ラグビー

冷静な天理大学の小松節夫監督が日本一の4年生へ贈った熱いラストメッセージ

天理大学ラグビー部の主将は松岡大和(左)から佐藤康に引き継がれた(撮影・全て篠原大輔)

1925年の創部以来初めて日本一となった天理大学ラグビー部が2月6日、奈良県天理市内の白川グラウンドで4年生の卒部式を開いた。4年生の選手とスタッフ計38人が巣立った。

天理大学が悲願の初優勝、平尾誠二さんの同志社大学以来、関西勢は36大会ぶり
「芦屋の暴れん坊将軍」が日本一のキャプテンになった 天理大学・松岡大和主将(上)

「4年、出し切るぞ!」松岡主将最後の叫び

まず卒部試合があり、4年生が20分ずつ1~3年生それぞれのチームと対戦した。松岡大和主将(4年、甲南)は「4年、出しきるぞ!」と持ち前の大声で鼓舞。4年生の女子マネージャー2人が試合に入ってボールを持つと、相手チームはわざとタックルミス。2人にそれぞれ独走トライを「プレゼント」した。例年は試合のあと、別の会場に移動して送別の会となるが、新型コロナウイルス感染防止のため、今年はそのままグラウンドで式典を開いた。

卒部試合ではマネージャーが独走トライを決めた

4年生が一人ひとりあいさつ。それぞれの立場から最後のメッセージを口にした。新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生したときに寮から自宅に戻り、自分の意志でチームに戻ってこなかった選手がいた。後輩たちに「輝ける場所を探そう」と訴えたスタッフがいた。15人そろわない高校からやってきた選手は「試合には出られなかったけど、こうして日本一になれて『夢があるな』と思いました」。マネージャーは「22歳にして人生で一番いい景色を見せてもらいました」と語った。笑いあり、涙ありの1時間だった。

熱く優しく語りかけた10分間

マスコミに対しては冷静でクールな受け答えに終始してきた小松節夫監督(57)だが、この日のスピーチは10分に及び、部員たちへの熱くて強いメッセージが含まれていた。小松監督の言葉と松岡大和主将、新主将に就いた佐藤康(こう、3年、天理)のあいさつを全文紹介する。

小松節夫監督
例年でしたらこのように送別試合をして、場所を変えて、送別の会を開かせていただくんですけども、今年はこのような状況の中、グラウンドですべてやろうということで企画を致しました。お忙しい中、理事長先生、学長先生、そしてOB会のみなさまに多数ご参加いただきまして、また4回生の保護者の方、ほんとにたくさんお越しくださいまして、ありがとうございます。先ほどみなで写真を撮りましたけど、毎年ブレザーを着て、ホテルできちっと写真を撮るんですけども、今年はこういう形で4年生全員がファーストジャージーを着て、そして保護者も入って。このような状況でこういう形になったんですけども、私は見てて、かえってよかったなと。一生残る写真ですから、あとから見たときに、この年だけグラウンドでファーストジャージーを着て、しかも前に優勝カップを並べて写真を撮れた、これはほんとに一生の記念になるなと。クラブとしても一生の宝物になるんじゃないかと思います。

小松監督は全部員へ心のこもった言葉で語りかけた

今年の4年生は4年間でベスト8、準優勝、ベスト4、優勝と、なかなかこんな経験はできないと思いますね。ほんとに濃い4年間だと思います。しかしながら、そのスタートは1年生のときのベスト8。大阪で東海大学に敗れて悔しい思いをして、正月を越せなかった。この悔しさから彼らの学年は始まったんじゃないかと思いますね。そのあとずっと日本一を目指す中で、準優勝。悔しい悔しい準優勝。春、夏合宿と明治に勝って、夏合宿の当時は明治の子たちは「天理には勝てる気がしない」と、そんな話も聞いてました。そんな中で、決勝で惜しくも敗れて。しかも最後、(シオ)サイア(・フィフィタ=4年、日本航空石川)のノックオンで。逆転を信じたその瞬間、サイアがノックオンして、悔しい悔しい負けをしました。翌年は国立での決勝(開催)が決まってて、国立競技場の横を見ながら秩父宮に向かって、「ここへ来るぞ」「早稲田を倒して、決勝で明治にリベンジ」と、そういう中で早稲田に大敗する。悔しい思いばっかりしてました。

