新しい距離表示を基準にお話します。
新しくなったスタート地点は町営第2駐車場前、旧野尻湖小学校です。
スタート後「平坦で走りやすいなぁ」と思ったのも束の間、約500mを過ぎるといきなり急な上り坂が待ち受けています。あまりにキツ過ぎる先制パンチ!
大八木監督がおっしゃっていた「体全体を使って走る」という言葉を思い出しながら、腕を大きく振ってなんとか上っていきます。その後、何度もアップダウンが続きますが、5km地点までは上り基調です。
その後、5km以降は9kmまでは下り基調。上ったり下ったりしながら下っていきます。9km地点を過ぎると平坦な箇所があり、そこで気持ちを整えます。
野尻湖1周コース、最大の難所
そして、コース最大の難所が待ち受けます!
「急な上り坂 注意」の看板が(笑)。ここから1km以上、急な上り坂が続きます! 急勾配! そして長い! 上ってる途中で、藤田ヘッドコーチがお話されていた「上りはペースアップ!」という言葉を思い出しましたが、キツかったです(笑)。ペースを上げようとはしてるのですが、上がってるのは心拍数だけ(汗)。
ちなみに駒大の選手のみなさんは、急坂でもペースをグーッと上げていきます。首脳陣は坂を勢いよく駆け上がる選手たちの走りを見て「2区の権太坂やラスト3kmの坂」「8区の遊行寺」「5区山上り」といった箱根駅伝の区間適正なども見ていらっしゃると思います。
11kmを過ぎると、上ってきた分を下っていきます。けがを防ぐため、下り坂はペースを上げすぎずに余裕を持って走っていきます。実際に走ってみると上り終えるのに必死で、下りはペースアップするほどの余力が残ってなかったですが(笑)。
14kmまでくると平坦なコースになります。下りきってからの最後の平坦が地味にキツいです。1周15.38kmではありますが、激しい起伏、そして夏に走ることを考慮すると、かなり消耗します。駒大のみなさんは距離走のときには2周、各自ジョグのときも1周する選手も多く、体力的にも精神的にも鍛えられますね。
さらに、このコースのいいところは1周いこうと思ったら、途中でショートカットできないところです(笑)。こういった部分も、メンタル強化につながっているのでしょうか。
実際に走ってみると、選手のすごさがわかります。私、M高史もかなり鍛えられました!