陸上・駅伝

國學院大陸上部の新主将に新3年の木付琳「歴史を受け継ぎ、自分たちの力も示す」

土方と同じ「3年生キャプテン」を務めることになった木付。どんなチームを作っていくのか楽しみだ(撮影・藤井みさ)

國學院大學陸上競技部は2019-20年の駅伝シーズンで、「歴史を変える挑戦」のスローガンのもと、出雲駅伝で初優勝、箱根駅伝は史上最高の総合3位と旋風を巻き起こした。新チームの主将には、新3年生の木付琳(きつき・りん、大分東明)が就いた。

土方と同じ3年生キャプテン誕生

卒業していく土方(ひじかた)英和(4年、埼玉栄)は、3年生のころから2年間キャプテンを務めた。木付は土方と同じく、3年生キャプテンとしてチームをまとめることになる。土方と木付はこの一年、寮で同部屋だった。土方からは昨年の夏ごろに「もしかしたら、お前(がキャプテンを)やるかもしれないから」と言われ、心の準備はずっとしていた。この1月、新チームが始動するタイミングで、前田康弘監督(42)からキャプテンに任命された。

前田監督、土方からの期待に応えたいと意気込みを語る(撮影・藤井みさ)

木付は土方から、さまざまなことを学んだ。「言うべきことはしっかりと言う、時には強く言う。自分に対してもそういう指導をしてくれて、陸上に対する熱い思いを競技面からだけじゃなくて、生活面からも感じました」と木付。前田監督は、木付をキャプテンにすることは1年前から考えていたという。土方も木付の人柄を見込んで、前田監督に「自分に預けてください」と申し出た。木付は「うれしいし、期待に応えたいと思いました。恩返しする場は箱根駅伝しかないんじゃないかと思って、襷(たすき)はつなげなくても(土方さんと)絶対に一緒に走りたい、という思いがありました」と明かす。

初の箱根駅伝で感じた力不足

実際にチーム内のメンバー争いで木付は力を示し、箱根駅伝7区(21.3km)で学生三大駅伝デビューを果たした。1時間4分31秒で区間11位。「走る前に緊張はあまりなくて、けっこう自信もあった」と口にするが、レースで20km以上の距離を走るのはこれが初めてだった。「後半の5kmは力が足りなくて、ラスト3kmぐらいのところで足がつりそうになってしまって……。走り切ることはできたんですが、まだまだ力のなさを感じたレースでした」と振り返る。

最後は足がつりそうになりながらも走りきった(撮影・松永早弥香)

当日は土方と浦野雄平(4年、富山商)が給水をしてくれた。土方は始めから「木付に給水する」と約束してくれていた。「でも、浦野さんはそういうキャラじゃなくて。直前に『復路の日、俺、することなくて暇なんだよね』って言ってきたので、『給水やってくれるんですか?』って聞いたら『いいよ』って言われました」。木付は思い出し笑いをしながら話した。國學院を引っ張るふたりからの給水が、木付を勇気づけたのは間違いない。

監督の思いに好結果で応えたい

木付はもともと野球少年で、高校でも続けるつもりでいた。中学生のとき、いろんな運動部の選手が出場する駅伝大会に出て、区間3位で走った。その駅伝に大分東明高校陸上部の監督がスカウトに来ていて、話をもらったという。「もともと走るのも好きで、冬のランニングも苦ではなかったんです。ギリギリまで悩んだんですが、新しい可能性にかけるのもありなんじゃないかなと思って」と、高校から陸上を始めることにした。今年の箱根駅伝で中央学院大の8区を走った藤井雄大(4年、大分西)は中学校の野球部の先輩で、当時からふたりで率先してランニングに取り組んでいたそうだ。

國學院を選んだのは、前田監督の熱い思いが胸に響いたからだ。「自分がけがをして走らない大会にも足を運んでくださったり、何度も大分に来てくださって。『お前の力が今後絶対必要になる』と言ってくださいました。いままでそんなに人に求められることがなかったので、とても心に響いて。結果でしっかり返していきたいと思いました」