今年は多くのメンバーが残って、みんなが「チャンス」と言ってくださる中でコロナの集団感染が発生して、「このチームがこんなところで終わるのはもったいない」「どうなるんやろ」という不安の中を、多くの方にご支援をいただいて活動再開、そしてリーグ戦、全国大会と。最後の決勝直前も、準決勝を戦ったあと、「(緊急事態宣言が発出され)決勝があるんだろうか」という心配までありました。今年は我々としては活動再開後、「みんなで我慢して最後までラグビーを続けよう」と。何人か犠牲も払って、やむを得ず寮を出てくれた子もいました。そんな中で残った子は必死で我慢して、最後までとにかくラグビーを続けることができました。そして結果は最高の形で優勝という成果を上げてくれました。すごくいい4年間だったなと、4年生は思ってると思います。

「96年頑張って、頑張って、今年結果が出た」

我々としても創部96年目、悲願の初優勝。「100周年までに優勝したいなー」と私は思っていました。何回も言いますけれども、天理中、天理高、天理ラグビーの中で日本一になってないのは大学だけです。それがようやく今年達成することができた。それは本当にこの4年生、歴史を変えた学年の成果だと思いますけど、やっぱり忘れてはならないのは、過去の先輩たちが今の4年生たちと同じように何回も悔し涙を流して、天理大学ラグビー部が96年頑張って、頑張って、そして今年結果が出たというふうに思います。そういうこともすべて含めてわかっている。そういう学年じゃないかと、私は感じてます。

これから社会人としてトップリーグ、また、その他のリーグでラグビーを続ける子。今年は36名中20名というようなクラブの歴史始まって以来の大人数が社会人になってもラグビーを続けます。そして、ラグビーを続けない他の学生も全員がこのラグビー部で4年間頑張ってよかったと。今までは立川理道(はるみち、主将)の代が、何を語るにしても2011年(度)、立川理道の(初の全国大学選手権)準優勝というのが、何か話する時の基準だったんですけども、これからは2020年の松岡の代は、いろんなところで松岡の代はという必ず言葉が出てくるんですね。それだけでも、いまの4年生は名前を残したなと思います。

でも、下級生たちは今度、それを越えてほしい。自分たちも同じようにあの舞台に立ちたい、国立の舞台に立ちたい、秩父宮のグラウンドで試合したい、というふうなうらやましさ、試合に出てない子は悔しさもあるでしょう。ぎりぎりでメンバーを落とされた子もいます。やっぱりもう一度後輩たちはその悔しさを持って、そしてうらやましさを持って来年も続けていく。それが本当に天理大学ラグビー部の新しい次の歴史を作っていくと思います。

「みんなに応援されたことを忘れないでほしい」

4年生たちは、歴史を作った学年には間違いないですけれども、この4年間、素晴らしい環境でみんなに応援されて、ラグビーを続けたいうことを絶対、忘れないでほしいと思います。

今あえて松岡キャプテンからOB会長さんの方にOB会入会金を渡してもらいました。これで、天理大学ラグビー部OB会員。今までOB会の人に世話になってこの4年間、続けてこられた。先輩のお世話になって、支援があって今まで続けてこられたということを忘れずに。次はいろんなものを後輩たちに還元してあげてほしいと思います。自分たちがラグビーで頑張るのも後輩たちの励みになるし、OB会費をしっかり払って、そしてOB会のために後輩たちの面倒をみたってほしいと思います。

そして、また、後輩たちが勝てば喜べると思うんですね。岡山(仙治・前)キャプテン、立川元キャプテン、みんな、OBのたくさん、本当だったら自分たちよりいい成績を出したらちょっとね、うらやましいなとか思うと思うんですよね。でも、いまのOBたちはみんな喜んでくれました。泣いて喜んでくれるOBたちがたくさんいました。それは自分たちが本当に真剣に毎年、勝負して、悔しい思いをしたから今年の君たちの成績を本当に心底、喜んでくれました。去年の岡山も自分たちを越えられて悔しいっていうことじゃなくて、本当に泣いて喜んだと言ってくれてましたんで。本当にそういう子たちに支えられて君たちはある。そして、これが永遠に続いていくことで、ほんまに天理大学が強豪チームの一つになることができると思います。

