アメフト

「日本代表なんか想像もできんかった。人生変わりました」天理大アメフトOB森田恭平

森田は天理大時代は想像もしなかったステージに立っている(すべて撮影・北川直樹)

アメフトの日本代表とTHE SPRING LEAGUE(TSL)選抜との国際試合が3月1日、アメリカのテキサス州フリスコ市で開催される。2015年以来となる日本代表をつくるためのトライアウトで55人の代表候補が選ばれ、練習を経て45人の代表メンバーが決まった。その中に、大学の4年間ずっと関西学生リーグの3部でプレーしていた男がいる。

 関西3部の天理大から、強豪の富士通へ

天理大学アメフト部「クラッシングオークス」のOBで、富士通フロンティアーズのWR(ワイドレシーバー)である森田恭平(26)だ。富士通は森田が入ってからずっと日本一で、来シーズンは5連覇がかかっている。そして森田にとって人生初の日本代表にも選ばれた。彼は本当に驚いたような表情になって言う。「大学時代には想像もしてなかった世界に来ました。人生変わりました」 

双子の弟は、高校の先生をしている

森田は三重県伊賀市出身。これを私に伝えるとき、森田は「忍者で有名な伊賀です」と言いながら、両手を前に組む忍者のポーズをした。おもろい男だと思った。二卵性双生児の兄として生まれ、小2から地元の少年野球チームに入った。いま身長185cm、体重80kgの堂々たる体格の森田だが、中1のときは140cm。中学の3年間で30cm伸び、高校で10cmあまり伸びたという。 

中学校でも学校の部活動で軟式野球に取り組み、三重県立上野高校でも野球部。ピッチャーやキャッチャーもやったが、最後は外野手で落ち着いた。2年生の夏の三重大会でベスト4。これが最高で、3年生の夏は初戦で宇治山田商に1-6で負けた。森田は6番ライトで先発し、3打数1安打だった。 

野球から転向、ハーフタイムまで休めず

忍者の街を離れ、天理大学の体育学部に進んだ。野球部はレベルが高く、練習見学にも行かなかった。大学から始める人が多いと聞いたアメフト部を見にいってみることにした。漫画『アイシールド21』は中学校のころに読んでいた。「カッコいいなと思ってました。練習に行ってみると、みんなが真剣にやってるのが伝わってきました」。入部を決めた。当時関西学生3部にいたチームの選手は、多い年でも4学年合わせて30人ほど。パスの受け手であるWRになった森田だったが、DB(ディフェンスバック)も兼任で、キッキングゲームでもフル稼働。3回生の秋のシーズンは、試合が始まったらハーフタイムまでベンチに戻れなかった。レシーバーとして練習を重ねるうち、40yd46の俊足と背の高さで勝負すれば勝てる自信がついた。DBを抜き去ってパスを受け、タッチダウン(TD)するのが最大の喜びだった。 

天理大時代からキックのときのホルダーも務めてきた

森田にとって大きかったのが、3回生と4回生の春に参加した「ニューエラボウル」だ。関西学生連盟所属のチームから選ばれた選手とアメリカのNCAA加盟校からの招待選手がジョイントして戦うオールスターゲーム。2017年まで開催されていた。この試合に向けての練習や本番で、これまでテレビの中でしか見たことのなかった大学トップレベルの選手たちのプレーを目に焼き付けた。とくに関西学院大のWR梅本裕之、木戸崇斗(現パナソニック)や横山公則(現エレコム神戸)は、うまかった。「リリースの技術、ルートのとり方、ブレイクのテクニック……。いろいろ差を感じました。高いレベルの技術を徹底してやり続ける力がすごいと思いました」 

天理大時代、チームのGMのおかげで人生が変わった

天理大のGMが富士通に売り込んでくれた

森田の人生の一大転機は、4回生になる少し前にやってきた。チームのGMで車椅子フットボールの普及に取り組んでいる糸賀亨弥さんが、富士通フロンティアーズの関係者と出会ったときに、森田の存在を売り込んでくれたのだ。すると「新人選手のトライアウトがあるから、受けてみたらどうですか?」という話になったそうだ。糸賀さんから話をもらった森田は驚いた。関西の3部でやってる自分が、あの強い富士通に入れる可能性があるんか。挑戦を決めた。 

3回生の2月にあるトライアウトに向け、シーズンオフの期間も体を動かした。ただ、森田と同じ代からはすでに何人もフロンティアーズに入ることが決まっていて、20人ほどが参加するトライアウトからの入部者はゼロになるかもしれないと聞かされていた。それでも「可能性がまったくないわけじゃないんやから」と思えた森田は強かった。トライアウトの種目の練習を重ね、運命の日を迎えた。 

天理大で教育実習の説明会を受けているとき、電話がかかってきた。いま富士通のヘッドコーチを務める山本洋さん(当時はコーチ)からだった。トライアウトに合格したと聞き、頭の中が真っ白になった。「もう、全部飛びました」。糸賀さんが話を持ってきてくれるまでは考えもしなかった強豪チームへの道が、通じた。天理のチームメイトたちに言うと、自分のことのように喜んでくれた。 

