トップ選手たちも集結! 中距離のための「もう一つのインカレ」を取材しました!
10月27日(火)に駒沢陸上競技場で開催された「東京陸協ミドルディスタンス・チャレンジ」(東京陸上競技協会主催、TWOLAPS TC共催)に伺ってきました。またの名を「もう一つのインカレ」。コロナ禍で引退レースがなくなってしまった大学4年生のためにと、横田真人さん(TWOLAPS代表)が声を上げて、わずか1カ月ほどで起案から開催までに至ったそうです。
大学4年生だけではなく、大学生、社会人、日本記録保持者、プロランナー、YouTuberまで出場。真剣勝負の中で笑顔あり、涙ありの1日となりました。
日本を代表する選手たちがペースメイク
コロナ禍での開催ということで、日本陸連のガイダンスに従って、選手・関係者・取材者も体調チェックシートの提出や入場口での体温チェックがあっての入場。そして無観客での開催となりました(動画配信あり)。
ロンドンオリンピック800m日本代表でTWOLAPS代表の横田真人さんが声をあげ、TWOLAPSを拠点にトレーニングを行う館澤亨次選手(DeNA)、楠康成選手(阿見AC)、卜部蘭選手(積水化学)、慶應義塾大学の樺沢和佳奈選手(4年、常盤)といった選手たちがペースを引っ張る超豪華布陣。
今年の1500m日本選手権チャンピオン・館澤選手も何度もペースメーカーで登場。走りを引っ張るだけでなく、レース後に気さくに選手たちに話しかけていました。一緒に走った選手たちは、もうすっかり館澤選手の大ファンになってしまいますね(笑)。
4年生の引退レースに花を添えて
印象的だったのは、中距離レースのスピード感と迫力です! 取材中、お隣だった報知新聞社の太田涼記者(学生時代は順大で主務)とお話をしていて、お互い長距離のマネージャーだった身としては、長距離レースではあまり見られないようなラップが刻まれていくのが「なんだかとても新鮮ですよね!」と話していました(笑)。
EKIDEN News主宰でもおなじみ西本武司さんがマイクを握り、選手たちにレース前には意気込み、レース後には感想をインタビュー。選手のリアルな声を聞くことができるスタイルでした。また4年生にはレース後に花束が渡され、選手の皆さんも結果の良し悪しに関わらず引退試合をセッティングしていただいたことに感謝とともに、すべてを出し切ったような表情をされていました。
慶應義塾大学で中距離ブロック長を務める渕脇慶伍選手(4年、横須賀)もラストレース。「(上半期、集合できない中でも)キャプテンとしてみんなが目標を見失わないようにスプレッドシートを活用して、情報共有していました。みんな違う場所にいてもモチベーションを保てるように工夫していました」と、主将として気を配っていました。
大学の先輩でもあり、コーチでもある横田さんについては「横田コーチはお忙しいのですが、お忙しい時でも的確な指示を文章でくださいます。基本的に理論派ですが、いい意味で時々人間っぽいというか(笑)人としての魅力を感じる方です」。将来はパイロットになりたいという渕脇選手。大学卒業後は新たなフィールドに飛び立ちます。
女子800mにはデフリンピック日本代表が登場!
