ラグビー

復活なるか「モスグリーン軍団」 スピード豊かな南昂伸主将が引っ張る大東文化大

日下監督から強い大東文化大復活を託され南昂伸主将(撮影・すべて斉藤健仁)

昨年度、関東大学ラグビーリーグ戦でまさかの4位に沈み、7年連続の全国大学選手権出場を逃した「モスグリーン軍団」の大東文化大学ラグビー部。「ONE TEAM(ワンチーム)」のスローガンの下、チームを率いて2年目の日下唯志監督が再び頂点を目指す復活の旗手として主将に指名したのがSH南昂伸(たかのぶ、4年、御所実業)だ。

ユニバーシアード金など飛躍の1年

スピードが武器の攻撃的な選手として1年生からSHのレギュラーの座を射止めていた南は3年生の昨年度、飛躍の時を迎えていた。7月、イタリア・ナポリで開催されたユニバーシアード夏季大会7人制で、自身初となる桜のジャージーに袖を通し、共同キャプテンのひとりとして日本の初めての金メダル獲得に貢献。今年3月には東京オリンピックを目指す7人制日本代表としてワールドシリーズのカナダ大会に初めて出場した。

南は「ユニバーシアードが(キャリア)初めての日本代表でした。(昨年の国際大会の経験は)大きな自信になりました。頑張っていれば日本代表になれるし、同じポジションの後輩にも自分のプレーを見て『もっとやらないといけない』と思ってほしい。日本代表で得たことをチームに還元したい」と自信を口にした。

オリンピック代表の夢は一時、封印

世界の強豪相手にも持ち前のアタック力で魅せ、東京オリンピック出場の芽も出てきたか、と思われた。だが、本人は「ワールドシリーズに出てオリンピックに出たいとも思いましたが、(明治大2年の石田)吉平と比べて自分は一発屋というか、試合を通していいプレーができていない。持ち味が出せなかった。まだまだと確信しました。メインは15人制、キャプテンとしてチームを優先したい」と冷静に話した。

7人制ラグビーの明治大1年・石田吉平 すべては人生で1度の東京五輪のために

小学校まで野球少年でセカンドを守っていた南は、愛知県・北陵中学校からラグビーを始めた。同じ小学校の先輩がラグビー部にいたこと、そして「違うスポーツをやってみたい!」とだ円球の門を叩いた。FBやSOとしてプレーし、キャプテンとして県内3位に貢献し、顧問の先生から「有名になりたいなら県外でプレーしてみたら。南のような小さいサイズ(身長166cm)の選手でも使ってくれる」と聞き、奈良の御所実業高に入学を決めた。

御所実では試合中にWTBからSHに変身

花園(全国高校大会)で準優勝した1年時はメンバーから外れてスタンドで応援し、2年時はライバルの天理に敗れて出場を逃す。3年の時はWTB、そして後半からスピードを活かしてSHに入るというユーティリティーな選手として攻撃を牽引し、ベスト4に貢献した。大学は「最初に声をかけてもらったから」と大東文化大に進学した。

大東文化大に入ると南はSHに専念し9番を背負って躍動する。特にスクラムやラックサイドからスピードを活かしたアタックは相手にとって大きな脅威となった。1年の時はリーグ戦で優勝し大学選手権ではベスト4、2年の時はリーグ戦2位に入り大学選手権ではベスト8に進出した。

昨夏のユニバーシアード7人制ラグビー男子では共同主将として日本を初の金メダルへ導いた

だが、昨年度はリーグ戦で優勝した東海大学だけでなく流通経済大学、日本大学、拓殖大学に敗れた。青柳勝彦監督から日下監督に替わり、HO平田快笙(東芝)、No.8アマトとLOタラウのファカタヴァ兄弟やFL湯川純平(いずれもリコー)といったFWの主力選手が抜けたことが響いた。

南は「昨年度はFWとBKがうまくコミットできていなかった。PR藤井(大喜/パナソニック)さんがいたので、スクラムが押せることが前提で練習していたが、押されたときの対応ができていなかった。また(自分としても)SHとしてゲームをうまく運ぶことができていなかった」と悔しさをにじませた。

