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早稲田・中谷雄飛、大迫傑から学んだ継続する強さ 全日本で狙う相澤晃級のインパクト

中谷は8月、大迫傑主宰のキャンプに参加。そこでの学びを生かしながら、今夏は学内合宿に取り組んでいる(撮影・松永早弥香)

「トラックで世界と戦いたい、という気持ちがずっとありました」。早稲田大学の中谷(なかや)雄飛(3年、佐久長聖)はその思いを素直にぶつけ、大迫傑(すぐる、ナイキ)が呼びかけた「Sugar Elite」の短期キャンプに挑んだ。8月17~24日の8日間、世界で戦うために強さを求める学生たちが、大学の垣根を超えたチームで高め合うという環境。何よりも、その姿にあこがれて早稲田大に進んだ大迫の存在は、中谷に新しい気づきをもたらしてくれた。

早稲田・中谷雄飛 けがで苦しみ、負けて芽生えたチャレンジャー魂

「強くなるには継続することが大事」

「Sugar Elite」のキャンプは長野県で実施された。中谷自身、大迫と話したり一緒に走ったりするのはこれが初めてのことだった。「竹澤(健介)さんや大迫さんのように、日本を代表する選手がたくさん出ているから、僕も早稲田にきたということもあったので、大迫さんの存在はやっぱり大きいです」と中谷。一緒に練習をするだけではなく、日々の生活の中で大迫がどのように過ごしているのかを学びたいという思いも強かった。一緒に過ごす中で印象に残った言葉をたずねると、中谷は「たくさんあるんですけど」と前置きしてこう続けた。

「僕自身、大迫さんはアメリカに渡って特別なことをしたから強くなったんだろうと思っていたんですけど、そうではなく、常に目の前にある練習をしっかり継続することが強くなるコツなんだよ、と。僕自身は強度の高い練習を求めがちなんですが、それだと次の日にきつくて動けないこともありました。でも強くなるには、特別なことよりもまずは故障せず、一つひとつのことをクリアしてやっていくことが大事なんだなと思いました」

練習のことや日々の生活のことなど、様々なシーンで気になっていることを大迫にたずねると、親身になってアドバイスをしてくれたという。初めて触れた気さくな先輩の姿に、また改めて学ばされた。

大迫から受けた刺激を早稲田チームにも還元

合宿には同じ早稲田大で同期の千明龍之佑(東農大二)も参加していた。ふたりとも自主的に応募・参加したのだが、早稲田大の相楽豊駅伝監督としても、選手たちには日本のトップ選手で東京オリンピックも内定している大迫の側で刺激を受けてきてほしい、という思いはあったという。「練習もそうですけど、普段の生活とか意識とか考え方とか行動選択とか、横にいないと分からないことがありますから。それを見ることで強くなれる選手がいるのであれば、チームの集団からはみ出てはいけない、とこだわることに意味はないです」

キャンプが終わり、中谷は早稲田大のチームに合流した。しかし今夏は新型コロナウイルスの影響で大学から夏合宿の許可が下りず、所沢の合宿所を拠点とした学内合宿となっている。例年に比べて走行距離が踏めないため、選手は練習の質や内容を充実させることにシフトした。中谷も練習量を少しずつ増やしながら、強度の高い練習をした翌日にも継続できるように意識を変え、なるべく長いスパンでトレーニングを継続できるように実践している。

大迫傑のキャンプから帰ってきた中谷(左)に対し、相楽監督は目の色の変化を感じたという(撮影・松永早弥香)

そんな中谷の姿を見て、相楽監督は「目の色が違います」と話す。「彼ら(中谷と千明)もうちのチームではトップですから、ある意味、甘えとか緩みとかがあったかもしれない。でも(日本の)トップを見ることで変わってきてて、みんなにもふたりから大迫のことも聞いた方がいいと伝えています。何mを何分何秒で走ったとかいう上っ面なことではなく、どういう生活、どういう行動をしていたのかというところを。ふたりにもチームにも、いい刺激になればと思っています」