女子800m1組には、デフリンピック日本代表・岡田海緒選手(MURC)が出場。この春、日本女子体育大学を卒業し、アスリート社員として競技を継続している岡田選手は聴覚障がいアスリート。デフリンピック日本代表で、昨年の世界ろう者室内陸上競技選手権大会1500mの銀メダリストです。
岡田選手は「スタート直前、選手紹介の際、私は耳が聞こえないため関係者に何か合図を出していただくようお願いしたところ、急なお願いにもかかわらず快く引き受けてくださいました。運営スタッフの方々の柔軟な対応に非常に感謝しています」。レースの方では2分20秒52で4着と目標の記録には届かなかったようですが、「このような競技会が開催されることによって中距離の認知度が上がり、陸上競技がさらに盛り上がると思います。今後も開催されることを強く望んでいます。(今後の目標は)来年開催予定のデフリンピックに向けて、今できることを全うしたいですね!」と中距離への熱い気持ち、今後の目標を話されました。
出場選手もペースメーカーも豪華すぎる女子1500m
木南記念800mで優勝もフィニッシュの際に転倒し心配された田中希実選手(豊田自動織機TC)は女子1500mに登場。ペースメーカーは卜部蘭選手が務めるという豪華すぎるレース展開。田中選手はラスト300mを46秒8(手元の計測)でカバーし、日本記録保持者の貫禄を見せ、4分10秒41で優勝を飾りました。
田中選手に続いてチームメートの後藤夢選手(豊田自動織機TC)が4分17秒08で2位に入りました。後藤選手は今年の日本選手権で1500m3位に入った実力者です。
田中選手と後藤選手、中学時代は同じ地区でライバル。高校時代は西脇工業高校で一緒に駅伝を走ったチームメート。高校卒業後は田中選手のお父様である田中健智コーチのもとで、後藤選手も一緒に指導を受けています。
「(田中選手は)集中しているともう空気が違いますね。一切妥協をしない姿勢など本当に尊敬しています。(今後については)長い距離がまだまだです。スピードも自信をつけて、スタミナも強化して1500mでも4分10秒切りたいです」と田中選手の背中を追いかけます。
川内優輝選手が中距離で現状打破!
また今回のエントリーリストには、中距離を主戦場としている選手以外のお名前も。百戦錬磨の現状打破プロランナー・川内優輝選手(あいおいニッセイ同和損保)。さらに、以前記事でも書かせていただいた桃澤大佑選手(サン工業)も800m、1500mに出場。
川内優輝選手のレース。ものまねをさせていただいている身としては取材を忘れてついつい応援に力が入ってしまいます(笑)。スパイクで出場した800mでは1組に登場し、2分02秒97で5着。スタート直後、セパレートコースを走る川内優輝選手のお姿はとても新鮮でした!
800m1組から約2時間後の1500m4組にも出場。今度はマラソンシューズで走られて、3分56秒22で6着でした。
レース後の囲み取材では、プロに転向したばかりの昨年は月間1000kmの走り込みにも挑戦されたものの、疲労がたまってスピードが出ず思うような走りができなかった、というお話がありました。今年は高地トレーニングで月間700kmから800kmの走行距離に抑えたところ、走りにキレも出てきたと自己分析されていました。今後は八王子ロングディスタンスの10000mを経て、福岡国際マラソン、防府読売マラソンと続く予定です。
ちなみに、川内優輝選手も走られた1500m4組にはパラリンピックで日本代表選手の伴走経験も豊富な41歳の中田崇志さん(関東RC)も登場。3分58秒20で1500m41歳の年齢別日本記録を更新。高校時代から23年もの間、1500m3分台で走られているそうです! 今の学生さんが生まれる前から3分台って、それも凄まじいですね(笑)。大学生の皆さんとは年齢も倍くらい違いますが、きっと皆さんにも刺激になったのではないでしょうか。
激アツの800m最終組
800m日本選手権3位、日本インカレ優勝などの実績を残されてきた三武潤選手(TSP太陽)の引退レースとなった800m最終12組。
1着は山中優選手(清新JAC)。高校まで野球部で大学では体育会陸上部ではなく同好会で走っているという異色の経歴。「(24日の木南記念で800m2位と)疲れがある中、積極的にいきました。ラスト200mが課題ですね。来年、日本選手権が目標です」。後続の追走を振り切り1分50秒80で1着フィニッシュ。
帝京大学OBでYouTuberたむじょーさんも出場。全日本・箱根を経験し、日本インカレ3000mSC5位と長距離の実績は申し分ないですが、今回は800mという専門外の種目。「ビビったら絶対勝てないと思ったので、攻めの姿勢を常に意識しました」という走りで、1分51秒60で4着に入る大健闘!
レース後、たむじょーさんは「ペースメーカー、運営の進行、段取りも完璧で、選手としても集中して取り組めました。僕も今までの陸上の概念から少し外れたような大会を開催してみたいですね! 陸上競技の楽しさを知ってもらったり世界に向けて発信していきたいです!」と大いに刺激になったようです。
横田さんも朝から準備、レース進行など立ちっぱなし動きっぱなしで疲れのある中、この組に出場。ラストの直線でたむじょーさんを抜き返して1分51秒51! 横田さんにわずかに軍配が上がりました!
