陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

國學院大學・前田康弘監督 箱根駅伝9位での悔しさは「チームが成長した証」

「ごめん」のポーズで目をつぶり、天を仰ぎながらゴールするアンカーの木付(撮影・藤井みさ)

第97回箱根駅伝 

1月2~3日@大手町~箱根の10区間217.1km
9位 國學院大學 11時間04分22秒
往路9位 5時間34分52秒
復路6位 5時間29分30秒

昨年の箱根駅伝ではチーム史上最高の総合3位となり、今年も総合3位以上を目標としていた國學院大學。しかし序盤から苦しい戦いを強いられ、最終的に総合9位となった。前田康弘監督にレースを振り返ってもらい、今後のチーム作りについても聞いてみた。

先手必勝のオーダーだったが流れに乗りきれず

「厳しい駅伝でしたね。やっぱり駅伝は深いですね。いいチームがいれば悪いチームもいる、というのを身をもって感じましたね」。レースの率直な感想をたずねると、こう返ってきた。しかし厳しい流れになった中でも、もがきながら前に進めた、ともいう。「勝つために『速さ』と『強さ』が必要なのだとすれば、多少ではありますが『強さ』は見せられたかなと思います。悪い流れの中でも、選手個人個人が我慢強く自分の走りをできたと思っています」

高速化する駅伝界において、他のチームに先行することは必須条件。國學院ももちろんそのつもりで、往路3位以上を目標として1区に藤木宏太(3年、北海道栄)、2区に中西大翔(2年、金沢龍谷)のダブルエースを配置した。しかし藤木は区間12位、中西は区間15位と下位に沈んだ。

実は藤木は、11月中旬から12月はじめまで故障していたという。当初は藤木を2区に置く予定だったが、2区を走るための練習を積むことができず、想定が狂った。「その中でもやれるかなと思ってましたが、トラックのタイムを作るだけではやっぱり勝てない。箱根の準備をしたチームが勝つんだと思いました」と前田監督。結果的に1区を走ることになった藤木は「チームのエースとして、自分が流れを作ろう」と考えすぎていたのではないか、という。

「自分がやらなければ」。流れに乗りきれなかったことで、中西(左)も臼井も気負ってしまった(撮影・藤井みさ)

藤木から襷(たすき)を受け取った中西は、想定より下位でのスタートとなり、やはり「自分がやらなければいけない」という気持ちが出すぎていたという。始めから攻めた走りをしたが、それでも13秒後ろからやってきた東京国際大学のイェゴン・ヴィンセント(2年、チェビルべレク)との差はみるみる開き、次いで15秒遅れてスタートした駒澤大学の田澤廉(2年、青森山田)にも置いていかれた。「権太坂の手前で足が止まってしまいましたね。まだまだ田澤くんや、上の選手との力の差があると感じました。でもこのまま終わるような選手じゃありません。これを糧に強くなれる選手です」と次は上級生となる中西への期待を見せる。

その後3区の臼井健太(4年、鳥取城北)が区間7位と粘りの走り。けがから復活し、1年生以来の箱根駅伝となった臼井だが、走り出してからは運営管理車から見て心配になるほどガチガチになっていたと前田監督は言う。リラックスさせるように声をかけ続け、「後半になってから動きもすごく良くなってきたと思います」。順位を15位から12位に上げ、4区の河東寛大(4年、樟南)から山上りの5区、殿地(どんじ)琢朗(3年、益田清風)へ。

1年生のときから5区を希望していたという殿地は、上りの適性もあり、精神的にも強い。区間8位の走りで順位をシード圏内の9位に押し上げ、芦ノ湖のゴールテープを切った。「殿地は頑張ってくれたけど、もっとやれる力があったなと思っています」というが一方で、今年の5区はものすごく条件が難しかったともいう。スタートから3kmまでは強烈な向かい風。慎重に入らせたが、リズムは作りにくかった。

去年アンカーだった殿地は、今年は往路のゴールテープを切った(撮影・佐伯航平)

「だいたいポイントでの通過タイムを設定していますが、それより遅れている形になってしまったので精神的なダメージもあったと思います。本当は大平台とかで声をかけたかったですが、運営管理車からの声掛けは5km、10kmと決まっているので、なかなか難しいところもありました」

