陸上・駅伝

特集:第100回関東学生陸上競技対校選手権

日体大・藤本珠輝が見せたエースの覚悟、攻めた走りで関東インカレ2種目入賞

藤本(20番)は「攻める」と心に決め、最初から先頭集団で勝負した(撮影・藤井みさ)

第100回関東学生陸上競技対校選手権

5月20~23日@相模原ギオンスタジアム
藤本珠輝(日本体育大3年)
男子1部10000m 4位 28分18秒52
男子1部5000m 6位 14分00秒74

関東インカレ初日、日本体育大学の藤本珠輝(3年、西脇工)は先輩の池田耀平(現・カネボウ)から1本のLINEを受け取った。「エース頑張れ!」。その返事に藤本は「攻めます」と返したという。その言葉通りの走りで、男子1部10000mで4位(日本人2位)、5000mでは6位(日本人4位)と力を示した。

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留学生に食らいつき、先頭集団で勝負

実のところ、藤本は10000mのレースはまだ2回しか経験していない。どう走ったらいいのか迷ったが、「エースとしての走りをしなければいけない」と考え、最初から先頭集団についていくと決意した。

レースはジェームズ・ブヌカ(駿河台大4年)が先頭、その後ろに早稲田大学の中谷雄飛(4年、佐久長聖)と太田直希(4年、浜松日体)がぴったりとマークし、藤本はサムソン・ディランゴ(流通経済大1年)とともに4番手についた。2000mをすぎたあたりで2つの集団に分かれ、先頭集団は13人ほどに絞られた。

6000mをすぎたあたりでディランゴが加速すると、石原翔太郎(東海大2年、倉敷)が反応。2人が一気に前に出ると藤本も食らいつく。先頭集団はディランゴと石原、ブヌカ、藤本、中谷の5人になった。しかし前3人のスピードについていけず、残り3周からは独走へ。そのまま順位を守り、4位でフィニッシュ。記録は28分18秒52だった。

6000mをすぎてから離されてしまったが、そこから切り替えて、順位を保った(撮影・藤井みさ)

第2集団を引っ張り、ペースアップにも対応

中2日を挟んでの5000m、藤本はまず先頭を走り、ディランゴが上がってきてからは鎌田航生(法政大4年、法政二)とともにすぐ後ろについた。先頭がブヌカに変わり、集団の中ほどから上がってきた三浦龍司(順天堂大2年、洛南)が藤本に並ぶ。

2000mをすぎたところでディランゴとブヌカの2人が抜け、藤本が第2集団を牽引(けんいん)。すると早稲田大の千明龍之佑(4年、東農大二)と井川龍人(3年、九州学院)が藤本のすぐ後ろに並び、残り4周で千明がペースを上げる。千明を先頭に三浦、市村朋樹(東海大4年、埼玉栄)、井川、藤本の5人の集団となり、残り3周で井川が後退。藤本も食らいついたが、残り2周のところで離されてしまい、ラスト1周へ。苦しさで顔をゆがめながら、14分00秒74でゴール。日本人トップの2位でゴールした三浦から握手を求められると、藤本は笑顔で応えた。

走り終えた直後は苦しい表情だったが、三浦(4番)から握手を求められ、笑顔で応えた(撮影・松永早弥香)

池田がもつ日体大記録の更新を

10000mを終えた直後、藤本は「正直、入賞が目標で、1点でも得られれば自分としては上出来かなって。思っていた以上に走れて、自分でもびっくりです」と口にした。慣れない10000mゆえに、レースの流れに乗って走ったことを「ちょっと情けないんですけど」と言ったものの、そこで勝負できたのは紛れもなく藤本の力だろう。

同じレースには27分台をマークしている中谷や太田の姿もあり、最初は少しびびっていたという。しかし練習を積み、記録会でもタイムを出せていたことで、「自分の力を信じよう。攻めよう」と自分を奮い立たせることができた。この10000mでの走りが自信になり、5000mでも躊躇(ちゅうちょ)することなく前に出た。

昨シーズンまで、チームには10000m27分台の記録をもつ絶対的エースの池田がいた。藤本も「すごく頼りっきりだった」と振り返る。そして今は玉城良二監督から「エースとしての自覚を持て」と言われる立場になった。10000mの日体大記録は昨年12月に池田が記録した27分58秒52。「いい指標になりますよね。池田さんには何一つ勝てていないので、今年、来年挑戦して、池田さんに俺がエースだと思われたいです」

藤本は小学5年生で発症した全身脱毛症という病気を抱え、ウィッグ(かつら)を着けて競技に臨んでいたが、このところ症状が落ち着いていたため、関東インカレではウィッグをつけずに臨んだ。「でもまだちょっと耳周りが生えていないんで」と、ヘアバンドを着用。これまでウィッグを固定する意味もあってはちまきをしていたこともあり、ヘアバンドをした方がしっくりくるそうだ。自分が走ることで、少しでも病気のことを知ってもらえたらという思いもある。

6月19日の全日本大学駅伝関東地区選考会でも、エースとしての走りが求められている(撮影・松永早弥香)

今年から上級生になり、これまでよりも心のゆとりが持てるようになったという。その一方で、後輩たちの見本になれるよう、日常においても気持ちを引き締める。そうした言動一つひとつもまた、「エースとしての覚悟」ということだろう。

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