レシーバーをやる上で、スピードと高さが森田の武器だ

母校での教育実習は気まずかった

母校の上野高校での教育実習では、性教育の授業が気まずかったのを覚えている。「高2の春の保健体育って、ちょうどその分野なんです。ただでさえ緊張してるのに、そういう内容で……。難しかったです。先生の大変さを実感しました」。森田が苦笑いで振り返る。 

そして最後の秋のシーズンを迎えた。天理は関西3部のBブロック(天理含めて6校)。入学以来の目標である2部昇格にかけていた。森田はオフェンスリーダーとしてラストシーズンに臨んだ。リーグ初戦の和歌山大戦が24-212戦目の岡山大戦は14-13と接戦を勝ちきった。「あの2試合で勢いに乗れたのがよかったと思います」と森田。どのチームにも徹底マークを受けたが、持ち前のスピードと高さで捕りまくった。5戦全勝でブロック優勝を果たし、2部からの自動降格する大学があったため、悲願の2部昇格を果たした。 

森田にとってリーグ最終戦の大阪経済大戦が印象深いという。18-9で勝ち、森田はパスキャッチで二つのタッチダウン(TD)を決めた。二つ目のTDは、1学年下のQBと練習に練習を重ねたパスだった。第4クオーター早々に7-9と逆転された状況。こういうときのため、一発で試合の流れを変えるパスを用意していた。右の一番外のレシーバーに森田。ランプレーのフェイクで、森田は内側の選手をブロックしにいくふりをする。相手のディープゾーンを守る選手がランの動きにつられ、足が止まったのを森田は見た。内側に向かっていたコースから、一気に外へ。相手はついてこられない。そこへ後輩からのパスが飛んできた。右のサイドライン付近で大事にキャッチし、エンドゾーンまで駆け抜けた。これが決勝点になった。「相手がどう動いてくるか分からないので、いろんなパターンを考えて練習してました。後輩のQBにはいろんな注文をつけたんですけど、ちゃんとついてきてくれた。あれが決まったのはいい思い出だし、ほんとにうれしかった」

バードソンが投げてくれて、世界が変わった

2部昇格というチームの悲願をなしとげ、次は富士通での挑戦が始まった。「有名人ばっかりのとこに、知らんことばっかりの自分が行って大丈夫かな」。不安だらけで3月末から練習に合流した。でも、森田がテレビで見ていた人たちは、優しかった。藤田智ヘッドコーチ(当時)を始め、誰もが細かいところから全部、教えてくれた。大学時代は土のグラウンドだったから、人工芝の上で練習できるのがうれしかった。 

当時の富士通のQBはコービー・キャメロン。日本人のQBだと山なりのボールになってしまう距離でも、ビュンと飛んでくる。まさにカルチャーショックだった。「それもえげつなく捕りやすいボールで。衝撃でした」。社会人1年目は、鎖骨を2度折った。試合には、点差が開いたら出してもらった。ただ、キャメロンはあまり森田に投げてくれなかった。信頼を築くには至らなかった。 

富士通に入ってからも、大きな転機があった

転機は社会人3年目の2018年。キャメロンがチームを去り、何人かの外国人QBが富士通に入るため、春の練習に参加していた。その中にマイケル・バードソンという男がいた。彼は森田にどんどん投げてくれた。「バードのおかげでタイミングがつかめたし、気持ちの面で変わりました」。結局バードソンがチームに加わり、彼とのコンビでTDパスも捕れるようになった。「大学のときは足の速さだけでやってたのが、しっかり相手のカバーを読んでルートのとり方を変えられるようになったし、マンツーマンを打ち破るテクニックも使えるようになりました」。ジャパンエックスボウルやライスボウルといった、大学時代にテレビで見ていた試合でも活躍できるようになった。まさに、夢の世界にたどり着いた。 

そして「いまの自分の力がどれだけなのか試そうと思った」と、今年21日の日本代表トライアウトに参加。しっかりと日本代表の45人に残った。「前は想像もしてなかったところまで来ましたけど、これで満足したらダメだなと思ってます。しっかりアメリカに勝たないと」 

社会人でもアメフトを続けてほしい

初めての日本代表との試合、森田にしかできないことがある

目前に迫ったTSL選抜とのゲームで、森田にしかできないことがある。「大学時代に3部でやってても、日本代表に入ってしっかりやれるってのを証明したい。球際に集中して、自分の強みであるスピードと高さを生かしてキャッチします。レシーバーは捕れば勝ちだと思うので。いま大学の下のリーグでやってる子も、社会人でアメフトを続けてほしい。上の世界に挑戦してほしいんです」 

初の日本代表で臆することなくプレーし、自分と同じ立場にいる大学生たちの背中を押せるか。 

日本代表の練習後、ハドルの中で話す先輩の話を聞く森田

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