箱根駅伝からいい流れの中で5000m自己ベスト

中谷の昨シーズンを振り返ると、前半は故障の影響で思うような結果を残せず、後半に盛り返してきたというものだった。

10月の箱根駅伝予選会は直前に痛みが出始めたため出場を見送り、その翌週の全日本大学駅伝では前年と同じ3区に出走。調整不足で途中から足に痛みが出始めたが、区間6位の走りで8位を死守した。そこからは継続して練習ができ、今年の箱根駅伝では1区を任された。積極的にレースを引っ張り、トップと17秒差の6位で襷(たすき)リレー。「1時間1分30秒が出ると思っていなかった」と、自分が思っていた以上に力がついていることを実感した。

同じ1月にあった全国都道府県対抗男子駅伝では長野県チームのアンカーを任され、区間2位の走りでチームに3年ぶり8度目の優勝をもたらした。「優勝できるとは思ってなくて……。去年は自分のところで順位を落としていたので、ここでリベンジができればと思っていました」。新しいシーズンを前にして、優勝でのリベンジ達成という好スタートを切った。

今年1月の全国都道府県対抗男子駅伝で中谷は長野県チームのアンカーを任され、優勝の喜びを爆発させた(撮影・藤井みさ)

2月の10000m記録会では28分27秒71で自己ベストをマーク。チームはその後、2月下旬から遠征禁止、3月下旬から6月20日までは合宿所を出ての解散となったが、その間も中谷は継続的に練習が積めていた。7月のホクレン・ディスタンスチャレンジでは15日の網走大会、18日の千歳大会でともに5000mに出走し、千歳大会で13分39秒21の自己ベストで日本選手権参加標準記録Aを突破。故障せずにいかにトレーニングを重ねて記録を出せるか。昨年の故障から学び、意識して取り組んできたからこその結果だった。

全日本大学駅伝で見せつけられた相澤晃の強さ

次のレースの舞台は9月11~13日の日本インカレとなる。「10000mには留学生が多くエントリーしているようなので、そこにどれだけ食らいついていけるか。10000mを走るのは本当に久しぶりなので、とくにタイムを狙うとか、この順位を目指すというのは今のところは考えていません。僕自身、そういうのを意識するとどうしてもうまくいかないことが多いので」と苦笑い。自然体で挑み、いけるところまで留学生に食らいついて勝負をしたい。

練習が積めない中で挑んだ昨年の全日本大学駅伝、中谷は今できる最大の走りをしたという思いはあったが、東洋大の相澤に抜かされた悔しさが残った(撮影・藤井みさ)

今年は大きな故障もなく練習を継続できていることもあり、全日本大学駅伝(11月1日)でも「去年よりもいい走りはできるかなという感覚はある」と自信をのぞかせている。過去2大会では3区を走っていることもあり、今年も3区を希望している。

その目は、前回大会で3区を33分01秒で駆け抜け、従来の区間記録を1分8秒も上回る新記録をたたき出した相澤晃(東洋大~旭化成)の姿を見すえている。「去年、相澤さんに抜かれて圧倒的な力の差を見せつけられてすごく悔しかったです。だから今年は自分が、去年の相澤さんのような走りはまだ今の力ではできないと思うんですけど、それに並べるくらいのインパクトのある走りができたらと思っています」。言葉に力がこもる。

10000mで世界と戦う

駅伝での活躍が注目されているものの、それでも中谷としてはトラックで勝負したいという気持ちが大きい。延期された東京オリンピックも、今では目指すべき場所になっている。「今のところ5000mで日本選手権の参加標準を切っているけど、5000mよりも10000mの方が可能性があるんじゃないかと相楽監督とも話をしてて、今年もこれから10000mを何本か走ると思うので、10000mで参加標準(参加標準記録A:28分20秒00)を切りたいです。練習は順調にできているので、しっかり走れれば突破できるかなという感覚はあります」

今年は箱根駅伝前の12月に長距離種目の日本選手権が入るスケジュールになったが、そこに対する不安を中谷は感じていない(撮影・朝日新聞社)

今年の日本選手権長距離種目(5000m、10000m、3000m障害)は12月4日に予定されている。箱根駅伝に向けた調整の最中ではあるが、「僕自身が1年生の時に5000mで(当時の)自己ベストを出したのも全日本大学駅伝が終わって1週間後だったので、比較的そこまで詰めすぎなければ2本ぐらいは大丈夫かな」と言い切る。

歴代の早稲田のエースはトラックでも輝かしい成績を残している。そのエースの重みを、中谷も心得ている。

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