小田原中継所では同級生の島崎慎愛との襷リレーだった(撮影・佐伯航平)

大学に入ると、早く結果を出したいという思いが気負いにつながり、けがをしてしまう。「1年生のときは本当に走れなくて、練習もできませんでした」。2年生になり、「新入生と同じ気持ちでもう一回やろう」と決め、新入生と同じレースに出場し、コツコツと実力をつけてきた。土方からの生活面、ケアについてのアドバイスもしっかり守り、2年目のシーズンは大きなけがなく箱根まで走ってこられた。

全員で自分たちの力を証明する

昨シーズンの好結果で、國學院は一躍注目チームの仲間入りをした。そんな集団を率いる新キャプテンとして、どのようにチームを作っていきたいかと聞いてみた。「戦力が落ちるということは周りからも言われていて、自分たちも分かってます。だからといって弱気になってしまっては、たとえ来年(の箱根駅伝で)シード権を取れたとしても、達成感がないんじゃないかなって思います。(4年生が抜ける)穴を全員の力で埋めていって、自分たちの力を証明したいです」

新チームのスローガンは「覚悟と証明」「歴史を継承し新たな未来へ」。木付は「いい取り組み、考えはしっかり受け継いで、現4年生のことを知らない新入生たちにもしっかりつないでいけるように。自分たちの色も出しつつ、歴史を受け継いでいけたらいいなと思っています」と、スローガンに込めた思いを語る。

3年生キャプテンとして、場合によっては上級生にも注意をする立場となる。「まだ、あんまり慣れてないです」と木付。「土方さんからも話を聞いて、しっかり上の学年との連携も大切にしていきたいと思います。言わないといけないときも出てくると思うので、しっかり自分を持って接していこうと思います」

義兄・源田壮亮さんからのアドバイス

木付の姉は、元アイドルグループ乃木坂46の衛藤美彩さん(27)。昨年、衛藤さんが結婚し、プロ野球埼玉西武ライオンズの源田壮亮選手(27)が義理の兄となった。奇しくも今年、源田選手もチームのキャプテンを務める。競技は違うが、トップレベルのアスリートの話は木付にも刺激になっているようだ。食事をともにする機会もあり、源田さんからこんなアドバイスを受けた。「気負わずに、しっかり自分の思ったことをちゃんと伝えていけば、絶対にチームはいい方向に行く。先輩たちの真似をするんじゃなく、受け継ぎながら自分の色を出していったらいいんじゃない?」

木付を含め新3年生は4人が箱根駅伝を走った。全員で上げていこうという意識は高い(撮影・藤井みさ)

木付は「中学まで野球をやっていたこともあって、あこがれの選手でもあります。日々のちょっとしたことや体調管理など、当たり前のことを当たり前にやる大切さも学びました」と、源田さんに感謝する。

2月の丸亀ハーフで、狙って自己ベスト

2月2日の丸亀ハーフマラソンが、木付にとって土方とともに走る最初で最後のレースになった。土方が2年生のときの丸亀で62分台を出したことを踏まえ、自分も62分台を目標に置いて走り、62分42秒の自己ベストが出た。新主将として言葉だけでなく競技面でも好結果を出し、チームを引っ張る一歩を踏み出した。

同学年には藤木宏太(北海道栄)がいる。すでに同世代の先頭に立って実績を積み上げている藤木の存在は大きい。「でも、そこに頼っていては今年も、来年も戦えません。世代のトップが同級生にいることで、学年としての意識が上がってます」。木付にはチーム全体の底上げへの意識も強い。目標は自分たちが4年生のときに箱根駅伝で総合優勝すること。歴史を受け継ぎ、新たな未来へ。新主将のもと、國學院大の新たな挑戦が始まっている。

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