新チームになって日下監督は、「プレーでも練習でも見本になる」とBKの要のひとりである南をキャプテンに指名。南も「副将とかリーダー陣になってチームを支えるのかなと思っていましたが、監督に任命されて『わかりました』の一言でした」と振り返る。

「当たり前のことを当たり前に」

目指すキャプテン像について聞くと南は「自分は言葉でみんなを引っ張れないので、行動力、プレーで示したい。副将のLO/FL呉山聖道(4年、大阪桐蔭)とSO/FB鈴木匠(4年、札幌山の手)の2人は言葉がうまく、説得力があるので(自分を)補えていると思います。キャプテンが頑張らないとチームはついてこない。自信を持って、グラウンドだけでなく、普段の生活から当たり前のことを当たり前にやってリーダーシップをとっていきたい」と語気を強めた。

大東文化大ラグビー部は緊急事態宣言が発出する前の3月末、寮で過ごしていた選手は実家に戻り、7月中旬になり、ようやくチーム練習を始めたばかり。新型コロナウイルス感染のリスクを抑えるために、手洗い・うがいの励行などは徹底し、寮では食堂に入れる人数は制限し、基本的には外出は1日1時間、19時以降の外出は禁止と定めている。

目指すは代表と同じ「ONE TEAM」

4カ月のブランクがありチーム作りが例年より遅れる中で、今シーズンのスローガンは、「先輩後輩関係なく、下の学生から発信していかないとコミュニケーションが取れない。みんなで一丸になってやろう」(南)ということで、2019年のワールドカップでベスト8に入った日本代表と同じ「ONE TEAM」となった。

近年、強力なスクラムが自慢の大東文化大だったが今シーズンの目指すラグビーに関して聞くと、南主将は「BKは昨年とあまりメンバーが変わらず、ポテンシャルの高い選手も入ってきて自信がある。スクラムを安定させて、BKで展開するラグビーがしたい」と答えた。日下監督がいう「今シーズンは、スピードあるランナーがいるのでFW、BKバランスよく、チャンスがあればBKで仕掛ける」というイメージとも重なる。

BKのメンバーを見るとSH南主将、SO/FB鈴木副将を筆頭に、4年生のSO高本海斗(大阪桐蔭)とトンガ人留学生のCTBシオペ・ロロ・タヴォ、3年生のスピードあるWTB/FB鎌田進太郎(石見智翠館)とWTB朝倉健裕(御所実業)といった選手は今シーズンもチームの主軸となろう。

さらに新人では南の高校の後輩SH稲葉聖馬、SO/CTB小田嶋生吹、WTB佐藤亮吾(ともに秋田中央)ら有望選手が加わり、BKの選手層は厚くなった。FWにも新しい留学生選手だけでなく、スクラムの強いPR藤倉大介(國學院栃木)、身長196cmのLO新屋快 (大阪桐蔭)、突破力に長けたFL/No.8西林勇登(御所実業)といった新しい力が加わっている。

スピードを武器に大東文化大では1年生から活躍してきた

目標は日下監督、南主将ともに「リーグ戦で3位に入って大学選手権に出場すること」を掲げた。南主将は「大東文化大学が留学生だけのチームではないことを証明したい。まずリーグ戦で3位以内に入ってから優勝を目指したい。特に、昨年度負けたチームには勝ちたいですね。そして大学選手権になったら1試合1試合大事にして4強を目指したい」と先を見据えた。

個人としては「やっぱり攻撃には自信があるので、SHとしては誰にも負けたくないですし、(高校時代から同じポジションで戦っている)天理大SH藤原忍(4年、日本航空石川)にはライバル心があります。グラウンド練習があれば週2~3回はゴムチューブを使ったりして瞬発系を鍛えています」と話した。

最後に、好きな言葉を聞くと、少し考えてから南主将は「自分だけが勝手なプレーをしてもチームプレーをすることができない。『こいつならトライを取ってくれる』と味方を信じないと何もできない。『仲間を信じる』という言葉を大事にしています」と自分に言い聞かせるように話した。好きな選手はニュージーランド代表SHのTJ・ペレナラという南主将が先頭に立ち続けて、決定力の高いBKを主体とした攻撃的なラグビーを武器に「モスグリーン旋風」を巻き起こす。

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