ボート

特集:駆け抜けた4years.2021

立教大主将・橋本太一 誰よりも部を思い、みんなで目指した「ONE WAY」

ゴール後、雄叫びをあげてガッツポーズをする橋本(左から2人目)(写真提供・日本ボート協会提供)

ゴールした瞬間、4人の「よっしゃー!」という声が響き渡った。水面を叩き、空を見上げて大きくガッツポーズ。立教大学ボート部主将の橋本太一(4年、土佐)は、引退レースとなったインカレで優勝をつかみ取った。一艇身差からの逆転劇。文句なしの有終の美を飾った。

「ボート競技の魅力は?」と問うと「水の音がすごい好きですね。こう見えて繊細なキャラで通ってるんで」とちゃめっ気たっぷりな笑顔で答える。インタビューをおちゃらけて盛り上げてくれる橋本の印象を部員に聞くと、「主将が通るところはうるさい、立教大ボート部の目覚まし時計」と声の大きさをからかわれる。だが一方で、「真面目でザ・熱い男、歴代で1番の主将」と評価される。親しみやすさの裏に立教大ボート部への「熱い」思いを秘める。それが立教大ボート部主将・橋本太一だ。

思いがけない主将の船出

主将に自分がなると決まったとき、戸惑った。「今まで主将をやってきた人は3年生で活躍した人、メダルを取った人。僕だけとんとん拍子できてなかった」。橋本は1年生から全日本選手権やインカレに出場するも、1度もメダルを取ったことはなかった。歴代の主将に比べて実績がないことから主将を務める自信を持てず、監督に「違うやつがやったほうがいいんじゃないですかね」と言ってしまったほどだ。

しかし、「主将を任されたからにはやるしかない」と実績がないことを割りきり、主将であることの「自信を持てるような行動をしよう」。と覚悟を決めた。

「ONE WAY」をスローガンに

立教大ボート部は毎年、代替わりをすると新主将がスローガンを立てる。橋本が掲げたスローガンは「ONE WAY」。選手、マネージャー、トレーナー、それぞれの立場は違えども目指すべき目標はひとつ、そこに向かって自分たちの道を進んでいくという意味だ。チームとしての目標である「インカレ・全日本選手権優勝/全艇最終日進出」を「個人ではなくチーム」で達成したいという橋本の思いが表れたスローガンだ。

スローガンの意味の通り、「チーム」にこだわりを持ったのには理由がある。当時のことを橋本はこう語る。

「当時は勝てるやつは勝って負けるやつは負けるみたいな2分化されていた雰囲気があった」

2分化された雰囲気を変えるため、全体ミーティングや個別での話し合いの場を設けて自分の思いを伝えてきた。どのように意思疎通してチームを目標に導くか試行錯誤の日々。「本当にみんなを引っ張っていきたい」。ときには涙を流しながら語ったが、後輩の不満や、同期との意見の食い違いなど悩みは尽きなかった。しかし真摯に自分の思いを伝え、相手の気持ちを感じ取ることを続けたおかげで、後輩は理解を示し同期は橋本を支えてくれるようになった。

しかし、ようやく主将としてのペースをつかみ始めたころ、新型コロナウイルス感染拡大の影響で合宿所を解散し練習ができなくなった。

離れていてもチームを思う

橋本自身も練習ができないことに歯がゆさを感じ、モチベーションを失いかけた。しかし、「自分が1番怠けたら、チームの顔である自分が怠けたら、チームの柱を崩してしまう」と、主将という立場が橋本を奮い立たせた。自分が1番目標を失ってはいけない。全日本選手権やインカレで結果を残すため、筋力トレーニングに励み体を絞った。

チームとしてもZoomでミーティングを行い、練習のモチベーションを失わないために目標を再確認。練習の面でも橋本とコーチで考えたメニューを提示。トレーニングのお手本や意識する箇所の解説を行った動画を自ら作り、部員が家でもトレーニングができるようサポートした。また、ひとりでの練習は甘えが出やすい。みんなが甘えず練習をするため、ほぼ毎日Zoomを使ってみんなでトレーニングをする機会を作った。

活動自粛中も部員の練習の意識が下がらぬよう、工夫し続けた結果だろう。練習が再開されても体力を極端に落とした部員はいなかった。だからこそもう一度気持ちを切り替えて練習することができた。

後輩、同期、チームへの思い

コロナ禍に揺れた1年間。橋本は主将としてチームをまとめてきた。結果として橋本自身は男子舵手なしフォアで全日本3位と同種目では5年ぶりのインカレ優勝。さらにはチームを創部史上初の全日本3種目入賞、インカレで創部史上最多となる4つのメダル、4年生全員がメダルを獲得するという快挙に導いた。

優勝杯を持ち、笑顔を向ける橋本(右から2人目)(写真提供・立大ボート部)

お祝いムードのミーティング(新型コロナウイルス対策をしっかり行った上で、1カ所に集まらず合宿所内の別々の場所からZoomでつないで行った)で橋本はこう語った。

「負け続けたとしても諦めなければ自分みたいに優勝できる。僕たち4年生全員がメダルを取るっていうのは今までなかなかなかった。それだけすごいことをやったのだから、やっぱり1番次の年が見られる。俺らに追いついて追い越すぐらい頑張れよ」

自らもチームとしても勝利の栄冠に輝いたが、残念ながら全クルー入賞はかなわず負けてしまった選手もいる。勝った選手がほめられる中、ミーティングに参加するつらさを4年生になるまで散々負け続けたから痛いほど分かる。だからこそ出た言葉だ。

引退レースを終えた後も、勝った選手だけでなく負けた選手の気持ちをくむことができる。橋本が後輩、同期、チームのことを誰よりも思い、泥臭く詰め寄って「チームでの勝利」を目指したからだろう。

そんな橋本の努力があったからこそ未曽有の事態にも屈さず、立教大ボート部は飛躍できた。橋本からのバトンを受け継いだ後輩たちは、これからさらなる飛躍を見せてくれるだろう。立教大ボート部がインカレのあと「みんな」で笑う未来はきっと遠くない。

in Additionあわせて読みたい