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関学アメフト阿部拓朗 自分の殻を破った副将、関関戦で持ち前の勝負強さ発揮

関大戦に勝ち、応援席を見上げる阿部(撮影・安本夏望)

アメフト関西学生リーグ1部 第6節

10月27日@神戸・王子スタジアム
関西学院大(6勝)17-3 関西大(4勝2敗)

関西1部第6節の2試合が10月27日にあり、関学が関大を17-3で下した。関学は唯一の6戦全勝で、最終節を残して2年連続57度目のリーグ優勝を決めた。ただ最終節の立命館大戦に負ければ同率優勝となり、立命が1位通過で甲子園ボウルの西日本代表を決めるトーナメントへ進む。最初の大一番となった関関戦では、ようやく吹っ切れた副将が持ち前の勝負強さを発揮した。

QB奥野との抜群のコンビネーションでTD

どちらも攻めきれず、ロースコアの展開になった。第4クオーター(Q)2分45秒、関大のフィールドゴール(FG)成功で3-3の同点に。直後の関学オフェンスが勝負の行方を決めた。3度の第3ダウンをクリアして、ゴール前14ydへ侵攻。RB齋藤陸(2年、江戸川学園取手)が粘りのランで9ydをゲイン。ゴール前5ydからの第2ダウン1ydを迎えた。

ボール位置は右のハッシュ上。WRの阿部拓朗(4年、池田)だけが右サイドラインから9ydの位置にセット。残りの10人はボールの付近に固まった。ブロッカーを増やし、ランプレーの雰囲気を強く出した。QB奥野耕世(3年、関西学院)はプレーが始まる直前、阿部の近くにいた関大のDB坊農堅吾(3年、関大第一)が、自分の方へ寄ってきたのを見ていた。「よし、1対1や」。プレーコールは阿部へのパスだった。

QB奥野が浮かせたパスを、しっかり両手に収めた(撮影・松尾誠悟)

プレーが始まる。奥野は阿部と、彼の前にセットした関大DB政岡和志(4年、豊島)のマンツーマン勝負を凝視。阿部が細かいステップを踏みながら、ほんの一瞬だけ、左にいる奥野の方へ顔を向けた。つられて政岡も奥野の方を見る。政岡の足が止まった。その瞬間、奥野はエンドゾーンの右奥へ浮かせたパスを投げ、阿部は政岡の裏へ走り込んだ。政岡の頭を越えたボールが、阿部の両手に収まった。絵に描いたようなタッチダウン(TD)だ。10-3。ようやく奪った7点が試合の流れを決めた。奥野は右腕を空に突き上げ、叫んだ。阿部は両腕を広げ、静かに喜んだ。「耕世が信頼して投げてくれました。『ごっつあん』で、もらっただけです。オフェンス全体でとった1本やと思ってます」。謙虚に言った。

阿部は昨年の関大戦でも奥野からのTDパスを受けた。7点を追う状況から、試合残り5秒で引き分けに持ち込む一発だった。そしてこの日も、ここ一番での勝負強さを発揮した。ずっと繰り返し練習してきたパスだった。ゴール前に迫ると奥行きがなくなり、パスを決めるのは難しくなってくる。それでも歴代の関学のQBは、このパスを得意としてきた。奥野は決めたことがなかったが、練習で阿部とのコンビネーションを磨き、大事な場面で決めた。

試合前に集中力を高める阿部(最前列の左から2人目、撮影・安本夏望)

控え目で口下手な男が、腹をくくって副将に

関学の4回生に阿部の性格について聞くと「控え目」「口下手」と口をそろえる。そんな阿部が副将を務めている。当初は、阿部以外の5人で今年の幹部が決まる予定だった。それに異を唱えたのが大村和輝アシスタントヘッドコーチだ。「なんで手ぇ挙げへんねん」と、阿部に問いかけた。「ワイド(パッシングチーム)の全責任を奥野に負わせるつもりか?」。阿部は腹をくくった。大村コーチも、阿部が「控え目」で「口下手」なのは分かっていた。それでも「役割が人を育てる」という期待を込め、阿部を担ぎ上げた。

ブレイクした昨年は、多くの先輩に支えられた。QBの光藤(みつどう)航哉(現・オール三菱ライオンズ)やWRの松井理己(りき、現・富士通フロンティアーズ)といった4回生にかわいがってもらった。「先輩たちは偉大やし、楽にやらせてもらってました」と振り返る。談笑しながら試合会場へ行き、楽しんでのびのびプレーしていればよかった。だが、今年は違う。4回生、そして副将という責任が重くのしかかった。秋のシーズンに入って第4節までTDゼロ。ようやく第5節の近大戦で二つのTDを決めた。「ずっと葛藤はあったし、焦りもあった。でも近大戦のTDで、自分にとって活躍することが大事って気づけました」

9月29日の神戸大戦後、4回生の輪の中で涙ながらに語った阿部(撮影・安本夏望)

神戸大戦後に涙の訴え、役割が人を変えた

17-15と大苦戦した第4節の神戸大戦。試合後、関学の4回生たちが王子スタジアムのフィールド上で小さく輪になり、幹部の6人が思いを口にした。阿部は泣きながら仲間に訴えかけた。感情むき出しで語る阿部の言葉に、仲間たちは引き込まれた。同じポジションのある選手は「ずっと苦しんでたけど、しゃべって伝えられるようになったし、頼りになる存在です」と言う。プレーでも、言葉でも引っ張れる副将になった。確かに役割が人を変えた。

関学は1試合を残してリーグ優勝を決めた。だが、甲子園ボウルの西日本代表を決めるトーナメントに負担の少ない「1位」で進出するためには、最終節で立命に勝たねばならない。阿部は鋭い目をして言った。「立命に勝って1位で抜けて、日本一を目指します」

関学ファイターズには、自分の殻を破り、たくましさを増したエースレシーバーがいる。

支えてくれる人たちの思いも背負って立命戦に臨む(撮影・安本夏望)

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