パナソニックのWTB福岡堅樹、希代の韋駄天がぶれずに目指す医師の道
ラグビーのトップリーグ(TL)が最後の戦いを迎えます。全国規模のリーグとして2003年に生まれ、18シーズン目となりました。来季からは発展的に新リーグへ移行します。コロナ禍を乗り越えてシーズンに挑もうとするリーグの主役を紹介します。
最後のTL、見納めか
パナソニックワイルドナイツのWTB福岡堅樹(28)は、最後のトップリーグで見納めとなる可能性が高い。説明するまでもなく、2019年ワールドカップ(W杯)日本大会で、計4トライを挙げて日本代表のベスト8進出に大きく貢献した“スピードスター”だ。50mは5秒8で駆け抜ける。それより短い距離を前傾姿勢から一気に加速。一瞬のスピードで相手を抜き去りトライを挙げるシーンに、何度、驚かされてきただろう。
祖父が医者、父が歯医者という一家に生まれた福岡は、ラグビー選手のキャリアを終えた後、医師の道に進むことを明言してきた。そして15人制の日本代表は19年W杯が最後と決めて臨んだ。史上初めて八強まで進み、「やり切ることができました。何ひとつ思い残すことはありません!」と試合後に清々しい表情で話した。
一浪後、筑波大2年で日本代表に
九州の名門校、福岡高から1年間浪人して、後期試験で筑波大学の情報学群に合格。そして大学1年生の時、デビュー戦からスピードを生かして6トライを挙げる活躍を見せた。全国大学選手権ではディフェンスで長い距離を走ってタックルに戻ったことなどが、当時の日本代表を率いていたエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)の目に留まり、2年生で日本代表に初招集された。
途中、リオデジャネイロ・オリンピックに出場したために7人制をプレーした時期もあったが、パナソニックやスーパーラグビーのサンウルブズでもプレーしつつ、足かけ7年間、2度のW杯の出場、そして38キャップで15人制の日本代表にピリオドを打った。
そして、本来であれば7人制日本代表として、リオに続いてもう一度、2020年に東京オリンピックのメダル獲得にチャレンジし、最後にトップリーグでプレーしてからラグビーシューズを置くという青写真を描いていたはずだ。
東京五輪延期、7人制代表は辞退
しかし、昨年3月、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、東京オリンピックは1年延期されることが決まり、福岡はオリンピックに向けた7人制日本代表の挑戦を辞退する。
「(東京五輪の延期が)決まったときには、この挑戦を辞退すると決めていました。一度、決めた引退のタイミングを先延ばししたくなかった。自分の中ではこういう運命だったとすんなり受け入れることができたので、自分の中では落胆は感じなかった」(福岡)
オリンピックへの挑戦を続けることと同時に医学部への編入試験の勉強を同時に進めることは難しく、その後の人生を考えると、2020-21シーズンでラグビーのキャリアを終えるという決断も変えられないという思いが強かったようだ。福岡は「自分の人生の中で今まで大きな決断をした時には、必ずどの選択が一番後悔をしないだろうかということを常に考えていました。自分の中で、後悔をしない人生を生きたいという思いが一番、強かった」と、決断に至った経緯を語った。
医療従事者の奮闘に刺激
また、コロナ禍に際して福岡は「実際に、親族や身の回りにたくさんの医療従事者がいます。その奮闘、頑張りが(現在の)状況を作ってくださって、すごく感謝しています。(医療従事者の姿を見て)少しでも力になりたいと思い、あらためて、医学の道に行きたいと思わせる部分もありました」とも話した。
パナソニックの世界的名将ロビー・ディーンズ監督も「福岡は、みなさんのご存じの通り、常にピッチに出れば100%パフォーマンスを発揮してくれる。パナソニックと彼のサポーターは彼がトップリーグに出場してくれることを非常に楽しみにしており、良い形で医学の道へ送り出してあげたいと思っています」と彼の決断を後押しした。
昨春から、福岡は「今まで(日本代表の)合宿に参加していた時間を、少し勉強にあてることができれば、今まで以上に(勉強とラグビーの)両立ができる」と、チームの理解もあり、受験勉強をしながらも「最高のパフォーマンスができる」ように、最後のトップリーグに向けて準備をしてきた。開幕が延期になったことも勉強の時間がとれ、チームのステップアップになったと前向きに捉えている。2月11日のクボタスピアーズとの練習試合では自らトライを奪うなど順調な仕上がりをみせた。
パナソニックで通算28トライを挙げている福岡は過去2度のトップリーグの「ベスト15」にも輝いている。だが、実はトップリーグで4度、日本選手権で5度のタイトルを獲得している強豪パナソニックは福岡が加入した2016年以来、タイトルから遠ざかっている。
やはり最後のトップリーグで優勝し、パナソニックに恩返しすると同時に、有終の美を飾りたいというのが本心だろう。
「優勝したい。笑って終えられるように」
「(コロナ禍でも)試合ができることに感謝したい」という福岡は「正直言ってトライにこだわりがない。自分自身がトライをとるよりもチームが勝利することが重要です。最高のパフォーマンスをして優勝に貢献し、納得する形で終われるようなシーズンにしたい。自分としてもチームとしても、笑って終えられるようにしたい」と意気込んでいる。
最後のトップリーグでは、希代の韋駄天(いだてん)のラストランから目が離せない。