ラストシーズン迎えた関学アメフト鳥内秀晃監督 「勝利のルーティン」とは
アメリカンフットボール界の名物監督がラストシーズンを迎えた。今シーズン限りでの退任を表明している関西学院大学ファイターズの鳥内秀晃監督(60)。9月1日に関西学生リーグ1部の初戦に臨み、同志社大学ワイルドローバーに31-7で勝った。
前日の墓参り、すし、おごってもらう「いか焼き」
名将は試合後、まず選手たちに苦言を呈したあと、ペットボトルのお茶を一口飲み、待ち受ける報道陣の前に現れた。ニヤッと笑って、「あぶない、あぶない」。いきなりの鳥内節だ。ラストシーズンの初戦はちぐはぐな戦いに終始し、迫力もなかった。「ナメすぎやで。こういう失敗が起こるやろうなと、思ってる通りのことが起こってるから。みんな、誰かがやってくれると思ってる。そんな集団では勝てるはずないで」とバッサリ。記者の問いかけにひとしきり答え、輪が解けたあとに戻って来てひとこと。「むちゃくちゃ怒ってたって書いといてや」。そう言ってニヤリと笑いながら、その場を去った。
シーズン開幕前は必ず、父の墓前に手を合わせる。試合前日の練習はほかのコーチらに任せ、京都府宇治市へ。これまたファイターズの監督を務めた父昭人さんの墓がある。「先祖があるから、いまの俺がある。ちゃんとお参りして、『見守ってください』って言うとる」。サッカー少年だった鳥内監督は、父の影響で大学からアメフトを始めた。ビッグゲーム前にも欠かさず訪れている。
試合当日でも、鳥内秀晃の朝は早い。午前4時半には起床。大正14年創業の製麺会社の3代目社長として、従業員とともに仕込みや配達をする。そして、監督自身が「朝寝」と呼ぶ仮眠をとってから試合会場へと向かう。道中で腹ごしらえだ。「すし行くねん。回るやつちゃうで。ちゃんとしたとこ」。そこで上にぎりを口にする。監督に就任した1992年以来、変わらぬルーティンだ。2〜3時間前に会場入り。コーチたちと試合前の最終準備をする。
あるフットボール関係者にごちそうしてもらう「いか焼き」をほおばる姿もおなじみだ。「甲子園ボウルのときも、いか焼き屋が出てへんのに、買うてきてくれる。律儀な人やわ〜」。これは3、4年前からのゲン担ぎになっているそうだ。
父の教え「4回生を男にしたれ」
関学の初戦は午後5時からだったが、試合前は夏の陽気だった。鳥内監督は特設の扇風機の前に立ち、しばらく涼んでいた。「並んでるお客さん、かわいそうやんけ。はよ、入れたりぃな。熱心なファンは練習も見たいねん」。関西学生アメフト連盟の関係者にボヤく姿もいつも通りだ。そして私には「立命どないやった? 京大は?」と質問。キックオフの1時間前になるとフィールドへ出て行き、同志社の練習を見つめた。談笑していたときの目から、闘う男の目に変わった。
監督として甲子園ボウル優勝11回、ライスボウル優勝1回。今シーズンで28年目に入り、関学史上最も長くチームを率いてきた。指導者を志したのは、関学の選手時代に甲子園ボウルで日大に4戦4敗したからだ。
「4回生を男にしたれ」。監督になるとき、父からに言われた言葉はずっと大切にしている。4回生のミスや甘さが目立ち、モヤモヤした開幕戦。これまで鳥内監督の言葉で、チームが変わるシーズンが何度もあった。どのタイミングで4回生に対して「劇薬」を投入するのか。今シーズンも4回生を男にして、鳥内秀晃はフィールドに別れを告げる。