青学レスリング藤井達哉、愛すべき主将がチーム史上初の3連覇達成
全日本学生レスリング選手権 グレコローマン82kg級
8月20~23日@東京・駒沢体育館
優勝 藤井達哉(青山学院大4年、栗東)
レスリングの学生日本一を決める全日本学生選手権(インカレ)が4日間に渡って開かれ、各階級で熱戦が繰り広げられた。学生王者の座をここ2年守り続けてきた青山学院大の主将・藤井達哉(栗東)は最後のインカレに臨み、青学史上初となる3連覇を成しとげた。(2017年度はグレコローマン80kg級、18年度はグレコローマン82kg級を制覇)
喜びよりも「安心してます」
試合後の藤井は「実際のところは安心してます」と、胸のうちを表現。喜びよりもホッとした気持ちが大きいことを明かした。
藤井は1年生のとき、インカレには出場していない。直後に控えた世界ジュニア選手権に出場するためだった。2年生のときは、インカレ初出場ながら強豪たちを退けて優勝。昨年度は準決勝まですべてテクニカルフォールで勝ち進み、圧倒的な力の差を見せつけて連覇を達成した。しかし今年度は一転、初戦以外の3試合とも6分間のフルタイムという苦しい戦いを余儀なくされた。
その理由のひとつは「3連覇しなければ」という思いが藤井の中でプレッシャーになっていたことだろう。「うち(青学)で3連覇した人がいなくて(自分が達成したら)初めてだとずっと言われてきたので、試合が始まってやっぱりそこはプレッシャーになってました」
名実ともに学生トップレベルの存在がゆえに、周りから多くの期待を寄せられるのは容易に想像できる。チームメイトからも愛される主将だからこそ「仲間のために」という気持ちも少なからずあったはずだ。
3連覇の重圧と体調不良をはねのけて
さらには、予期せぬ事態が藤井に追い討ちをかけていた。この大会の初戦が終わったときから、体に違和感を感じていた。「何か調子悪いな、と。減量がうまくいかなかったわけじゃないんですけど、足がぜんぜん動かないし、すぐに腕が張ってしまって……」。試合自体は無失点のフォール勝ちだったが、本調子でない状態で準々決勝以降を戦わなければならなかった。
3連覇への重圧に体調不良。厳しい状況が重なる中でも、藤井が優勝をあきらめることはなかった。「調子が悪いなら悪いなりの試合をしようと思って、負けないような試合運びを意識しました」。この大会のライバルは、まぎれもなく自分自身だった。
その言葉通り、準々決勝からは内容よりも勝ちに徹した試合を展開した。初戦で見せた大きな投げ技は影を潜め、パッシブや場外など小さなポイントの取り合いになった。リードしているときには無理に自分からは攻めず、相手に取らせるところは取らせ、確実に勝利をつかみにいった。準々決勝は1点差、準決勝は2点差。ギリギリの試合となりながらも、着実に決勝までコマを進めた。
決勝では、一時は1点差まで詰め寄られたが、巧みな試合運びで追加点を許さない。要所要所でポイントを重ね、最終的には4-1で危なげなく勝利。これ以上ない形で、4年間の集大成を飾った。
仲間からの声援が自分の力に
決勝で試合終了のホイッスルを聞くと両手を叩き、右手の指を3本立てて「3連覇」をアピール。試合のたびにスタンドから絶えず声援を送っていた仲間たちから、チームが誇る主将へ盛大な拍手と大きな歓声が送られた。
「優勝したら3連覇にまつわることをしようと思ってました。上でみんなが応援してくれてたので、そこに向かってアピールして、笑ってくれてもいいし、テンション上がってくれてもいいし。そういうのがあればなと思ってました」。試合中は相手のセコンドの声まで鮮明に聞こえるという藤井。その中で仲間からの声援は「本当に助かります」と、笑みを浮かべた。青学レスリング部の温かさが垣間見えた。
藤井は、大会の最優秀選手に送られる文部科学大臣杯を受賞。少し照れくさそうに、大きなトロフィーを受け取った。
仲間の支えがあって、自分自身との戦いに勝った。チームのみんなに愛される主将は、まずひとつ今年度のタイトルを獲得した。学生生活も残すところあと半年。青学の名を背負って戦うことも数えるほどとなった。半年後、青学を旅立つときに、藤井の両目にどんな景色が映っているのか。それは本人以外知る由もない。
しかし、そのとき、藤井らしい屈託のない笑顔が浮かんでいることは間違いないだろう。限られた時間の中、青学の誇りを胸に、信じる道を突き進む。そこに必ず道は拓ける。