「黄金世代」の1年後輩 東海大・西田壮志は2度目の箱根5区で「山の神」になる
大学の長距離界において、東海大の4年生は「黄金世代」と呼ばれている。ここへ来て、彼らの1学年下の西田壮志(たけし、3年、九州学院)が好調だ。アメリカでの合宿から帰ってすぐに臨んだ9月の日本インカレ10000mで8位入賞。初めて出雲駅伝のメンバーに名を連ねた。2年生までの経験を糧に成長曲線を描く西田は、箱根駅伝で前回に続いて5区を走り、初の区間賞に輝く自分を思い描いている。
Vメンバーの自覚が日々の意識を高める
西田は昨年の全日本大学駅伝で三大駅伝デビューを果たした。4区(11.8㎞)を34分8秒で走り、区間3位。続く箱根では山登りの5区を任され、1時間11分18秒で区間2位に。國學院大の浦野雄平(4年、富山商)には1分36秒及ばなかったが、快走だった。
だが、西田は言う。「5区を希望して入学して、区間賞を目指して1年間やってきたのに浦野さんに勝てなかった。悔しさだけが残ってます」。そしてこうも言った。「区間2位に終わってから、両角(もろずみ)監督と、区間賞をとるためにどういう取り組みをすればいいのか考え直しました。区間賞をとるまでは挑戦を続けるつもりです」
個人としては納得していないが、総合初優勝に貢献したことで、周りも自らの立ち位置も大きく変わった。西田は「どの試合でも“東海大の優勝メンバー”という目で見られるようになったので、それにふさわしい走りをしなければ、と思うようになりました」と話す。
優勝メンバーである自覚は、西田の練習に対する意識も高めた。1、2年生のときは「距離だけ踏めばいい」という考えだったが、それだけではダメだと気づき、スピード練習にも力を入れるようになった。
今年は8月13日から9月9日まで、標高2100mのアメリカ・アリゾナ州のフラッグスタッフで夏合宿に取り組んだ。「ジョグで1日に走る距離は30㎞程度でさほど長くなかったんですけど、前半は抑えめ、後半はビルドアップと、常にレースを想定しながら走ってました」と教えてくれた。
直後の日本インカレ10000mでは、28分58秒15で8位。夏合宿から帰国してすぐというタイトなスケジュールにも関わらず、攻めの走りで挑んだ。
両角速(はやし)監督は西田の成長を感じ取り、こう語っている。「トラックシーズンもずっと、質の高い練習を続けてきました。日本インカレでの走りもよかったですし、今回の箱根でも5区という役割を与える考えです」
服部勇馬から学んだこと
西田が刺激を受け、励みにしている存在が服部勇馬(トヨタ自動車)だ。9月15日のMGCで2位に入り、2020年東京オリンピックのマラソン代表に内定した。
服部と出会ったのは昨夏のこと。西田は北海道・網走でトヨタ自動車の夏合宿に参加した。服部と同じ部屋になり、10日間生活をともにした。「服部さんが代表になったのは、自分のことのようにうれしかったです。忙しいだろうなと思って、お祝いの電話は遠慮しましたけど、自分も頑張ろうという気持ちが湧いてきました。実は服部さんが去年の福岡国際で優勝したとき、『東京オリンピックを走るんじゃないか』という予感みたいなものがありました。去年の夏合宿でも、服部さんはかなりの距離を走り込んでました。あれだけ走ってるから、MGCでも2位という結果を残せたんだと思います」
服部からはコンディション管理の大切さも学んだという。「服部さんは毎日、朝と練習後に必ず体重をチェックしますし、食事も栄養バランスを考えながら摂(と)ってました。とくにすごいと思ったのは、入浴剤を持ち込んでたことです。宿泊施設の風呂は温泉じゃなかったので、入浴剤を使って血行をよくして、疲労回復に努めてました」
スピードでも負けたくない
今年、西田は初めて出雲のメンバーに入った。それは常々「スピードでも負けたくない」と思っている西田には、格別の喜びだった。
「出雲は三大駅伝の中で一番距離が短いので、去年まで『僕は蚊帳の外かな』という感じでいました。それが今年はチャンスが巡ってきた。『スピード軍団』と呼ばれてるチームにあって、出雲のメンバーに選ばれたのは誇らしいことです。緊張よりもワクワク感のほうが大きいですね。もし出たら、結果も求められますけど、両角監督の期待に応える走りをしたいと思ってます」
出雲に向けては短い距離のインターバル走が練習の中心になるが、全日本と箱根に向けての練習では走る距離が長くなる。その分、疲労度が高くなるが、西田はこのあたりから特殊区間である5区を走る準備も始めなければならない。長い距離を踏みつつ、山でのトレーニングも積むのはかなりキツいことだが、西田は「乗り越えていかなければならないと思ってます」と言い切った。
2度目の山登りでは、必ず区間賞を手にするつもりだ。