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情熱は絶対に伝染する アメフト日本代表主将・近江克仁3

今年1月に退職し、近江はフットボールにかけている(提供写真以外は撮影・北川直樹)

今年2月、アメリカンフットボールの日本代表が5年ぶりに結成された。31日のアメリカでの国際試合に向け、主将を務めたのは24歳のWR(ワイドレシーバー)近江克仁(おうみ・よしひと、立命館大~IBM)だった。近江は大手損保会社に勤務しながら社会人Xリーグのクラブチーム、IBMビッグブルーでプレーしてきたが、今年1月に退社。日本人初のNFL選手を目指して、フットボールにかけている。連載の最終回は日本代表での取り組みについてです。

 有給消化の間、挑戦の第一歩へ備えた

今年1月に東京海上日動を退職した近江は有給休暇を消化する間、2月にある二つのコンバイン(能力判定テスト)に備えた。日本代表を選ぶコンバインと、カナダのプロリーグCFLのジャパンコンバインが同時に開催される。三つのコーンをL字形に置いて周囲を走る「スリーコーンドリル」や40yd走(近江のベストは4秒75)、垂直跳び、立ち幅跳びなどの種目に加え、アメフトの実技がある。近江は陸上競技のコーチの指導も受け、挑戦の第一歩へ準備した。そもそもこうしてCFLへの道が見えたことも、退職してフットボールにかけるという近江の決断の後押しになっていた。 

現在はCFLのグローバルコンバインが開かれると信じ、準備を重ねている

コンバインは関東地区と関西地区に分かれて開かれ、近江は関西で受けた。コンバインの最中もいつものように、周りの刺激になるような声を出していた。すると最後に参加者と関係者が輪になったハドルで、日本代表の藤田智ヘッドコーチから「近江、締めてくれ」と声がかかった。要するに「しゃべってくれ」ということだ。そこで近江は常々思っていたことを口にした。情熱は伝染する、ということだ。 

自分の「本気」を身内にも示そう

「コンバインに集まったメンバーはフットボールへの愛とか、盛り上げたいという意志が強い人だと思います。みなさんには身内の人にも自分の厳しい面を見せてほしいです。奥さんや彼女の前では酒を飲むけど、外では飲まないようにしてる人がいたとします。外では『ああ、アメフト頑張ってるんだな』と受け止められても、奥さんや彼女は『アスリートとしてやってるのに平気でお酒を飲んで、この人は何をやってるんだろう』って感じると思うんですね。それを奥さんや彼女が誰かに話すと、『あの選手は情熱が薄い』って思われてしまいます。だから身内の人の前でも飲まずに、すべての人に『俺はこれだけ本気でフットボールに取り組んでるんだ』という情熱を見せてほしいんです。そんな姿勢が周りの人に伝わっていったら、『フットボールは魅力のあるスポーツだ』と感じてもらえるはずです。ここにいるメンバーだけでも、明日からそうしましょう。情熱は絶対に伝染します」 

日本代表の練習で笑顔をのぞかせる近江(中央右の19番)
練習前と練習後のハドルでは率先して日本代表のチームメイトたちに言葉をかけた

近江は日本代表に選ばれ、CFLのグローバルコンバイン(32528日の予定だったが延期に)にも招待された。日本代表の練習でも、最後のハドルでは常に発言した。「日本代表としての自覚を持ちましょう」と。しゃべるたび、「自分は日本のフットボール界でこういう立場にいるんだな」と実感した。今回の日本代表では主将、副将からなる「幹部」の一員になりたいとは思っていた。でも主将は立命館大学の先輩であり、Xリーグの富士通でも主将を務める宜本(よしもと)潤平だと考え、どんな副将になればいいかをイメージしていた。

まさかの「キャプテンやってくれへんか?」

するとある日、藤田ヘッドコーチからLINEでメッセージが届いた。「キャプテンやってくれへんか?」。ビックリした。近江はリスペクトしているサッカーの本田圭佑の名言を思い出した。「ACミランの10番を着けるチャンスが目の前にあって、違う番号を選びますか?」。もちろんやらせていただきます、と返事した。 

