東芝のリーチマイケル、グラウンド外にも活動の幅を広げる日本代表の顔
ラグビーのトップリーグ(TL)が最後の戦いを迎えます。全国規模のリーグとして2003年に生まれ、18シーズン目となりました。来季からは発展的に新リーグへ移行します。コロナ禍を乗り越えてシーズンに挑もうとするリーグの主役を紹介します。
選手と育成「二足のわらじ」
現役中だからこそ、できることがある。ラグビー日本代表主将で東芝ブレイブルーパスのリーチマイケル(32)は選手とプロジェクトリーダーという「二足のわらじ」を履き、グラウンド内外で奮闘している。
2020年11月、東京学芸大学アメリカンフットボール部に栄養ドリンク剤「リボピタンD」2ケースの差し入れを贈った。リーチが立ち上げた若手育成の「JiNZ(ジンズ)プロジェクト」に、同部のスタッフ2人が参加している縁が生んだ「激励」だった。プロジェクトはトップリーグの選手らと一緒に立ち上げた。人材(じんざい)の「ジン」、日本とリーチの母国・ニュージーランド(NZ)の頭(かしら)文字から名付けた。
関東大学リーグ2部Aブロックに所属する同部で分析担当のリーダーをしていた菅野(かんの)みちるさん(22)は、リーチと初めて打ち合わせした時のことを覚えている。プロジェクトの中身をスタッフらと模索していると、リーチはNZで電力発電の事業に関われないか、などと提案したという。
スケール大きい「JiNZプロジェクト」
「スケールが大きくてびっくりしました。それまで選手としてのリーチさんしか知らなかったけど、アイデアマンとしての一面を見てすごいなって」
菅野さんは練習や試合、取材の場にも同行した。ある日の練習後、リーチから部の状況を聞かれた。新型コロナの影響で公式戦が少なくなり、目標としていた入れ替え戦もなくなったこと、その中で学生がモチベーションをどう保てばいいのか悩んでいることを相談した。リーチは自身の経験やチームの存在意義について考えることを助言してくれたという。
リーチが菅野さんをスタッフに入れたのは、東京学芸大が教員育成に力を入れている学校だからだ。あえてアメフト部にしたのは、競技の枠にとらわれない活動にしたかったから。
リーチは言う。
「僕が子どもたちに話しても、全然伝わらない時があったんです。だから、菅野さんにアドバイスしてほしい。どうやったらフレンドリーに子どもたちと話せるのか。社会人、学生、子ども。誰とでもちゃんと話せるようになりたい」
自ら学び、成長する
若手に機会を与えるとともに、リーチたちも学び、成長する。新たな挑戦への大変さは感じているが、「影響力のある現役中にプロジェクトをやりたい。本職を忘れず、一つでも二つでも活動していきたい」とリーチは意欲的だ。
8強まで進んだ2019年ワールドカップ(W杯)ではホスト国の主将という大役を担った。アジアのラグビー支援も含むプロジェクトへの賛同者は増えている。今季、東芝の試合が行われる岩手・釜石(3月6日、三菱重工相模原ダイナボアーズ戦)での活動も計画中だ。
4月から故郷の福島県で小学校の教員になる菅野さんは、プロジェクトに参加して主体的に動くことの大切さを学んだという。
「自分がやりたいことをやりたい、と言える環境がある。今まで私は周りに流されることが多かったけど、自分の意思で物事を決めていくことが大事と思えるようになった」
「チャリで仕事場へ。それが大事」
15歳で来日してから「たくさんの人に支えてもらった。今後は僕が返していきたい」とリーチはさらりと言う。日本ラグビーの歴史を塗り替えた主将の見すえる地平は大きく広がっている。それでも、気負いを感じさせないのがリーチの最大の魅力だ。
「周りがワーッと言っても、変わらないことが大事。電車に乗ることができない存在になったらだめだよ。いつでもチャリ(自転車)で仕事場にいける。それが自分には大事」
昨シーズンがコロナ禍で途中打ち切りとなり、リーチは6月に体の数カ所を手術してリハビリに励んできた。12月にはフランカーで実戦に復帰し、「(19年)W杯の状態よりはよくて、トップリーグでスタメンのジャージー勝ちとって、もう1回日本代表に選ばれるように頑張っていきたい」
自然体で、最後のトップリーグに向かう。