アメフト

神戸大アメフト 王者関学に全身全霊の挑戦、ひるまず粘って追い詰めた

関学に惜敗したあと、悔しさを受け止める神戸大の選手たち(撮影・安本夏望)

関西学生リーグ1部 第4節

9月29日@神戸・王子スタジアム
神戸大(2勝2敗)15-17 関西学院大(4勝)

アメフトの関西学生リーグ1部で神戸大が王者関学を追い詰めたが、29年ぶりの勝利はつかめなかった。15-17で敗れたあと、神戸大の選手たちはフィールドにへたり込み、逃した獲物の大きさを感じ取っていた。

立命に惨敗してから1週間で変わった

敗戦後、選手たちを集めて話したあと、神戸大の矢野川源ヘッドコーチ(HC)が報道陣の取材に応じた。その両目が潤んでいた。私は最初に聞いた。「届かなかった2点、誤算があったとしたら何ですか?」。矢野川HCは「うーーーん」とうなったあとで言った。「第4クオーターまで粘って粘って、いい誤算ですね。立命に負けてから1週間で頑張ったなと思いますね。誤算という誤算はないです」。いまのレイバンズにできることはやりきった。それでも関学が上だった。それだけだ。

神戸大は第2節、関大を11年ぶりに18-10で下した。そして2週間後に立命大に挑んだが、0-34の惨敗だった。そこから1週間と短いインターバルで迎えた関学戦だった。

関学の最初のオフェンスで攻め込まれたが、タッチダウン(TD)狙いのパスを神戸大のDB増田亮(4年、高槻)が狙い澄ましてインターセプト。「今日の神戸は何かある」。そう思わせるのに十分な“カウンターパンチ”だった。次の関学のオフェンスで先制TDを奪われ、0-7。直後のオフェンスは攻めきれず、攻撃権放棄のパント。ここでパンターの小林真大(2年、明星)が登場し、ナイスパント。敵陣4ydまで押し込んだ。ここからの関学の最初のプレーはパス。神戸大のDL杉野太郎(3年、岡山朝日)がディフェンスから見て左の大外からラッシュ。関学OLの張ってきた腕をはたいて、内側からかわす。慌ててRBがフォローに来たが、二人の間を突き抜け、エンドゾーン内にいたQB奥野耕世(3年、関西学院)に襲いかかった。奥野はたまらずボールを投げたが、これがインテンショナルグラウンディングの反則となり、セイフティ。2-7となった。杉野はこの日、鋭いラッシュで三つのQBサックを決める活躍だった。

トリックプレーからのロングパスを受ける神戸大WR品田(撮影・安本夏望)

神戸大は直後のオフェンスでトリックプレーを決める。第2クオーター(Q)6分すぎ、フィールド中央付近からの第1ダウン10yd。左へのオプションを展開し、RB森分(もりわけ)優人(2年、三田祥雲館)がピッチを受けた。森分はいつものようにタテには上がらず、左へ横流れ。そのころ、相手をブロックにいくふりをしてフラフラと前に出ていたWR品田快成(3年、千里)が、左サイドライン際でフリーになっていた。パスだ。森分が右腕を振り上げ、振り下ろす。完璧なリードボールが品田の腕に収まり、TD。2点コンバージョンは失敗したが、8-7とリードして試合を折り返した。

残り3分42秒、2点差まで追い上げたが……

第3Q6分すぎ、関学に自陣8ydから6プレーで逆転TDまで持っていかれ、第4Qに入ってフィールドゴール(FG)で3点を加えられた。8-17。試合は残り10分35秒。神戸大はまだ粘った。関学QB奥野のパスをはたき、DL八田佑陽(2年、池田)がインターセプト。敵陣39ydからのオフェンスとなり、ギャンブル成功を経てQB是澤太朗(4年、東海)が品田へ28ydのTDパスを通した。15-17。残り時間は3分42秒。神戸大はオンサイドキックを蹴らず、ディフェンスにかけた。しかしここで関学に意地を見せられる。神戸大はランと分かっていても止められず、攻撃権更新を許して、時間を使い切られてしまった。

関学のRBを正面からタックルにいく神戸大DB平井(撮影・安本夏望)

冒頭の言葉に続けて、神戸大の矢野川HCは言った。
「ボロ負けする可能性もあると思ってました。それを最後まで分からないゲームにできました。立命のRBにタックルできなかった子が、1週間で変わって、関学のRBにひるまず立ち向かってました。気持ちの部分でひるまずやれば、これぐらいできるっていうのを、自分の中で理解できた試合だったと思います。9点差に開いたときも、誰も気持ちが切れてなかったです。目の前の1プレーを完結させる。そのことには長(た)けたチームだと思ってます」。レイバンズを束ねる立場になって3年目、矢野川HCにとっても忘れられないゲームになった。

関学に勝つため2浪したRB森分「リベンジします」

王子スタジアムを沸かせた神戸大のトリックプレー。とくに関学戦用に用意した訳ではなく、いつでも使えるようにと準備していた。まずRB全員にパスを投げさせて、最もうまかった森分がパサー役に決まった。それでも練習では1度も決まったことがなかったという。あのプレーの話を聞きに森分のところへ行くと、RBらしく自分の走りの反省から語り出した。

トリックプレーからTDパスを決め、喜ぶ神戸大RB森分(左端の選手、撮影・安本夏望)

「いやー、負けたんは僕のせいです。いいブロックしてもらって、何回も相手のSF(セイフティー)と1対1になったのにタックルされてしまって。あれをロングゲインにつなげられてたら、また違ったと思います。あのパスは、ほんとに練習では1回も決まってなかったんです。だからプレーコールが入ってきたとき『矢野川さんやるなあ』と思ったし、僕を信じてコールしてくれたんだから、めちゃくちゃうれしかったです」

森分は2年の浪人生活を経て、神戸大に入った。公立の三田祥雲館高時代、関学高等部に負け続けた。3年生のときは春も秋も0-33で負けた。スコアも一生忘れない。「大学では関学を倒したい」。その思いが浪人時代の森分を支えた。そしてこの日、その目標に近づいた。近づけたからこその悔しさを、彼はかみしめていた。

関学にやり返すチャンスは、ある。今シーズンから甲子園ボウルの西日本代表を決めるトーナメントに、従来の関西1、2位に加え、3位の大学も出られるようになった。神戸大はここで関学と再戦できる可能性を残している。「絶対リベンジします」。森分は言った。

試合後、矢野川ヘッドコーチの話を聞く選手たち(撮影・篠原大輔)

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