陸上・駅伝

都立からやってきた駒澤大陸上部の新主将・神戸駿介 覚悟を持って頂点狙う集団に

キャプテンとして、1人の競技者として、思いを語ってくれた神戸(撮影・藤井みさ)

駒澤大学陸上部は今年の箱根駅伝で総合3位を目標に掲げていたが、8位に終わった。新チームの主将になったのは、神戸(かんべ)駿介(3年、都立松が谷)だ。

一般推薦で入部、コツコツ努力重ねた

東京で生まれ育ち、中学から陸上を始めた神戸。「決して強い選手ではありませんでした」と振り返る。進みたい私立高校があったが条件が合わず、都立の中では陸上の強かった松が谷高校へ。いまはJR東日本陸上部の監督を務める大島唯司氏のもとで陸上に取り組み、力をつけた。当時の5000mのベストは14分44秒。「強くてかっこいい」とあこがれていた駒澤大にスポーツ推薦では届かず、一般推薦で入学した。「最初はもともと強い選手ばっかりで、ちょっといづらいなと感じたこともあったんですが、2カ月ぐらいしたらあんまり気にならなくなりました。入ってしまったら、あまり入り口は関係ないかな、という感じです」

高校のころから全国レベルで活躍していた選手とも切磋琢磨(せっさたくま)し、着実に力をつけてきた。順調に練習を積んで、昨年の9月には5000mで13分58秒02の自己ベストをマークし、13分台ランナーの仲間入りをした。

苦しい走りになった二つの駅伝

そして昨年11月、3年生の全日本大学駅伝で三大駅伝デビューを果たす。しかも各校のエースが集う3区を任されたが、区間16位と苦しい走りだった。走り始めてすぐに足をひねるアクシデントがあったが、その影響ではないという。「駅伝が初めてだったので、正直走り方が分かってなかったところがありました。前半から自分が思ってた以上にキツくて、突っ込むような走り方に飲まれて……。どんどん抜かれて、焦って自滅した感じですね。それまでの記録会や大会などではうまく走れていたんですけど、絶対的な自信みたいなものがなくて、うまくごまかしていた部分が大きい舞台で出てしまったなと思います」

全日本大学駅伝での神戸。前半突っ込みすぎて、体が耐えきれなくなってしまったという(撮影・藤井みさ)

続く箱根駅伝では9区を任されたが、リズムに乗り切れずに区間13位。「全日本のこともあって、前半は抑えめでいったら流れに乗れず、タイムも出ませんでした。慎重になりすぎました」。8位で受け取った襷(たすき)だが、一つ順位を落としてしまった。「うしろと1分以上の差があったのに追いつかれてしまって、まずいなという感じでした。仲間にも申し訳ないし、情けないなと」

3年生にして初めて経験した神戸の三大駅伝は、二つともほろ苦いものとなってしまった。「(トラックの)試合だけ見ると順調にいってるように見えますが、本当に大事な部分がまだまだ足りないなというのは確認できました。筋力もないので、差し込みがきてしまったりとか。人一倍ケアしていかないと高いレベルでは戦えないですし、いま自分がそういう段階にいるんだなということも実感してます」。つかんだチャンスを生かしきれなかった。だからこそ、ここから挽回していきたいという気持ちが前に出てくる。

最上級生となる新シーズンは、もっと結果を出していきたい(撮影・安本夏望)

生活や姿勢の面からまとめ、士気上げる

駒澤大では例年、箱根が終わった直後に大八木弘明監督が次のキャプテンを指名する。神戸は昨年も学年リーダーを務めていたので、「自分がキャプテンになるのかもしれない」という予感をずっと持っていた。「だから(前主将の)原嶋(渓)さん(4年、刈谷)のことはよく見ておこうと思ってましたし、ある程度心構えはありました」と語る。

「平成の常勝軍団」と呼ばれた駒澤大だが、近年は三大駅伝優勝から遠ざかっている。神戸は言う。「なかなか結果が出てない中で、生活とか姿勢の面でまとめてほしいという意味を込めて自分(が主将に)になったと思っているので、期待を裏切らないようにしたいです。結果だけでなく、チーム全体の士気を上げてほしい、というのが監督の言いたかったことなのかなと思います」

全員で頑張ろう、という雰囲気を作り出したいと神戸は言う(撮影・藤井みさ)

キャプテンとして心がけていきたいことを尋ねると「全員で頑張ろうという雰囲気を作り出すためにも目を配っていきたいです。生活面でも、これだけ人数がいれば問題もあるので、目にした問題にはすべて対応していくようにしてます。全員が同じ方向に向くことは難しいと思いますが、競技に集中できるような雰囲気作りをしていきたいです」。早くもキャプテンらしい頼もしさを感じさせる。一つ上の学年はまとまっていて、戦う姿勢がしっかりあったと神戸は感じていた。「それをしっかり受け継いでいきたいです。僕らの代は最初はバラバラだったんですけど、共同生活をする上で『最後は笑って終わりたいよね』という雰囲気になってきてると思います」

「原点と新化」をスローガンに

新チームのスローガンは「原点と新化~覚悟を持って頂点へ~」。新4年生で決めた。「新化」には高速化する駅伝など、年々変わってくるレース、その波に乗っていけるようにという意味がある。「覚悟を持って頂点へ」は、一人ひとりが覚悟を持ってやらないと、頂点にはたどり着けない、という思いが込められた。「箱根駅伝で8位だったチームが頂点を目標にするのはどうなんだ」という声はあった。それでも「やるからにはやる」と、この言葉でまとまった。

「頂点」は三大駅伝すべての目標ですか? 「まずは一つひとつ力をつけて狙っていく感じ」と説明してくれた。3位以内は最低限。その中で優勝を狙う、という意気込みだ。

4月には5000m13分台の記録を持つ選手ら、強力な新入生が入ってくる。「危機感を持ってやらないといけないです。去年も田澤(廉、青森山田)を筆頭に1年生が強くて、駅伝にも絡んできたので、今年もみんな気は抜けないという意識を持ってると思います。1年生も活躍できる環境なので、お互い刺激し合えれば。走りでは頑張ってもらって、生活は和を乱さない程度にうまくコントロールできればなと考えています」

人生の中でいちばん頑張る一年に

昨シーズンの二つの駅伝の結果で「信頼を失ってしまった」と神戸。「一つひとつの試合や練習でいい結果を残して、自信をつけていきたい」と前を向く。10000mなら28分台、ハーフも62分30秒をコンスタントに出して安定感を出していきたい。新チームが始動して初めて臨んだのは2月の青梅マラソン(30km)。神戸は1時間32分37秒で5位。拓殖大の赤崎暁(4年、開新)に次いで学生では2位だった。学生トップを目指していたので目標達成とはいかなかったが、着実に高いレベルでの戦いができている。

「だらだら過ごさず、人生の中でいちばん頑張る一年、というぐらいの意気込みでいきたい」と意欲を語ってくれた神戸。平成から、令和の常勝軍団へ。たたき上げの主将が引っ張っていく。

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