昨季躍進の國學院大學 高いモチベーションで練習を継続、心ひとつに鍛錬の夏へ
昨年度は出雲駅伝初優勝、箱根駅伝総合3位と躍進の年となった國學院大學。緊急事態宣言による自粛期間を経て、選手たちは再びチームでの強化に臨んでいる。夏合宿前の7月下旬、國學院大學のグラウンドに取材にうかがった。
制限下でも意識高く練習「いい流れ」
4月7日に緊急事態宣言が発令されると、大学のグラウンドは閉鎖され、チームでの練習ができなくなった。故障などで走れない者は帰省し、その他の選手たちは寮にとどまった。前田康弘監督はこの機会だからこそ、選手に自分たちで少人数のグループわけをして、練習メニューも考えるよう指示。「できるだけ人の少ない場所、時間帯で練習するよう、かなり気を使いました。全体練習のできない期間中は、選手たちから上がってくる練習メニューをチェックするぐらいで、基本は練習場所までの運転手に徹していました(笑)」という。
限られた状況の中でも選手たちは意識高く自分と向き合った。「朝練でもいままでのチームの設定より速いタイムで走る選手が続出して、いい流れでした」と前田監督。選手たちは基本的に実力が近い者どうしがグループになったが、チーム内でもトップの実力をつけているのが臼井健太(4年、鳥取城北)、藤木宏太(3年、北海道栄)、中西大翔(たいが、2年、金沢龍谷)、伊地知賢造(1年、埼玉県立松山)の4人のグループだ。
7月4日にあった青森県春季ディスタンス記録会で、臼井は5000m13分49秒24、伊地知は14分13秒67と自己ベストをそれぞれ更新。続くホクレン・ディスタンスチャレンジでは藤木と中西が躍動した。深川大会10000mでは藤木が28分24秒79、中西が28分58秒39のそれぞれ自己ベスト。網走大会5000mでは藤木が13分50秒01、中西が13分42秒24とこちらも大幅に自己ベストを更新してみせた。
藤木「チームの要として、常に前に立って」
前田監督は、藤木と中西のふたりを「チームの中心的存在」と認める。藤木に話を聞くと、「自粛期間中に質の高い練習ができました」と言う。「4人で、いつも全体でやっているポイント練習より速い設定にしたりして、かなり追い込めました。5月はスピードを強化する月にして、6月はスタミナを強化、という流れでやってきました」。42kmジョグに自ら取り組むなど、前田監督を驚かせる場面もあった。
ホクレンで5000m、10000mともに自己ベストを更新したことについては「求めていたところにはまだたどり着いていない」と厳しい表情で答える。「日本選手権の標準記録(5000m13分42秒)を切りたかったんですが、もともとの持ちタイムがなかったので、ターゲットタイムがそこまで早い組に入れなくて。でも次につながったかなと思います」
エースとしての自覚があるかについてたずねると「チームの要として、責任感をもって、常に前に立って走らないと、と思っています」と力強い言葉が返ってきた。この先の目標は「9月の全日本インカレ10000mで、去年は土方(英和)さんに先に行かれてしまったので今年は日本人トップを取りたいです。そして駅伝では区間賞は必須。しっかり走っていきたいと思います」
中西「いつか藤木さんを超えたい」
藤木が「絶対に負けたくない存在」と思っているのが中西だ。藤木たちとの練習は、「4人でいつもよりきつい練習が多く、レベルアップできました」という。深川大会での10000mは自己ベスト更新も「納得いかない」と口にしたが、網走大会では無理せずいい調整ができたことが結果につながった。「(13分)50秒切りを目標にしていたんですが、ペースが一定で最後まで落ちずにいけました」。次に目指すのは13分30秒台。前田監督は「タイムは出たので、それに踊らされないようにしてほしい。夏しっかり走り込んで土台を作り直してほしい」と期待する。
網走大会での5000mを振り返って、藤木は「(中西と)一緒の組で走っていたら絶対に先着していた」と闘志を燃やしていた。絶対に負けたくない存在だとも言っていましたよ、と中西に伝えると「練習面から(藤木さんを)意識しててまだ全然及ばないんですが、段々成長していつか超えられるようになりたい」。互いを意識しながら、さらに高みを目指す。
主将・木付「みんなで気持ちをひとつに」
今年卒業した土方英和(現・ホンダ)のあとに主将となった木付琳(3年、大分東明)は「青森の記録会からホクレンと、走るべき選手が走って、チーム全体の雰囲気はいいです」という。3年生主将としてチームをまとめ始めて半年が経ったが、「1年生も生活に慣れてきて、チームも落ち着いてきて、やっとスタートラインに立てたかなと思います。4年生が練習でも引っ張ってくれて、自分ひとりじゃなくて4年生が支えてくれているのを感じます」
個人としても青森の記録会で5000m14分09秒50の自己ベストを出したが、「ちょっと不甲斐ない走りだった」と口にする。「まだまだ自分もいけると思っているので、5000mで13分50秒切り、10000m28分40秒切りをターゲットに、この夏しっかり走り込んで長い距離で戦いたいです」と先を見すえる。出雲駅伝の中止について聞くと、「去年優勝して、今年も狙っていくという目標を立ててた中での中止で……でも下を向いてても始まらないので、みんなで気持ちをひとつに立て直して全日本、箱根に向かって頑張りたいです」。キャプテンらしい一面をのぞかせた。
前田監督はチームについて「藤木、中西をメインにして臼井が同じぐらいまで実力をあげてきてます。木付、河東(寛大、4年、樟南)、島崎(慎愛、3年、藤岡中央)、殿地(琢朗、3年、益田清風)などの箱根駅伝を走った選手たちも残っていて、ルーキーの伊地知もいいし、全日本までは構想ができてますね」。しかし新型コロナウイルスの影響で、昨年初優勝を遂げた出雲駅伝が中止になってしまった。「出雲も(構想を)考えてたんですけど……やっぱり、4年生がかわいそうだな」とラストイヤーに臨む選手たちの心中を慮る。
「ここまでやってきて、4年生で花開く、初めて駅伝を走れるという選手もいるわけですから。その選手たちが活躍できる場所が少なくなってしまうのは、この状況だからしょうがないとはいえ、なんともと思いますね」。この先どうなるかわからないが、やれることをしっかり積み重ねていくだけ、とも話してくれた。
この先の駅伝シーズンの目標は全日本大学駅伝6位以内、箱根駅伝は総合3位以内。「常連校」から「強豪校」へ、まずは山梨県・西湖での選抜合宿を経て、現在は長野県・蓼科での全体合宿に臨んでいる。國學院の夏合宿といえば、長い距離を踏むことで知られる。走り込みを経て強くなった選手たちが、秋にどのような結果を見せてくれるだろうか。