ラグビー

特集:ジャパンラグビートップリーグ

神戸製鋼の李承信、SOに挑む異色の新人は未来の日本代表司令塔候補

新加入の神戸製鋼で一流のSOとポジション争いをする李承信(撮影・大坂尚子)

ラグビー・トップリーグの神戸製鋼コベルコスティーラーズに異色の新人がいる。昨春の「ジュニア・ジャパン」(日本代表予備軍)で共同主将を務めたSO李承信(リ・スンシン、20)。世界を目指して大学を中退し、紆余曲折の末に今季から神鋼に加わった将来の日本代表司令塔候補だ。

スケール大きなバックス選手

大阪朝鮮高では2年生から高校日本代表に選ばれた。3年生の時にはチームの主将として全国高校ラグビー大会に出場、ウェールズに遠征した高校代表でも主将を務めた。持ち前のハンドリングスキルや判断力を生かし、帝京大学で1年から活躍する。2019年冬の大学選手権の流通経大戦では、CTBでフル出場。トライはなくチームも敗れたが、守備で自分より大きな外国出身選手にタックルして相手の出足を止めるなど、存在感を見せた。

第98回全国高校大会1回戦でトライを挙げた(撮影・朝日新聞社)

世界目指して大学中退、コロナ禍に

高校、大学、トップリーグ、そしてゆくゆくは日本代表――。日本の多くのトップ選手が歩んだ道を、李自身も着実に歩んでいると実感した矢先だった。昨春、ジュニア・ジャパンで海外チームと対戦し、世界との差を痛感した。「このままではだめだ」と大学を中退して海外留学を決意した。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が重なり、渡航が厳しくなり断念せざるを得なかった。そんなとき神鋼から声がかかった。

スティーラーズとは、浅からぬ縁がある。李はラグビー一家の三男として神戸市で生まれ、4歳の時に兵庫県ラグビースクールで競技を始めた。神鋼の灘浜グラウンドで練習することもあり、隣で練習していた選手たちは、身近な「憧れの存在」だった。

距離が出るキックも魅力の一つ(撮影・大坂尚子)

高校時代に練習見学に訪れた際には、元ニュージーランド(NZ)代表のSOダン・カーターから、キックの足の使い方などを教わったことも。世界最多の代表通算1598点を誇る名キッカーの助言を「今でも覚えている」と言うほど、鮮烈な体験となった。

一流選手とポジション争い

神鋼は1988年度から日本選手権で7連覇し、トップリーグ初年度の2003年度シーズンに優勝した。18年度にはカーターらを擁して2度目の優勝を果たし、シーズン途中で中止となった19年度も6戦全勝だった。今季も、19年のワールドカップ(W杯)日本大会で活躍したプロップの中島イシレリ(31)やFB山中亮平(32)ら日本代表勢のほか、NZ代表で「世界最高のロック」と言われるFWブロディ・レタリック(29)もおり、層が厚い。

昨年10月から練習に加わった李はいま、SOに挑戦している。慣れないポジションだが、元々器用な性格。「どういうプレーをしたらいいか感覚はつかめてきた」と手応えはあるという。

新加入のSOクルーデンはNZ代表50キャップの名手(撮影・大坂尚子)

同じポジションには、そうそうたる顔ぶれがそろう。スーパーラグビーの日本チーム「サンウルブズ」でプレーしたヘイデン・パーカー(30)、そして新加入の元NZ代表のアーロン・クルーデン(32)。二人とも身長176cm、体重88kgの李と体格はさほど変わらないが、経験値が大きく違う。厳しいレギュラー争いになるが、デーブ・ディロンHC(ヘッドコーチ)は「(李は)学ぶ姿勢も素晴らしく、どんどん新しいことを取り入れて頑張っている。李も含めてメンバー選択をしていく」と話しており、チャンスはある。

厳しい環境に置いて自らを高めようとする20歳の新しい挑戦に、こちらも心が躍る。もう一つ楽しみなのが、この春からホンダヒートに加わる次兄の帝京大学フッカー李承爀(スンヒョ、4年、大阪朝鮮)との対戦だ。2月20日開幕予定の最後のトップリーグではリーグ戦の組分けが違うため、対戦が実現してもプレーオフトーナメントになるが「まず自分が試合に出ることだけど、いつか対戦できたら」と李自身も心待ちにしている。

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