陸上・駅伝

中央学院大、「18」で途絶えた箱根駅伝連続出場 悔しさを胸に復活を期すシーズンへ

中央学院大学のメンバーは皆、昨シーズンの悔しさを片時も忘れていない(写真提供・中央学院大学駅伝部)

昨年10月の箱根駅伝予選会で、上位通過候補に挙げられながらまさかの落選に終わった中央学院大学。予選会ではどんな敗因があり、その屈辱を糧に今年度をどのように戦っていくのか。川崎勇二監督、3年生で主将に就任した小島慎也(大阪)、エース候補の栗原啓吾(4年、東農大二)に、新たな一歩を踏み出したチームの現状と意気込みを聞いた。

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箱根駅伝予選会で突きつけられた現実

箱根駅伝では2015年から5年連続でシード権を獲得するなど、中央学院大は学生長距離界で確固たる地位を築いてきた。20年の11位でシードの座から陥落したものの、6年ぶりの出場となった昨年の予選会でも、レース前に死角は見当たらなかった。戦力は十分にそろっており、主力の最上級生数名を故障などで欠いたことを差し引いても、突破は間違いないと見られていた。チームも「トップ通過」が目標だった。

昨年の箱根駅伝予選会でチームが掲げていたのは「トップ通過」だった(代表撮影)

しかし、他大学が続々と好記録を打ち立てた一方で、中央学院大は多くの選手が苦戦を強いられ、まさかの総合12位に終わった。ぎりぎり10位で7年ぶりに本戦復帰を果たした専修大学とは37秒差。ひとりあたり3.7秒届かず、03年から続けてきた本戦出場が18年で途切れることとなった。1985年からチームを指揮する川崎監督は、「指導者としてやってきた中で、間違いなく一番ショックな出来事でした」と振り返る。

「予選会で落ちるという想定をしていなかったものですから、戸惑いとショックで立ち直るのがしんどかったですね。(敗因は)大きく分けて2つあり、自分たちの力を過信したことと、思っていた以上に他大学が力をつけていたという点に尽きると思います。これまでも予選会に出ていなくても、ああいう緊張感を味わわせようと、毎年、学生には予選会の会場には行かせていましたが、見るのと実際に戦うのでは違いましたし、私自身も正直なところ、予選会の戦い方を忘れていた。極端な話、無策に近い形で出てしまいました。それでも通るだろうと考えていたのが、過信や慢心だったと思います」

夢の箱根路にも寂しさ

今年1月の箱根駅伝では、小島は関東学生連合の一員として3区を走った。中学校で陸上を始めるきっかけとなった憧れの大会にデビューしたにもかかわらず、小島に高揚感や喜びはなかった。「思ったように調整がうまくいかなくて練習もあまりできていなかったので、走り自体がしんどかった」こともあるが、それ以上に肩からかけた襷(たすき)が母校のものではないことに寂しさを覚えたのだ。

小島(左)は関東学生連合チームで箱根路を駆け、3区で区間19位相当だった(代表撮影)

「前々回は大会前、箱根メンバーみんなで合宿に行き、チーム全員で本戦に向かっていくという雰囲気がありましたが、去年は自分ひとりだけ箱根に向けた練習をやっていたので、気持ちもパッとしない感じでした」

1年生の時に3区、2年では1区と、ルーキーイヤーから2年連続で箱根駅伝を走ってきた栗原は、沿道で走路員を務め、他大学の選手たちをその場で見送ることしかできなかった。「本来、走る目標だった舞台で見る側にいるというのは悔しかったですし、次こそは絶対に出てやろうという気持ちで見ていました」と語っている。

流れを変えるべく、3年生の小島が新キャプテンに

自分たちのチームがあの場にいないという、レースで敗れる以上の屈辱を味わってから約4カ月。中央学院大は新たな布陣で、すでに前へと歩みを進めている。

まず今年度から3年生の小島が主将に就任した。箱根予選会敗退から2週間後に臨んだ全日本大学駅伝でも目標に届かず(11位)、小島は「このままだとチームがどうなってしまうか分からない。流れを変える意味でも自分がキャプテンをやることで、チームがいい方向にいくかな」と考え、自ら手を挙げた。川崎監督は昨年度の4年生と話し合い、その思いを酌む形で正式に指名した。

「きちんと意見を言えますし、自分から名乗り出るくらいだから責任を持ってやってくれるだろうと。今の4年生は役につぶされそうな面がある反面、小島は役をつけると張り切るタイプなので、上級生からも何の異論もなくチームは動いています」

小島は自ら手を挙げて主将になった(写真提供・中央学院大学駅伝部)

