東海大学の吉田大亮主将、悲願の大学日本一へ自分を律しチームの模範に
今シーズンこそ、関東大学リーグ戦3連覇だけでなく、初の全国大学選手権優勝を目指す東海大学ラグビー部。木村季由(ひでゆき)監督から「一本芯が通っていてぶれずにやり続けることができる」との厚い信頼を得て、キャプテンを任されたのはNo.8吉田大亮(だいすけ、4年、東海大仰星)だった。
2007年のリーグ戦初優勝からから過去13シーズンでリーグ戦では9度の優勝を誇る「シーゲイルズ」こと東海大。しかし全国大学選手権では09、15、16年度と過去3回、帝京大学相手に決勝で涙をのんだ。そんな東海大は今シーズンの関東大学リーグ戦ではもちろん優勝候補の筆頭であり、選手権優勝を目標に掲げる。
木村監督就任の1998年生まれ、「歴史に名を」
昨シーズンまでは吉田は186cmと身長が高かったこともあり、やや線が細かった印象だったが、今ではすっかりFWらしい体つきになってきた。そんな吉田を木村監督がキャプテンに指名した。
150人を超える部員のリーダーとなった吉田は「僕ら1998年生まれで、木村監督はその年に東海大の監督に就任されました。監督を勝たせたいですし、初優勝にチャレンジできるっていうのも一つの自分たちのモチベーションです。歴史に名を刻むという意味でも優勝したい」と意気込んでいる。
吉田は幼稚園から、京都・東山高ラグビー部出身の父がコーチを務める京都プログレRFCで競技を始めた。修学院中を経て東海大仰星高に進学し、2年時の春の選抜大会で優勝を経験する。ただ、「花園」こと全国高校ラグビー大会では直前の試合でケガを負い、優勝をグラウンドで体感することができなかった。高校3年時、CTBやFBからNo.8にコンバートされた。花園では決勝で東福岡に敗れた。
多くの同級生と一緒に東海大に進学後、バックスのCTBにチャレンジしたが、2年時から再びFWに転向。「(木村監督に)チームのためにNo.8に転向してほしいと言われました。少し迷いはしましたけど、自分の持ち味でもあるコンタクトの部分やボールのもらう回数も増やせるし、アピールできる面も多いかな」と決断した。
No.8で勝負していく
昨年8月の開幕戦、23番をつけて初めてリーグ戦でデビューを飾った。その後はコンスタントにメンバー入りし、11月の流通経済大学戦で初めて8番のジャージーを着るまでの成長を見せた。しかし、古傷が悪化してしまったため全国大学選手権のメンバー入りは断念することになった。
自身初の大学選手権--。吉田はケガをかかえていても、ボロボロになるまでやるかどうか葛藤していたが、自ら「チームのことを考えると貢献できない」と木村監督に直に話したという。その姿を見て指揮官は「チームのために本当に考えられる選手で、吉田の成長とともに今シーズンはあるかな」と1年生から試合に出ていた選手ではなく、吉田をキャプテンに指名したというわけだ。
もちろん、一選手としても木村監督は「(吉田は)体重が100kgオーバーでスピードもあり、キックもパスもできる。クラッシュだけの選手ではないので相手も嫌だと思う」と高く評価する。またSO丸山凜太朗(東福岡)やWTB望月裕貴(東海大静岡翔洋)ら能力が高いが「くせ者が多い」(木村監督)3年生に「正しいことをはっきり求めることができる。間違ったことを誰にでもしっかり指摘できる」というリーダー気質があり、コーチ陣の信頼を得た。
「正直プレッシャーはありましたがキャプテンになったからと言って、自分のスタイルを変えようと思いませんでした。アタ(アタ・モエアキオラ/神戸製鋼)さんや眞野(泰地/東芝)さんとも個性も違いますし、自分に対して厳しくやって先頭に立ってチームをまとめていきたい」(吉田)
厳しいポジション争い
ただ東海大のバックロー(FLとNo.8の総称)には、外国人選手もおり、とりわけ層が厚いポジションだ。キャプテンの吉田でもレギュラーを確約されているわけではない。それを吉田は十分に承知しており、「社会人になってもFWで勝負したい」と考えることもあって、リーダーの一人として自粛期間中も寮に残った。ただ東海大は学内にグラウンドがあり、新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月から7月中旬までまったく使用できないという状況が続いた。
そんな中でも吉田は自分が今できることと向き合った。ウェイトトレーニングや課題と感じていたラインアウトやハイボールキャッチなどのトレーニングにも精を出した。結果、体重は2kg増えて101kgになった。ベンチプレスは15kg増えて160kgを、デッドリフトは30kg増の240kgを上げられるようになったという。
吉田は2月、新チームになった後、今まで監督に提示されていたスローガンを、「自分たちで決めた方が意味を持たせられる」とお願いして選手たちで話し合った。最終的に「厳しさと徹底」という言葉をスローガンとした。
その意図を聞くと吉田は「日本一へという高い壁にチャレンジする上で、お互い厳しさを持って何でも言える環境、関係を築いていかないとそこへはたどり着かない。また練習中に発しやすい言葉として『厳しさ』を選びました。また『徹底』の部分では私生活とラグビーが表裏一体なので、私生活から当たり前のことを当たり前に1年間やり続けるようにと入れました」と語気を強めた。
ラグビー面では、自粛期間中にコーチ1人に対して10人くらいのグループを作り、ラグビーの戦い方や戦術の知識をテスト形式で学んでいったことで、攻守にわたって「オプションは増えた」という。もちろん、東海大はFWのセットプレーも強く、ボールを動かしてBKでもトライが取れる総合力の高いチームだ。しかし、吉田キャプテンはもっと根本的な点が勝敗を分けると感じている。
「基本スキルを質高く出し続けて、泥臭くやり切りたい。きれいにボールを運ぶラグビーも面白いですけど、5点は5点で変わらない。下にあるボールに突っ込んでいったり、一つでもゲインしたりとそういった根本になる部分を自分たちで積み重ねることができれば勝つと確信しています」(吉田)
吉田キャプテンの座右の銘は「一心不乱」と「力必達」、つまり東海大仰星と東海大学のチームのスローガンである。「個人が目標を持って、そこに対してチャレンジし続ける中で、やればやるほど結果になり、チームが一つの大きな集団になっていく。2つの言葉には通じる部分があると感じています」(吉田)
「頂点の景色を笑いながら見てみたい」
今シーズンの東海大の最初の目標は関東リーグ戦3連覇である。ただ8月の菅平合宿からやっとコンタクト練習を始めて、9月に入るまで試合ができず、その影響もあってか帝京大との練習試合では7-84と大敗した。まずは10月4日、11日の開幕(対関東学院大)と第2戦(対中央大)で調子を上げていきたいところだ。
吉田は「昨シーズンまでの連覇は今までの先輩が築いてきてくれたものにすぎず、自分たちでつかみとったものではないので、おごらずチャレンジャーとして臨みたい」と話す。その中で「8番のジャージーを着て日本一になる」という目標はまったくぶれていない。
「自分が中心選手となって、日本一になったこともないですし、大学選手権で初優勝して日本一なり頂点の景色をみんなで笑いながら見てみたい。日本一は偶然になれるものではなく、ラグビーも私生活も高い水準で積み重ねていく中で必然として勝ち取れるものだと思っています」(吉田)
ラグビーだけでなく私生活でも自分を律してチームメートの模範となっているキャプテンが先頭に立ち続け、東海大、そして木村監督に初の大学王者のタイトルをもたらすことができるか。