陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

7年ぶり69度目の箱根路へ! 箱根駅伝出場を決めた専修大学の「伝統への挑戦」

専修大学陸上競技部に取材させていただきました!(写真提供:専修大学陸上競技部)※M高史撮影以外、全て写真提供:専修大学陸上競技部

今回の「M高史の駅伝まるかじり」は、箱根駅伝予選会で10位となり、7年ぶり69回目の箱根駅伝出場を決めた専修大学へ取材に伺ってきました。昨年「M高史の走ってみました」でも取材しましたが、この1年でどのような変化があったのか、監督、選手、マネージャーの皆さんにお話をうかがいました。

箱根駅伝復活を狙う専修大、「挑み、結果にこだわる」練習に参加してきました!
寮内には千羽鶴で作られた「専修大学」の文字が飾られています(撮影:M高史)

長谷川淳監督「通過できる手応えはあった」

指導されているのは長谷川淳監督。私、M高史と同い年です。長谷川監督は専修大学のOBで箱根駅伝に出場。その後は実業団のSUBARUで競技を続け、2015年に母校・専修大学でコーチに。2016年12月、監督に就任しました。

今年はコロナ禍の影響で6月末まで各自練習。家族から要望があった選手は帰省し、寮に残っていた選手もいたそうです。7月に入り、帰省していた選手たちも寮へ戻り「チームも活気づき、ムードも明るくなりました」と長谷川監督。しかし「いよいよここからという気持ちでしたが、まだ箱根があるのかわからない状況で(選手たちも)不安はあったと思います」と正直な気持ちを語りました。学内タイムトライアルも4回実施。暑い中、1、2年生を中心に自己ベストを出す選手が出てきました。

長谷川淳監督。母校・専修大学を7年ぶりの箱根路へ導きました(撮影:M高史)

昨年のエース・長谷川柊選手(現・カネボウ)の卒業で危機感が生まれたことにより「中間層が昨年より強く、1年生も強力で楽しみでした。自己記録のランキングでは20位でしたが、練習内容を見ていて通過できる手応えはありました」

予選会を突破! 本戦へ!

今年は陸上自衛隊立川駐屯地での周回コースでの開催。ミーティングでは気象条件も伝えて、綿密な準備。さらに今年は選手への声かけが禁止されていたため、ホワイトボードを駆使して選手にレース中の情報伝達や指示を行いました。

1周目では指示を出す場所を全員が確認。2周目以降は途中の順位。後半では当落線上のチームとの差など、レース展開に応じて、祈る思いでボードに書き込み、選手に掲示されました。

選手に見えやすいようにボードでレース状況やタイム差を伝えます

ボーダーラインとなる10位での通過。7年ぶりの69回目の箱根駅伝本戦出場が決まりました。法政大学が後半追い上げていたため、法政大学との差を意識していたとのこと。

レース後、祈る思いで結果発表を待つ専修大学の皆さん

結果発表で8位に法政大学が呼ばれて「厳しいかも」という空気が一瞬チームに漂ったそうですが、10位で大学名を呼ばれて「ちょっとびっくりしましたが、率直に嬉しかったですね。選手たちが『自分たちがやってきたことを証明できたこと』が嬉しかったですし、この経験は選手たちにとっても今後の人生において自信になると思います」と選手と喜びを分かち合いました。

箱根出場を祈願して2016年から準備していた「だるま」に目を入れる瞬間です(撮影:M高史)

学生時代は専修大学の選手として箱根駅伝を走った長谷川監督。今度は監督として運営管理車で箱根路へ。「選手に感謝ですね。1つ夢を叶えさせてもらいましたし、この先も追い続けていきたいですね」

現役部員はもちろん、卒業生にとっても嬉しい箱根本戦出場です!(撮影:M高史)

ちなみに運営管理車には学生連合で長谷川柊選手が出場した2018年にコーチとして乗車。「選手のエピソードや、キツくなったときにどういう声かけをするかも準備しておきたいですね!」。箱根本戦での長谷川監督のマイクにも注目です!

箱根駅伝本戦出場を決め、選手たちから胴上げされる長谷川監督

「柴内康寛コーチ、五ヶ谷宏司コーチ、トレーナーさんと協力しながら、学生とのコミュニケーションを大切に、みんなが目標を持ってしっかりやっていけるように指導していきたいですね」と話す長谷川監督。『伝統への挑戦』をスローガンに掲げ7年ぶり69度目の箱根路に挑みます。

チームを引っ張る4年生の存在

続いて選手にもお話をうかがいました。まずは主将の茅野雅博選手(4年、鶴翔)です。

主将の茅野雅博選手。予選会ではチーム内2位の1時間02分54秒(撮影:M高史)

「専修大学は監督、コーチとしっかり相談して自分で考えて練習できるのが魅力です。エースだった長谷川さんの卒業で、今年は全員で戦うチームになりました。お互いライバル意識、競争意識が強まりましたね。長谷川さんに頼っているつもりはなかったのですが、いま思えば多少なりとも長谷川さんがタイムを稼いでくれるだろうという気持ちがあったかもしれないです。今年は一人ひとりが頑張らないと通らないと危機感がありました」

6月まで故障していましたが、7月から復帰。1週間前には調子も上がってきていたので62分台も見えてきたそうです。「(同学年の)森島嘉大選手(美濃加茂)が1人で押していける選手で、1km3分ペースで押していってくれると信じて走っていました」。森島選手が安定して走れるということで、集団走は森島選手にまかせて、茅野選手やルーキーの木村選手は集団よりも前で走り貯金を作ることができました。

5km通過7位、10km通過7位、15km通過10位、18km通過10位という情報が入り「箱根にいきたいという気持ちが体を動かしました」。結果、チーム内2位となる1時間02分54秒で個人56位。本戦出場を決め、「キャプテンとしていろんなものが報われました」