高い目標よりも現実的に達成できそうな目標に

チーム目標は、箱根駅伝後の選手ミーティングで、「箱根と全日本の2つの駅伝で8位、箱根予選会は3位以内での通過」と掲げた。その意図を小島は「最近は高い目標を立てても達成できないことばかりでした。意見が分かれましたが、シード奪還も含めて、現実的に達成できそうな目標にしようと。予選会も上位で通過できないと本戦では戦えませんが、まずは通過しないと始まらないという考えから3位以内に決めました」と話す。

川崎監督は予選会で敗退した直後、これからどのようにチームを強化していくべきか、すぐには頭を切り替えられなかった。そして、その答えは今も明確に見出せていないという。

「練習の中身としては、ベースを上げていくのが当然だと思いますし、すでに取り組んでいます。しかし、それ以上にチームの目先がどんどん下がっていた。部員たちにどうやって少しでも上を目指せる雰囲気を作っていくかが一番大切で、色々と試行錯誤していますが、それに関してはいまだ結論が出ていません。出れば簡単なことなのでしょうが、手を替え品を替えながら試みているところです」

エースの栗原や武川、元気な下級生がチームを牽引

そんな指揮官の懸念を吹き飛ばすかのように、選手たちは力強く毎日を過ごしている。チームを牽引(けんいん)するのが、大黒柱の栗原だ。「先輩たちが卒業し、練習でも試合でも常に一番上で引っ張るポジションの人がいなくなったので、そこは最上級生になった自分が担いたい」と、3月14日の日本学生ハーフマラソン選手権では1時間3分24秒で7位。4月24日の日体大記録会10000mでは、それまでの自己ベスト(28分35秒00)を大きく更新する28分03秒39の大学新記録をマークした。エースとしての自覚も芽生えてきたという。

「(他校のエースに対して)今までは実力面で見劣りしていましたが、タイムを出すことによって少しずつ自信がついてきました。(自分が描くエース像は)チームの中で常に一番で走り続けて、他大学の強力な選手と張り合える実力者。みんなからも言われるので、自分がエースという気持ちが出てきました」

堀田晟礼(市立千原台)や吉田礼志(拓大紅陵)ら、期待の1年生が多数加入したことも、チームを勢いづけている。川崎監督は入学早々の彼らに「中じゃなくて外に目を向けなさい。チーム内で何番とかではなく、他大学の力のある選手との差を気にするように」と説いた。強い後輩の存在を小島は「いい刺激になっています。1年生があれだけ走れるなら自分たちも走れないとやばい、という思いを全員が持っていると思います」と頼もしく感じている。その小島は、箱根駅伝の時から痛めていた右足甲の故障が長引いたが、4月に入って戦列に復帰。主力の足並みがそろってきたことで、チームの雰囲気もすこぶるいい。

栗原はエースとしての使命を胸に、チームを自らの走りで支えている(写真提供・中央学院大学駅伝部)

練習では栗原と、前々回の箱根6区で区間5位と好走した武川流以名(3年、島田樟誠)が2人でペースを作り、そこに伊藤秀虎(2年、四日市工)や堀田、吉田のルーキーコンビが食らいついている。4月の各記録会10000mでは、栗原以外にも武川が28分40秒48、伊藤が28分54秒30、吉田が28分56秒29と、それぞれが自己新で28分台に突入。堀田も初の10000mで28分49秒05をたたき出した。

川崎監督は「やることやれば結果はついてくる。他の選手たちには、この5人に少しでも追いつくように指導しています」と話し、「今年度は10000m28分台を10人以上そろえたい」という青写真も、28分42秒41を持つ小島を含めてすでに6人。「3、4年生で29分前後が何人かいますので、その子たちがしっかり練習を継続し、迎える試合に合わせてくれれば結果を出せるはず」と、確かな手応えをつかみつつある。

まずは全日本の選考会で結果を出す

トラックシーズンのターゲットは、6月19日の全日本大学駅伝関東学連選考会。ここできっちり本戦の出場権をつかみ取り、夏の鍛錬期を経て、10月の箱根予選会に臨んでいくつもりだ。春先は好スタートを切ったものの、「選手の頭数はそろっていますが、前回の予選会も4年生の主力を欠いたりしたので、とにかく全員が故障なく狙った大会を迎えようと、ずっと口うるさく言っています」と川崎監督に油断はない。栗原も小島も「また同じような悔しい思いをしたくない」と口をそろえる。

本戦の連続出場が途切れたという事実は変えられない。しかし、あの落選があったからこそ、中央学院大はこれまで以上に強くなる。

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