日本代表は2月の週末に川崎市内で集まって練習を重ねた。主将になってみて、ほかの44人のメンバーを見渡したとき、どんな人なのか分からない選手が多かった。そしてチームビルディングに時間を割くことにした。毎回の練習前に八つほどのグループに分かれて、約30分間、二つのテーマについて話し合った。一つは家族のことや趣味、好きなユーチューバーなどについて。もう一つはアメフト関連。どうやったらアメリカに勝てるのか、日本のアメフトはどうやったら発展するのか。近江はこれが非常によかったと感じた。前回の2015年の日本代表のメンバーでもあった宜本も「ああいう時間をとったからこそ、組織という面では前回の代表よりめっちゃよかった」と言ってくれた。 

近江は3月の国際試合で、この日チーム初のタッチダウンを決めた(提供・日本アメリカンフットボール協会)

渡米して31日の「THE SPRING LEAGUE選抜」との戦いに臨んだ。NFLCFLを目指すプロ予備軍で、元NFL選手も4人いた。日本代表は16-36で負けた。近江の総括はこうだ。「僕にとっても日本代表にとっても、いい経験になったと思います。元NFLの選手と戦えるチャンスはめったにないし、これまでもU-19や大学日本代表の経験はありましたけど、やっと本物に近いアメリカと対決できた実感がありました。日本のフットボールが成長するターニングポイントになったと思います。ただ向こうは日本代表には勝って当たり前というスタンスで、こっちは1対1の局面で勝ったらそれだけで喜んでました。そういうメンタル面でアメリカの方が強くて、結果的に大きな差になったと思います」 

1試合にかける情熱の強さをラグビーに学んだ

近江は今年に入って、試合の応援にも来てくれる友だちから、こう言われた。「ラグビーのトップリーグ見てきたけど、めちゃくちゃおもろいぞ。次元が違う。もうXリーグなんか見にいくか!」。近江も見てみると、Xリーグに比べて1試合にかける思いがずっと強いと感じた。「トップチーム同士の戦いだとまた違いますけど、Xリーグは1試合にかける思いがラグビーに比べて弱いから、それがプレーにも現れてくるんだと思います。一人ひとりの選手がアメフトにかける思いをもっと強く持って練習して、試合に臨まないといけない。そうすれば、その情熱は見に来てくれた人にも伝わって、『Xリーグって面白い』ということになるはずなんです。結局は選手の情熱一つだと思うんですよね」。近江の情熱論は熱い。 

日本代表の練習ではキッカーにも取り組んでいた

アメリカと日本のフットボールの比較でも、同じことを感じたことがある。近江は立命館大学時代、大学世界選手権に日本代表の一員として出た。アメリカ戦でタッチダウンを狙ったパスが捕れずにフィールド上に転がったあと、相手の選手が乗っかってきて、肩鎖関節を痛めた。日本ではパスを落としたレシーバーにヒットしにいくディフェンスの選手は、めったにいない。「相手を徹底的にやっつける、相手の嫌なことをやるという思いが、アメリカと日本では大きく違うんです。日本は変に紳士的で、ハードなプレーがなくなってる。日本だとQBサックを決めたあと、ディフェンスの選手が『大丈夫?』みたいな感じで敵のQBを起こしてあげる。もちろんそういう行為が必要なケースもありますけど、本物の情熱を持って『こいつらに勝ちたい』と思ってたら、サックした瞬間に大喜びでパフォーマンスする。そしてスタジアムが盛り上がる。NFLがそうですよね。結局は情熱の違いです。だから僕は情熱のあるプレーを続けたうえで、情熱の大事さを発信し続けようと思ってます」。近江はこれからも情熱を語っていく。 

近江は情熱に満ちたプレーを続けることを誓う

会社をやめ、フットボールにかける決断をした近江がこの先に見すえるものは? 「自分が一番にNFLプレーヤーになることですね。そうすれば日本のフットボールが盛り上がるし、盛り上げられる。自分自身もトップレベルの知識を身につけられる。それを日本に帰ってきて国内のフットボールに還元できればいいです。でもいまは自分が誰よりも突き抜けて活躍してNFLに行きたいという思いしかないです」 

元アメフト選手の父に連れられて千里ファイティング・ビーの練習に行った日から14年。近江は日本のフットボーラーがまだ見ぬ世界へと突き進む。

近江はいま、英語の勉強にも励んでいる

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