中大主将・田母神一喜の10000m初挑戦から、仲間たちが受けとったもの
10月6日、中大グラウンドにて、20日後に迫った箱根駅伝予選会メンバーの選考を兼ねた中大記録会が開かれた。10000m最終組のスタートラインに田母神一喜(たもがみ・かずよし、4年、学法石川)の姿があった。チームが全日本大学駅伝の関東地区選考会で敗退したあと、長距離ブロック主将として悩んだ。そして中距離選手としての自分にいったん別れを告げ、箱根駅伝挑戦を決心。覚悟を持って臨んだ初の10000mは、30分台でのゴールとなった。
苦しくても粘り抜いた
レース直前、田母神はいつもと同じように胸に右手を当てて集中する。そして隣にいた駅伝主将の舟津彰馬(4年、福岡大大濠)とハイタッチを交わした。「先頭が29分半ぐらいでいくという話だったので、自分はどこまで粘れるかなというレースプランでした」。スタート後、舟津がペースメーカーとして集団を引っ張り、田母神は集団の中ほどにつけた。
4000mを過ぎ、田母神はサングラスを外して気持ちを切り替える。5000mを過ぎると、徐々に遅れ始めたが、そのまま離されはしなかった。藤原正和監督から田母神へ熱い檄(げき)が飛ぶ。中距離で培った大きく力強い走りと主将の意地で、必死に前を追った。
藤原監督「予選会のメンバーを迷わせる走り」
力を振り絞り、最後は倒れこむようにフィニッシュ。トラックにうずくまり、悔しさを露わにした。タイムは30分19秒46と目標の29分台には届かなかった。「簡単には出ることはないなと。そこに関しては反省しかないですね」。田母神は初の10000mのレースを、そう振り返った。
藤原監督は「よくやりました。まだまだ本人が慣れない、疲れてる中だとは思うんですけど、予選会(のメンバー)を迷わせてくれるような走りができてます。予選会を走るかどうかはこれから部員たちが決めるんですけども、もし外れたとしても本戦がまた面白くなるのかなと思います。そういった意味で期待しています」と、田母神をねぎらった。
田母神が立ち上がり、ゆっくり歩き始める。真っ先に駆け寄ったのは舟津だった。「今日のレースは残念だったんですけど、あいつ自身かなり夏に無理して練習をこなしてますし、ほかのメンバーと同じメニューをやってきてます。中距離から変わって苦戦しながらここまでつくってきたので、ここで走れなくても当たり前というか。疲労もたまってきてますし、箱根までにつくっていけばいいと思います。あいつ自身才能はあると思うので、そこにうまく自分でアプローチして、20kmの距離にも対応できたらなと思います」。舟津は同級生の今後に期待を寄せた。
田母神の存在は後輩にも刺激に
チーム全体としては、今回の記録会で7人が自己ベストを更新し、11人が29分台で走るなど、近年では最高の選手層の厚さを感じさせる結果となった。後輩たちも田母神の箱根挑戦に刺激を受けている。「田母神さんが練習で引っ張ってる姿を見て、後輩たちも負けてられないという思いになってます」と池田勘汰(3年、玉野光南)が言えば、三浦拓朗(2年、西脇工)も「中距離で活躍してて雲の上の存在で、レベルが高くて近づけなかったんですけど、長距離になって距離も近くなりました。もともと僕たちは長距離でやってきたので、負けられないという、刺激をもらういい関係になりました」と語った。
田母神は主将として、今年から選手ブログを始めることを提案した。自己分析力を高めることで競技力向上につなげたいという思いからだ。こうした取り組みに加え、チームづくりにも奔走する田母神。言葉だけでなく背中でもチームを引っ張る主将は、中大の精神的支柱となりつつある。
田母神にとって大学での陸上生活も残りわずか。まずはあと2週間あまりに迫った箱根駅伝の予選会を突破し、3カ月後に迫った箱根の本戦と8年ぶりのシード権獲得に向け、日々の練習が大事になってくる。
やっと練習でやりたいことができてきた
「夏合宿の最初はBチームでやってて、そこではついていくので精いっぱいだったんですけど、後半にAに上がってからは北海道、蔵王合宿の練習消化率も100%で、ようやく手ごたえをつかめました。(今年の)前半はうまくいかなかったんですけど、後半になって自分が先頭に立ってチームの練習を引っ張れるようになってきて、やっとそこで自分のやりたいことができたかなという感じはあります。ここからが新しいスタートなんですけど、予選会はたぶん(自分自身の出場は)厳しいです。(箱根の本戦に向けて)また3カ月間、もう一回、だいぶ練習にも自信がついてきたので、しっかりと頑張りたいと思います」
中距離から転向して短期間での箱根挑戦は、そう簡単にはいかない。しかし困難な状況に立ち向かう田母神の圧倒的な存在感に接していると、何かサプライズを起こしてくれるのではないかと期待せずにはいられない。田母神を中心とした今シーズンの「白地に赤のC」は、どんな輝きを放つだろうか。田母神の歩みに、迷いはない。