大学アメフト

春から消防士の法政アメフトOB髙橋悟、たった一人「無所属」で日本代表入り

LBでもDBでもプレーできる器用さも買われての代表選出だった(すべて撮影・北川直樹)

アメフトの日本代表とTHE SPRING LEAGUE選抜との国際試合が3月1日、アメリカのテキサス州フリスコ市で開催される。2015年以来となる日本代表をつくるためのトライアウトで55人の代表候補が選ばれ、練習を経て45人の代表メンバーが決まった。社会人Xリーグの選手が42人、大学生が2人。ただ一人「無所属」の選手がいる。DB(ディフェンスバック)で選ばれた髙橋悟(さとる、25)だ。彼はこの春、消防士になる。 

抜群の速さとセンス、富士通でも最初から活躍

髙橋は法政大学を卒業した2017年に富士通に入社し、18-19年シーズンまでの2シーズンをフロンティアーズの一員として過ごした。大学まではLB(ラインバッカー)だったが、富士通ではDBとしてもプレー。抜群のスピードとセンスで活躍した。 

トライアウトを突破して代表候補になれるとさえ思っていなかった

姉と兄を持つ3人きょうだいの末っ子として育った。父の昭さん(58)は神奈川の県立高校の教諭としてアメフト部の顧問(港南台、横浜立野を経て現在は横浜栄)を務めてきた。3歳上の兄である誠さんは横浜南陵高から日体大に進み、現在はXリーグのオービックでDL(ディフェンスライン)としてプレーしている。アメフト一家だ。髙橋は小学生の夏休みのある日、兄とともに父の勤務先の高校に連れて行かれたのを覚えている。父が指導していたアメフト部のお兄さんたちと一緒にプールで遊んだ。「あまり覚えてないんですけど、体ががっちりしててカッコいいなあと思いました。あと、マネージャーさんがすごく優しかったのを覚えてます」 

神奈川の県立高校でアメフトの指導にあたってきた父の昭さん

父は、週末も熱心にアメフト部の練習に出ていたが、休みがあればいろんなところへ連れて行ってくれたため、寂しい思いをした記憶はない。「小さいころに高校の部活に連れて行ってもらえたのは、楽しかったですね。アメフトの指導は厳しかったようですが、家ではとても優しい父親でした」と髙橋。末っ子は父から「アメフトをしろ」と言われたことはなかったが、高校受験にあたり「この学校はアメフト強いよ」と、さりげないアドバイスはあった。中学まではサッカーをしていたが、兄も高校でアメフトをしたため、自然とアメフトに興味が向いた。サッカーとはまた違った激しさにも魅力を感じたという。 

父の率いる高校と対戦、家でダメ出し

そんな経緯もあって、法政二高でアメフト部に入った。父の高校と対戦することもあった。「試合後にチームのミーティングを終えて家に帰ると、またダメ出しされて……。それが嫌だったんですけど、途中から察してくれたのか、言われなくなりました」。笑いながら高校時代を振り返る。大学では4年生で副将を務めた。学生日本一を決める甲子園ボウルには1度も出られなかった。「上の代は甲子園に出てましたし、ずっとチームが日本一になることしか考えてなかった。でも自分たちは甲子園に行けませんでした。だから社会人では日本一になりたくて。それで富士通でアメフトをすることにしました」

フロンティアーズでは1年目から主力として試合に出て、日本一に。チームで最も活躍した新人に贈られる「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」を受けた。次のシーズンもライスボウルで勝って日本一になると、アメフトに一つの区切りをつけた。「高校からずっと夢だった日本一になると、なんだか満足してしまって。新しいチャレンジをしようと考え始めました」。転職を考えた。幼いころから持っていた消防士になる夢を追いかけることにした。体を使った仕事がしたいという思いがあった。2018-19年のシーズンが終わると会社をやめ、半年間勉強して、消防士の採用試験に受かった。

退社して消防士の試験に受かり、アメフト再開

たった一人「無所属」の選手として日本代表に入った

その後、富士通のコーチから「時間あったらスカウトチーム(仮想敵の役目)を手伝ってほしい」と頼まれた。髙橋は「僕自身もアメフトがやりたい気持ちがあったのでありがたかった」と練習に顔を出すようになった。試合ではチームのサポートに回った。そんなとき、今回のアメリカとの国際試合が決まり、5年ぶりに日本代表が結成されることになった。「富士通の関係者の方に、ダメ元で自分もトライアウトを受けられないかどうか聞いてみたんです。無所属でも大丈夫ということで、受けることにしました」。代表チームは登録人数がグッと絞られるため、複数のポジションで出られる選手が重宝される。髙橋はディフェンスのLBDBができる器用さも買われ、45人の中に選ばれた。 

「ずっとチームで勝つことだけ考えてたから、代表にはとくに興味がなかったんです」と語る髙橋にとって、人生初の日本代表。春から消防士になる男のもう一つのチャレンジだ。春以降は仕事の関係でアメフトを続けられるかどうか分からない。

髙橋悟は最初で最後の覚悟を胸に、海を渡る。

春以降はアメフトを続けられるかどうかも分からない

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