箱根本戦は、来年以降の足がかりとなるようなレースに、専修大学がいい流れになるような本戦にしたいといいます。個人としては後輩に何ができるのか、自分たちの練習が本戦でも通用するのを見せたい、と思いを語ってくれました。

ちなみに、茅野キャプテンのお話に出てきた森島嘉大選手。3年生までは故障続きでハーフマラソンの自己記録は1時間10分54秒。故障中も高尾山で7時間ウォークを敢行するなど、諦めず腐らずに地道に出来ることを続けてきました。4年生になり、一番キツい練習も全部引っ張って、メンバー入り。予選会ではハーフの自己記録を7分以上も更新する1時間03分12秒。チーム内4位で個人86位に入りました。

森島選手は柴内コーチのお子さんが産まれた際にもぬいぐるみをプレゼントしてくれたそうで、明るくて気が利く性格なんだとか。森島選手が最後にチャンスを掴み取ったことで、周りの選手も刺激されて中間層の強化にもつながっていったのではないでしょうか。

注目のルーキー木村暁仁選手!

そして期待のルーキー・木村暁仁選手です。出身は強豪・佐久長聖高校。「自分の走りで箱根に出場していないチームが出られたらかっこいい」ということで専修大学に進みました。

予選会でチームトップの1時間02分44秒で個人44位となったルーキーの木村暁仁選手(撮影:M高史)

高校時代、忘れられない出来事は高校2年生の全国高校駅伝。駅伝メンバーに入り、1週間前まで調子も上がっていたそうですが、刺激の練習で足を痛めて最終刺激で骨折。「現地で足を引きずって歩いている時に、たまたま長谷川監督、柴内コーチとすれ違って励ましてくださいました。走れなくて悔しくて、それ以降、より一層故障に気をつけるようになりました」。高校3年生の時には5000m14分11秒96まで記録も伸ばしました。

大学に入ってからは、集中とリラックス、メリハリのある生活を送っています。コロナ禍の影響で初めてのオンライン授業も「同じ学部の先輩や同級生に助けてもらっています(笑)」とチームメイトと助け合って乗り切っています。

6月までは実家に帰省。「1人でやりきる追い込む練習ができました」と手応え。8月は故障もありましたが、そこから練習を重ねていくうちにチーム全体の練習を引っ張れるようになっていきました。

今シーズン初レースとなった予選会。学内タイムトライアルはあったものの、他大学の選手と競うのは大学入学後初めてでしたが「予選会では先輩方の落ち着いていこうという声かけにリラックスして走れました。自信もありましたし、規模の大きい記録会みたいな感じで、まわりにたくさん人がいたので集団で走る楽さもありましたね」

1年生ながらチームトップとなる快走をみせた木村選手

1時間02分44秒でチームトップとなる個人44位。「タイムに関してはコースも平坦で、走りやすい気候だったこともあり、タイムは過信していないです」とさらなる高みを見据えています。

他大学の1年生で特に意識している選手を聞いたところ、まず名前があがったのが同じ佐久長聖高校出身の駒澤大学・鈴木芽吹選手でした。高校時代は鈴木選手がキャプテン、木村選手が寮長だったそうです。

そして、神奈川大学の宇津野篤選手は中学1年生の時からライバルで、高校時代はチームメイト。大学では再び別のチームということで意識しているそうです。また、順天堂大学・三浦龍司選手(洛南)、吉居大和選手(仙台育英)といった同学年のスーパールーキーに対しても「4年生のときにはしっかり勝っていきたいです」と闘志を燃やします。箱根本戦でも「爪痕をしっかり残したいです!」と力強く語りました。

チームを支える吉本優成主務

2年生ながら主務を務める吉本優成マネージャー(須磨学園)にもお話をうかがいました。選手として入学も今年からマネージャーに転向した吉本さん。練習の過程をよく見て、選手が自己ベストを出していけるように、どういうサポートをしていけるかと常に心がけています。

2年生ながら主務を務めるマネージャーの吉本優成さんです(撮影:M高史)

例年とは違い声を出せない箱根予選会。「選手に見せられる情報をしっかり見せること、選手が現状把握できるように意識していました」。レース後、選手から「よく見えた」という声は嬉しかったといいます。

吉本さんは予選会で給水を担当。今回は感染症対策のため給水を手渡しすることができず、各大学の決められたテーブルで選手自身がペットボトルをとり、キャップを開けて、給水をして、キャップを閉めて、回収エリアに投げるというルールでした。

「テーブルに置いてある給水をとる練習もしました。最初はキャップの開け閉めがうまくいかなかったりもしましたが、その1人1秒〜2秒が最後の差につながると思い、実際に練習しておいて本番慌てずに良かったです」と給水の練習まで行い、本番に備えていました。

「予定通りまとまっていたので、『このままいけばいける』という雰囲気がありましたが、ヒヤヒヤしましたね。発表を聞いた時は嬉しかったです」とふりかえりました。

ちなみに吉本さんの姉・美和さんも陸上・長距離で全国大会出場経験もあり、須磨学園・日体大を経て、現在は須磨翔風高校で陸上部の顧問をされています。「誇りを持って、チームのために最善を尽くして頑張ってほしいです!」と姉・美和さんも弟さんのマネージャーとしての頑張りを応援しています。

吉本さんは2年生から主務ということで、柴内コーチによると「長期的な視野でマネージャーも育成していきたい」ということもあるそうです。大変なこともあると思いますが、ぜひ現状打破してほしいですね!

「伝統への挑戦」を掲げ、いざ7年ぶりの箱根路へ!(撮影:M高史)

専修大学のみなさんの箱根での走りも、さらに楽しみになりました!

M高史の陸上まるかじり

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