横田真人さんが語る中距離の魅力
レースが終わって、横田さんに中距離の魅力についてお話をうかがいました。
「ありきりたりかもしれませんが、レース中の駆け引きが中距離の魅力です。あとはみんな純粋ですね。『みんなで頑張ろうよ』という空気があります」
続いて「競技で食べていくのは大変です。いまは良くても結果を出し続けるのは大変です。裾野を広げていく、価値を高めていく。日本のトップの選手たちとこうして一緒に走れる機会というのはなかなかなかったですが、うちの(TWOLAPS)選手たちのおかげでできましたね!」と指導されている選手たちへの感謝も口にされました。
「来年また開催したいです。そして、サーキットのような賞金レースを全国で展開したいです。例えば田母神(一喜、阿見AC)が福島で、楠が茨城でこういう競技会を開催できたらいいですね。陸協の課題として、若いボランティアが集まりにくいという点があります。その架け橋になっていきたいですし、広がり、新しい形を作っていきたいです」。既存の常識にとらわれず、常に現状打破されている姿勢がうかがえます。
さらに、横田さんから名前があがったお二人にもお話をうかがいました。
田母神一喜選手(阿見AC)
「まずは競技で活躍することですね。オリンピックに出場したいです。スポンサーさんを集めるのもそうですし、将来指導者になるのも、やはり結果を出していると説得力が違うと思います。将来は福島でニューイヤー駅伝に出場できるチームを作りたいですね。福島には陸上熱があるんです。単体の企業ではなくスポンサーを集めて新しい形を作りたいですね。そのためにも繋がりが大切です。夏に福島で開催したバーチャレ(Virtual Distance Challenge)のような地域に貢献できるように今から行動していきたいです」。ご自身の競技、地域への貢献、将来の展望まで明確なビジョンをお持ちな方でした!
楠康成選手(阿見AC)
「今日はペースメーカーで6本走りました。今日が引退レースという大学生もいる中で、独特の緊張感がありましたが、しっかりペースを刻めました。注目度も競技人口もまだ少ないですし、トップの選手たちと走れる機会がそのレベルに達するまでないのは問題だと思っています。今日のような機会を今後増やしたり、アシストしていったりしたいですね!」ご自身の競技はもちろん、田母神選手同様に『貢献したい』という言葉が聞かれました。
TWOLAPSの皆さんの競技はもちろん、地域貢献や活動にもますます注目ですね!
東京陸上競技協会「開催できて本当によかった」
そして横田さんからの相談を受けて、急ぎ準備を進めてこられた東京陸上競技協会。東京陸協で事務局長をされている森田光二さんにもお話をうかがいました。
「横田さんから声をかけてもらって、1カ月しかない中、急ピッチで開催にこぎつけました。競技場を予約するには日程的にもう土日が難しかったので、平日開催となりました。横田さんに大学生を中心に声をかけてもらって、本当によく集まりましたね。中距離にしぼったのもよかったですね。大学生の引退レースも実現でき、開催できて本当に良かったです」。来年も開催するという方向で、すでに横田さんとお話されているそうです。
今回、庶務係を務められた春山志津江さんは「最初に聞いた時にとても魅力的な大会だなという印象でした。平日開催ということで、有休をとって仕事を休んでまで参加した東京陸協の役員もいるくらい魅力を感じていた方も! ペースメーカーの方たちも豪華でしたし、横田さんのお人柄も素晴らしいですよね。1カ月しか準備期間がない中、本当に素晴らしい競技会でした!」と審判、役員の皆様も笑顔になれる競技会でした。
また有志で集まられたボランティアの皆さんも受け身ではなく主体的に、一緒になって作り上げようとする雰囲気が伝わってきました。来年以降も開催するとのことで、さらに中距離界も熱くなりそうですね!
今回は無観客試合となりましたが、観戦できる状況になったら、きっとさらに会場も選手も熱く盛り上がるんだろうなと確信できる素晴らしい競技会でした! 今後も楽しみにしていきたいです!