新体操

男子新体操の同志社大・堀孝輔 環境が整ってなくてもやれる、それを示す

堀は高校、大学と、男子体操選手としては異例の道を歩んできた(すべて撮影・清水綾子)

新体操の全日本選手権が10月18日から3日間、千葉ポートアリーナで開かれる。この大会は今年度の各大会で上位に入った選手(高校生~社会人)が集まり、日本一を争う。国内最高峰の大会だ。今年は新体操部のない同志社大から3人の男子が出場する。その原動力となっているのが、堀孝輔(3年、高田)だ。

マットのない環境でもインターハイV

徐々に男子新体操の競技人口が増えてはいるが、部活として新体操ができる大学は限られている。団体を組めるだけの人数を擁するのは青森大、国士舘大、花園大、仙台大、福岡大の5校だけ。有力な高校生のほとんどが、この5校に進学している。

同志社には新体操部はないが、体操部に所属して練習し、新体操の大会に出場はできる。そのため以前から、有力選手が時折同志社へ進学することはあった。それでも体操部に間借りしているような形のため、新体操用のフロアがあるわけではなく、もちろん指導者もいない。高校までの競技実績がある選手でも、同志社で競技力を磨くことは難しいと思われていた。その同志社に2017年、高2のときにインターハイを制した堀が入学してきた。

堀は三重県の「Leo RG」という新興の新体操クラブ出身で、ジュニア時代から全国レベルの大会に進み、中3のときには全日本ジュニアで4位にもなっている。当時の堀が所属していたクラブでは、男子新体操で重要となるタンブリング(宙返りなど)の練習に必要なスプリングマットがなかった。さらに堀は、三重の進学校である高田高校に進学した。同校には新体操部はあったが、当時は専用体育館もマットもなかった。

男子の有力選手の多くは、少なくとも高校からは新体操部が強くて練習環境の整った学校に進む。そういう点で、堀は異色の存在だった。普段の練習ではタンブリングを入れてのフル通しはできない。そのため大会会場での公式練習で初めて演技を通し、会場に合わせて演技の調整をしていた。

堀は手具(しゅぐ)の操作に長(た)けた選手だ。ジュニア時代のコーチは「小学生のころから与えた課題を高い精度でできるようになるまでやり続ける子でした」と話す。投げた手具のキャッチひとつをとっても、ほとんどの選手はキャッチできれば満足する。しかし堀は手具の端をキャッチすることにこだわり、何回もやり直していた。練習環境から考えても、タンブリングの強化には限界があった。だからこそ、手具操作に活路を見出したのだろう。大会では人一倍複雑な手具操作を入れ込んだ演技を、ほとんどミスなくやりきった。

次世代の選択肢を増やしたかった

大学では、より新体操を究められる環境を求める気持ちはなかったのだろうか。同志社へ進んだ理由を尋ねてみた。

「新体操は好きですけど、大学4年間が新体操だけで終わってしまうのはもったいない。大学に通うなら新体操以外のことも学びたいし、視野を広げたいという思いで選びました。いまは男子新体操のできる大学は限られてます。次世代の子たちに、環境の整ってないところでもやれることを示せたら、進学先の選択肢を増やせるんじゃないかとも考えたんです」

堀は限られた環境の中、自分の強みを伸ばして演技に臨んできた

堀は全日本インカレで1回生のときに11位、2回生で8位、そして3回生の今年は5位まで上がってきた。同志社からは堀に加えて、西原昌希(3年、西宮今津)と藤綱峻也(ふじつな・しゅんや、2年、姫路東)が今年初めて全日本の出場権をつかんだ。このふたりは高校時代にインターハイを経験していたが、全日本までは進めなかった。それが同志社に入ってから急成長。西原は「マットのない環境で練習してきてトップレベルの選手になった堀君の練習を間近で見て学べる。これは自分にとっては大きい」。藤綱は「大学で新体操を続けるとは決めてなかったんですけど、進学先の同志社に堀さんがいたことで『これは続ける運命なのでは』と思った」と語った。

堀は言う。「同志社では普通の練習をしてるだけです。選手同士でお互いに言いたいことは言うし、意見をもらいたいときは求め合う。あとは自分でどこまでやれるか。それだけです」。今回の全日本に同志社から3人そろって出られることについては「すごくうれしいです」と言って笑った。「大学で新体操を続ける選択肢としての同志社を、かなりアピールできると思います!」と声を弾ませた。

応援される選手になりたい 

1回生の全日本インカレでは16点台までしか出なかった。2回生で17点台に乗るようになった。今年は種目によっては18点台も出るようになり、17点台後半はコンスタントに出るようになった。同志社で堀は確実に成長してきた。残り1年の学生生活で、何を目指しているのだろうか。

「一番思ってるのは、応援される選手になりたいということです。自分の演技は客観的に見ると、無機質で面白味がない。長所と言えるものがないと感じてます。そこをクリアできればもっとお客さんに訴える演技ができるんじゃないかと思うんですけど、難しいんです」

高校時代から同世代でトップレベルの成績を残してきたが、彼の自己評価は厳しかった。そして、常にこの「面白味がない」という課題に向き合っている。

今年、堀はロープの作品を変えた。演技構成が高難度なのはもちろんだが、使用曲はヴィヴァルディの「四季~冬」だ。男子選手では珍しくクラッシック音楽を使い、それが堀の持つノーブルな雰囲気とマッチしている。「自分の動きにはバイオリンの音が合うと思ってて、ほかの選手があまり使わないクラッシックなら差別化できると思ったんです」と堀。実際、この作品で自身の新しい魅力を引き出すことに成功している。大会では常に完成度の高い演技を見せながら、「まだまだ、もっともっと」と貪欲(どんよく)に取り組み、少しでも前に進もうとあがき続けている。

堀は大学で教員免許を取得しようとしているが、「経験できることはなるべく経験したい」という考えから、就職活動もする予定だ。卒業後の進路はまだ決めかねているが、何らかの形で新体操に関わり続けたいと考えている。いままでの新体操選手たちとは大きく違う育ち方をしてきた堀のことだ。現役選手としても、現役を退いたあとも、男子新体操の未来を大きく変える存在になっていくことだろう。

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