大学ラグビー

青山学院大が早稲田大から公式戦初勝利、創部92年の悲願 あの春を振り返る

2016年の関東大学ラグビー春季大会で初めて早稲田大を破った青山学院大の選手たち(撮影・すべて朝日新聞社)

就任間もない監督は、創部以来、初の快挙ということを知らなかった。2016年、ラグビーの関東大学春季大会で青山学院大が早稲田大に31-29で競り勝った。グラウンドで喜びを爆発させる学生たち。駆け寄ってきたOBに「えらいことしましたね。初勝利ですよ」と告げられた。

公式戦となった関東大学春季大会での快挙

関東大学ラグビーで春の試合が公式戦となったのは12年からと歴史は浅い。対抗戦とリーグ戦に分かれている両グループの交流や試合数増などを目的に始まった。翌年から原則、前年秋の順位で両グループの3位までがA。同46位までがBなど6チームずつに分かれて総当たりで対戦している。

当時の青学大監督の加藤尋久さん

前年、対抗戦6位だった青学大は16年春、早大、慶應義塾大、大東文化大、法政大、拓殖大とBグループで戦うことになっていた。この春、チームは新監督に加藤尋久(ひろなが)さん(53)を迎えた。熊谷工高(埼玉)から明治大へ進み、2年で語り継がれる「雪の早明戦」に出場したり、3年で大学日本一を経験したりした。その後、神戸製鋼でも活躍し日本代表にも選ばれた。引退後は東海大や日本大などで指導していた。

初戦の慶大には大敗、「どれだけチャレンジできるか」

青学大の初戦は51日の慶大戦だった。加藤さんは「指導を始めたばかりでチームの力量もわからないし、お手並み拝見という感じで見ていました」と振り返る。青学大のグラウンドがある神奈川・相模原に相手を迎えての対戦だったが、59-17の大敗だった。1年の秋に慶大を破ったメンバーだったSO岩満亮(長崎北)やWTB越智拓哉(仙台育英)らが最上級生となり、ある程度の自信を持って臨んだはずが、いいところがなかった。

15日の2試合目が、相手のグラウンドがある東京・上井草に乗り込んでの早大戦だった。慶大戦から2週間後、新たな戦術などを落とし込めるはずもなく、加藤さんは「今、どれだけチャレンジできるか」と選手を送り出した。

 汗ばむ陽気、2点差を20分余り守り切った

開始早々、早大にトライを許した。晴天で汗ばむほどの陽気に勢いをそがれてもおかしくなかったが、青学大選手の気持ちはなえなかった。5分に岩満が初トライ。早大に連続トライを許したが、終了間際のWTB向井誠(京都成章)のトライとゴールなどで追いつき、17-17で折り返した。後半も常に早大に先手を許した。314分にトライを奪われたが、その度にトライを返し粘った。早大が14分のトライ後のゴールを外したのに対し、21分、青学大はトライの後のゴールを岩満がきっちり決め、2点のリードを奪った。

残り20分余り、青学大は2点のリードを守り切った

この後、スコアは動かなかった。実は早大も山下大悟新監督を迎え、新しいスタートを切っていた。早大が勝負にこだわるなら狙えたPGもあったが、チームの基礎作りの段階だった。それでも、季節外れの暑さの中、20分余り2点を守り切った青学大のこの日の防御は称賛されるべきだった。ゴールデンウィーク空けの日曜日、約700人の決して多くない観客がこの快挙を目撃した。

慶大や明大を破った歴史

1924年に創部された青学大ラグビー部は54年の全国大学大会(現・全国地区対抗大学大会)で優勝したこともあり、強豪ぞろいの関東大学対抗戦に参戦。56年から早大と戦うようになった。初期には一緒に夏合宿を張り胸を借りたが、60年近く勝つことはできなかった。青学大は黄金期とも言われる65年、51敗でチーム最高の2位相当になった。初めてルーツ校の慶大を破り、明大にも勝ったが、早大に唯一、敗れた。当時の関東は学校によって試合数や対戦相手に違いがあり、好成績の青学大は全国大学選手権には出場できなかった。2年後、関東が対抗戦とリーグ戦の二つのグループに正式に分かれるのはこういうことがきっかけでもあった。

秋の対抗戦では返り討ちに

悲願だった早大からの初勝利。勢いに乗りたかった青学大だが、加藤さんは「安ど感というのか、達成感というのか。そんな雰囲気がありました」。結局、春の大会は早大以外には勝つことができずにBグループ最下位だった。

本番の秋、対抗戦の早大戦は1023日。八王子市上柚木公園陸上競技場には春の倍に当たる1400人余りが集まった。青学大の再びの快挙を期待するファンも多かったが、19-487トライを奪われるなどで返り討ちにあった。加藤さんは振り返る。「春から(早大と)中身が違う時間を過ごしてしまった。試合に臨む姿勢も『春負けたからもう負けられない』と思うのと、『春勝っているから』と思うのと。力的に勝てない相手ではなかったと思う。ただ、やっぱり、(早大に)本気を出されたらどうしても受けてしまう心の弱さというか……」

春の快挙から、新たに積み上げられたことが少なかった。逆に早大はこの秋、春の青学戦には出場していなかったSH齋藤直人(桐蔭学園)、SO岸岡智樹(東海大仰星)、CTB中野将伍(東筑)ら才能豊かな1年生を辛抱強く起用、3年後の2019年度シーズンの大学日本一へつなげた。

加藤さんが監督を務めた1617年の2年間、青学大は67位と対抗戦の下位を抜け出せなかった。100年近く続く青学大ラグビー部のカルチャーがあり、それをすべて加藤さん流に変えることもできなかった。

青学大が最後に全国大学選手権に出た1994年度は1回戦で優勝した大東文化大に敗れた

「今後にどう生かすか。常に考えることが大事」

加藤さんは19年度からトップイーストリーグのクリーンファイターズ山梨の監督を務めている。新型コロナウィルス感染拡大の影響で、接触プレーの多いラグビーは、まだ、十分な練習ができる環境ではない。数々の大学も指導してきた加藤さんは言う。「学生に言えることは、今の時間を今後にどう生かすかということでしょうか。日大やその前の東海大を指導した時もそうでしたが、答えを1個しか考えないのはダメだよ、と言ってきました。3つ考えて出した1個の答えと、100通り考えて出した1つの答えは、重みが全然違うだろうと。その時々、行き当たりばったりではなく、常に考えておくことが大事じゃないかと」

青学大が全国大学選手権に出場したのは、のちに日本代表になる1年生のSO岩渕健輔(現・日本ラグビー協会専務理事)らを擁した1994年度が最後。全国から才能豊かな選手が集まるチームの奮起が待たれる。

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