明治サッカーDF小野寺健也、たたき上げの男が連覇決める一発 総理大臣杯
第43回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント
9月7日@大阪・ヤンマースタジアム長居
決勝 明治大(関東第1)2-1 法政大(関東第5)
総理大臣杯の決勝は2017年大会と同じカードになった。終了の笛が鳴り響くと、5年連続でファイナルに駒を進めた明治大には2年前の雪辱を果たして満足感に浸る者もいれば、2連覇達成に感慨深げな表情の選手もいた。
得意のヘディングで決勝ゴール
1-1で迎えた後半24分、得意のヘディングで決勝点を叩き込んだDF小野寺健也(4年、日大藤沢)はチームメイト一人ひとりを強く抱きしめ、喜びをかみしめていた。大学に入り、自身初の大舞台で初のタイトル。3年半分の思いがあふれた。
「これまでの下積みが実ったのかな。こんなにいい舞台で結果を残せるなんて。ゴールを決めた瞬間、すぐにスタンドの方に目を向けたんです。喜んだ顔がたくさん見えました。八幡山(東京都世田谷区にある選手寮)から来てくれた応援団を見ると、感謝の気持ちでいっぱいになりました」
Aチームに定着したのは最終学年になってからだ。3年生まではほとんどBチームで過ごし、主戦場はトップチームで出場機会のない選手たちが戦うインディペンデンスリーグ(Iリーグ)。それでも、ふてくされることなく、練習に励んだ。3年生の前期にはAチームに抜てきされ、関東大学1部リーグの駒澤大戦(6月2日)に2点リードの状況から途中出場した。ようやく手にしたチャンスだったが、小野寺が守備陣に加わってから終了間際に2失点を喫して痛恨のドロー。すぐBチームに逆戻りした。
「Bチームでもやることは変わらなかったです。毎日、毎日Aチームだけを見続けてましたけど、僕はまだ土台づくりをしないといけないと思ってました」
負傷した後輩を思いながら決勝のピッチへ
3年生のときはIリーグの日本一に貢献。その実績も認められて、4年生からAチームに加わり、関東大学1部リーグでも出場機会をつかんだ。不動のレギュラーではないが、着実に公式戦で試合経験を重ねた。今回、総理大臣杯には初のメンバー入り。全国の舞台に胸を高鳴らせながらも、初戦からベンチを温めた。3回戦の順天堂大戦で佐藤瑶大(3年、駒澤大学)が前半終了間際に負傷し、思わぬ形で出場機会が巡ってきた。
「いつ出番がきてもいいように準備はしてました」
1年前の苦い思い出を払拭し、途中出場でしっかり結果を残す。最終ラインの一角に入り、無失点で乗りきった。準決勝の関西大戦でも持ち味の空中戦では負けず、要所で存在感を示す。決勝でも気合は入っていたが、前半は空回り。ハーフタイムに栗田大輔監督からカツを入れられ、本来の動きを取り戻した。
「(佐藤)瑶大のことを思って、ピッチに立ってました。悔しかっただろうし、つらい思いもしたはずです。いつも切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲間であり、ライバルだから。優勝して喜んでくれたときは、本当にうれしかったです」
優勝を決めた後はベンチ前で力強いハイタッチをかわした。足を引きずり、小野寺と喜びを分かち合った佐藤瑶は、ポジションを争う先輩の実力を誰よりも知っている。後半24分、CKで小野寺がゴール前に上がったときは力いっぱい叫んだ。「決めろー」と。悔しさをかみ殺し、必死に応援していた。
「ケンヤさんはヘディングが強いので、(空中戦は)絶対に勝つと思ってました。スタメンじゃないときも、自分の役割を100%の力でまっとうする先輩です。学ぶところはたくさんあります」
就活の面接で伝えたプロ志望
地道な努力を重ねて上り詰めてきた小野寺には、人を惹(ひ)きつける魅力があるのだろう。サッカーに打ち込みながら取り組んだ就職活動では4度の面接を通過し、6月にはベンチャー企業から内定をもらった。ただ、サッカーで生きていく夢をあきらめてはいない。
「4年生になるまで試合にほとんど出てなかったし、無理かなと思ったんですけど、もどかしさがあったんです。挑戦するのは、いましかないって。後悔はしたくないので」
就活の面接の際にプロ志望を伝えると、敬遠されるどころか応援してもらった。
「後悔なくやり終えてから、こっちに来ればといい」と。
いまはサッカーに全精力を捧げている。プロになることだけで満足する気はない。
「明治の後輩から参考にされたり、応援される選手になりたいです」
小野寺にとっては、それが今春、卒業したばかりの上夷(うええびす)克典(現・京都サンガ)である。寮で同部屋になったこともあるが、同じサッカー選手としては「遠い人」という。
「でも、いつかは追いつきたいです」
準決勝の会場には先を行く先輩が京都から駆けつけてくれた。「頑張れよ」というエールをもらい、モチベーションが上がったのは言うまでもない。総理大臣杯を弾みにして、堂々と三冠を狙いにいく。関東大学リーグ、インカレの頂点を視野に入れ、自らの夢も追いかける。