日本のラグビーは慶應(義塾大学)から始まって早稲田(大学)、明治(大学)、そして、関西だったら同志社(大学)。そういう名門校に支えられて大学ラグビーはあるわけですけども、そこに入っていった大東文化大学、関東学院大学、帝京大学、そういうチームとはうちは(歴史が)違うんです。96年の歴史を持つ立派なクラブですから、一時、低迷はありましたけれども、これからは絶対、低迷は許されない。本当に関西だったら同志社、天理で、早慶明に負けないそういう伝統のある天理大学としてこれからもぜひ、みんなでいいチームを作っていきたいと思います。本当に4年間、お疲れ様でした。卒部、おめでとうございます。

「仲間と過ごした時間は財産」松岡主将

松岡大和主将
天理大学ラグビー部、前主将の松岡大和です。今日は卒部式ということで、うれしさというよりも寂しさの気持ちの方が大きいです。ここにいる4回生は4年前にほんとにたくさんの夢と希望を持って入部しました。その日から、みんなが兄弟のように生活をともにして、一緒に過ごした時間というのは、ほんとに計り知れないです。またこの一年、コロナという大きな壁にぶつかって、一生心に残る一年となったんですけど、ほんとにたくさんの方々にサポートしていただきました。感謝という言葉をこんなにも深く考えて、思い返したことはなかったです。いまも感謝の気持ちでいっぱいです。その思いに応えなければいけないと、もらったパワーや前を向く力をたくさんいただきました。それが天理大学ラグビー部を、よりいっそう強くしてくれました。

最後のあいさつをする松岡主将

いままでの先輩方の悔しい思いを背負って、部員全員が気持ち一つになって、その力が優勝へと導くことができたと思っています。また、この仲間だからこそ、頑張ってこられたと思っています。この仲間と出会えたこと、一緒に過ごした時間というのは一生の財産になりました。また、一つの目標に向かって優勝という景色をみんなで見られたことは、ほんとに大きな宝になりました。この4年間で経験させていただいたことを胸に、社会に出ても頑張っていきたいと思います。天理大学ラグビー部関係者の方々、ご指導していただいたコーチの方々、ほんとに4年間ありがとうございました。そして小松監督、入部したときから優しくも、ときには厳しくも、そして何より僕らを守っていただいたこと、感謝の2文字では伝えきれないです。ほんとに、ありがとうございました。4年間、ほんとにありがとうございました。

最後に後輩たちに贈る言葉として、「夢をあきらめない」「努力は絶対に裏切らない」。2連覇という目標を掲げて、また「一手一つ」になって頑張っていってほしいです。後輩たちに思いを託します。そしていま、天理大学ラグビー部であることを誇りに思います。4年間ほんとに、ありがとうございました。

新主将にはフッカーの佐藤康

佐藤新主将はスクラム最前列からチームを引っ張る(撮影・朝日新聞社)

佐藤康新主将
今シーズン、キャプテンを務めます。佐藤康です。本日はこのような式にお越しいただき、ありがとうございます。

4回生のみなさん、卒部おめでとうございます。そして4年間お疲れさまでした。昨シーズンはコロナ禍の中、苦しい時期もありましたが、日本一という結果を残すことができました。それは大和さんを中心とした4回生がまとまり、僕たちを引っ張ってくれたおかげだと思っています。

今シーズン、僕たちの代は追う立場から追われる立場となり、2連覇というプレッシャーもあります。しかし、それをプレッシャーに感じるのではなく、僕たちはいつでもチャレンジャーなんだと思い、もう一度、関東相手にチャレンジしていきたいと思っています。今年のチームは、簡単ではないかもしれませんが、また一から頑張り、しんどいことをし続けて、もう一度あの舞台に立ちたいと思っています。4回生のみなさん、OBとしての応援、今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました。

出会いがあれば別れもくる。歴史を作ったメンバーが肩を組み部歌を歌った

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