陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

立教大・上野裕一郎監督の「初陣」は23位 はじめて悔し涙を流した選手たち

ゴール後の選手に声をかける上野監督(撮影・杉園昌之)

第96回東京箱根間往復大学駅伝競走予選会

10月26日@東京・陸上自衛隊立川駐屯地~立川市街地~国営昭和記念公園
23位 立教大学 11時間23分49秒

報道陣、観客、チーム関係者などでごった返す国営昭和記念公園の一角で、伝統ある「紫の旗」がいくつもなびていた。応援に駆けつけたOB、OGも多く、期待の大きさがうかがえた。立教大を率い、初めて箱根駅伝の予選会に挑んだ上野裕一郎監督は、厳しいレースを終えた選手たちを一人ひとり出迎えて、声を掛けていた。

「経験、経験。来年は走り方を変えてみよう」

教え子たちを励ます指揮官の顔には悔しさもにじんでいた。10人が必死に走った合計タイムは11時間23分49秒。目標の20位に少し届かない23位だった。「選手たちはよくやってくれましたが、これがいまの実力です。もっと長い距離を踏ませれば、もっと走れました」

2024年の出場を目指して、長期プランで取り組む

現役時代には中央大の主力として、4年連続で箱根駅伝を走り、3年生のときには3区で区間賞も獲得。実業団のエスビー食品、DeNAでも活躍し、昨年12月から学生駅伝の舞台に監督として戻ってきた。古豪復活を託された34歳は、腰を据えてじっくり指導している。最大のミッションは、2024年の箱根駅伝出場。5年後に創立150周年を迎える立教大の記念事業でもある。第100回の記念大会で1968年の第44回大会以来となる本戦の切符を勝ち取るべく、長期プランでチームをつくっている。「いきなり選手を強くできる監督はいません。立教は立教のやり方でやっていきます。(強くなる)近道を教えるのが僕の仕事です」

スタート前、リラックスした表情で話す上野監督(撮影・藤井みさ)

今季は故障のリスクを考えながら、スタミナを強化してきた。練習量は増やしたが、決して無理させていない。いまの選手たちと向き合いながら能力を引き出した。レース途中から20度を超える気温の中でも、一人の棄権者も出さずにまとめたのは一つの収穫だった。

「昨年、このコンディションで走っていれば、72分台の選手がいたかもしれません。9番、10番の選手も70分台に乗りました。きょうの気温を差し引くと、予定どおりのタイムで入ってくれてます。来季はけがを怖がらずに(練習から)攻めてみようと思います」

「もう一つ上へ」選手たちの意識の変化

チーム1番手で全体では126位でフィッシュした斎藤俊輔(2年、秦野)は、上野監督の指導で最も変化したのは意識だという。「もう一つ上を目指そうという気持ちが出てきました。そこが一番変わったところです。自主練習も増えました。それが結果的に自己ベストの更新につながったと思います」。上野監督が潜在能力を認める斎藤は、ハーフマラソンの自己記録を約2分半も短縮した。それでも「65分台に乗せたかった。10km過ぎからきつくなり、耐えるのがいっぱいいっぱい」と満足しないところも変化の表れだろう。

最後の立川で初めて悔し涙を流した栗本一輝(4年、立教新座)は「これまでとは本気度が違った」と唇をかんだ。15km付近までは限界を超えても突っ込み、ラストで足がつった。懸命に粘ってゴールしたものの、総合171位の1時間6分43秒。チームでも2番手となり、目標にしていた関東学生連合のメンバー入りは現実的に難しくなった。「絶対に入ってやるという気持ちで臨んでいたので、悔しかったです」。この予選会に懸けていたのだ。「いままでは立教記録が目標でしたけど、順位を上げないと何の意味もないなって。試合では外せない、結果を出さないとダメだぞ、と思うようになりました」

栗本は全力で走り、悔し涙を流した(撮影・藤井みさ)

勝負にこだわるようになった男の顔は精かんだった。個人目標は達成できなくても、チームとして成長できたことは財産になったようだ。「チーム順位は23位でしたけど、僕はすごくうれしかった。昨年は28位でしたし、正直一つ上げるのも無理かなと思ってました。他校の選手たちのタイムを見ると、勝てる気があまりしなかったので。それが、5つも順位が上がりましたから」。悔いはない。上野監督と出会い、大学駅伝の本当の厳しさを知り、見える景色が変わった。「次の4年生には、いいチームをつくってほしい。来年の予選会は応援に行きます」

来春には選手寮が完成し、上野監督がスカウトしてきた有力な選手たちも入学してくる。箱根駅伝を目指す本格的なチャレンジはまだ始まったばかり。今春卒業していく4年生たちも、立教の復活物語を楽しみにしている。

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