自信を持って配置した復路、粘りの走りでシード権

往路が終わった時点で9位。前田監督は目標を下方修正しなければいけないと認めていた。「(上位に)いっても5~6番、悪ければ12~13番もあり得ると思っていました。だからこそ6区が大事だ、と思っていました」。6区は昨年も走った島崎慎愛(よしのり、3年、藤岡中央)。前回59分01秒で走り、今回はさらに練習を積んで大会に臨んだ。「思い描いていた通りの走りだったと思いますが、『自分が流れを変えて作らなきゃ』という気持ちでかなり緊張していましたね。その中でしっかり結果をだせたことは彼の成長です」。前回を上回る58分39秒で区間4位。順位も8位に上がった。

緊張が見られたが実力を発揮し、区間4位と好走した島崎(撮影・佐伯航平)

復路にエントリーされた選手に関しては、過去と比較しても一番練習が積めていたという。7区は最初で最後の箱根駅伝となった徳備大輔(4年、大塚)。いい練習を積めていたので、前田監督もスタッフ陣も自信を持って配置した選手だった。「実はハーフマラソンを走ったのは大学2年の学生ハーフマラソンの1度きり、それもチーム最下位の69分台という選手でした。4年目になってようやく力を見せてくれました」と前田監督が言う通り区間7位で順位を守り、8区伊地知賢造(1年、松山)、9区高嶌凌也(4年、日体大柏)へ。高嶌は早稲田大の小指卓也(2年、学法石川)、帝京大の橋本尚斗(3年、鳴門)に抜かれたが、東京国際大の加藤純平(4年、九州学院)を抜いて9位となり、襷はアンカーのキャプテン・木付琳(3年、大分東明)へ。

徳備(左)は最初で最後の箱根駅伝だったが、4年生らしい粘りの走りを見せた(撮影・北川直樹)

実は木付はチームエントリー後から貧血の症状が出てしまい、2週間ほど別メニューでコンディション調整をしていた期間があった。本来は往路で走るべき主力の選手だったが、ここでも計算が狂っていた。「昨年の(うまくいっていた)イメージが強くありすぎました。今回は11月下旬から12月にかけてはいろんなことがあって、改めて難しいなとも感じました」

木付が襷を受け取った時点で、6位の帝京大とは1分18秒差と充分射程圏内にあった。帝京大の山根昴希(4年、和歌山北)、順天堂大の原田宗弘(4年、大牟田)、早稲田大の山口賢助(3年、鶴丸)が3人で走っているところに一時追いついた木付だったが、スローペースに合わせて並走してしまった。「後ろから追いついていっているので、運営管理車も4台目に並んでいて状況が見えませんでした」。そのため、攻めろという指示もできなかった。しかも木付は途中で右のハムストリングスを攣ってしまい、結局前の3人に置いていかれてしまった。

結果、総合9位でのフィニッシュ。「ごめん」のポーズでゴールした木付は区間3位とタイムだけ見たら好走といえる。6位を取れたかもしれないのに、みんなに申し訳ない。キャプテンとしての役割が果たせなかった。そんな気持ちから涙を流したのだろう。だが前田監督はこうも思っている。「もし6位で終わっていたら、当初の目標より下の順位なのに安堵していたかもしれません。しかし総合9位という結果に満足している選手はいませんでした。この選手の姿が一番の収穫です」。そして「この悔しさを力に変えて、2021年、新しいチームでやっていきたいです」と気持ちを新たにする。

この悔しさをプラスに変えて、新しいチームを作っていきたいと前田監督(撮影・藤井みさ)

強力なルーキーも加入、「魅力あるチーム」を目指して

4月には自由が丘高校の山本歩夢、秋田工業高校の中川雄太、埼玉栄高校の佐藤快成、美方高校の平林清澄ら強力な新入生も入部する予定だ。今年度のルーキー旋風を受け、前田監督はスカウティングを課題にあげていたが、着実に成績を残したことによって高校でも上位の成績を残した選手が来てくれるチームになってきた、という。

「木付たち新4年生と、新1年生が融合すれば面白いチームになるんじゃないかと楽しみにしています」というが、一方でこの動きを一過性のものにしてはいけない、という危機感も常に持っている。「僕もコーチ陣も含め、魅力ある指導者でないといけないと思いますし、魅力あるチーム作りをしていかないと、常に上位には入っていけないだろうなと思っています。『ここに入ったら強くなれそうだ』と思ってもらえるようなチームにしていきたいですね」

大学駅伝常連校から、さらに魅力あるチームへ。2021年度の國學院大學はどんな戦いを見せてくれるだろうか。

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