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特集:いざ、東京オリンピック・パラリンピック

稲見萌寧、国内女子プロゴルフで無類の強さをみせるモネは大学4年生(上)

日本女子プロゴルフツアー通算7勝の稲見萌寧。日本ウェルネススポーツ大の4年生(撮影・朝日新聞社)

今、日本の女子プロゴルフ界でもっとも勢いのある選手だ。日本ウェルネススポーツ大学の稲見萌寧(もね、4年、日本ウェルネス/都築電気)、21歳。

今年、国内ツアー出場12試合で5勝。コロナ禍でシーズンが昨年と統合されているため、昨年の1勝と合わせ今季6勝。シーズン6勝は史上9人目(12度目)の記録だが、21歳298日での達成は、宮里藍の20歳154日に次ぐ若さになる。年間獲得賞金もすでに1億円を超え、賞金ランキングでトップに立つ小祝さくらを2位で追う。そして、渋野日向子らと争う東京オリンピック代表の座を巡る戦いにも注目が集まっている。

記録ずくめの圧勝、東京五輪も視界に

記録ずくめ、まさに圧巻の強さを見せたのが、5月22、23日の中京テレビ・ブリヂストンレディス(中京GC石野C)。天候不良で2日間の短縮競技となったが、初日、ツアー新記録となる13バーディー、最少ストロークタイの61で首位に立ち、最終日は4バーディー、ノーボギーの68でまとめ、通算15アンダー。2位以下を寄せつけず、6打差をつけて圧勝した。これで今年の開幕前には63位だった世界ランキングは22位に浮上。日本選手の上位2名に出場権が与えられる東京オリンピックの日本代表有力候補となっている。

ストロングポイントは正確無比のショットと無類のメンタルタフネス。

「ゴルフは個人競技ですから」

凛とした口調で言う。取材中に何度も口にしたその言葉からは、チームスポーツとは明らかに違う、一種独特とも言えるゴルフという競技の特性と、そこに早くから身を置いたことで備わった高いプロ意識が窺(うかが)い知れる。

高いプロ意識で優勝を重ねている(撮影・矢崎良一)

「○○世代」意識しない

女子ゴルフ界のニュージェネレーション。15歳で国内ツアー最年少優勝を果たした勝みなみ、海外ツアー3勝を挙げ世界ランキングで現在日本人トップの畑岡奈紗、『全英女子オープン』で42年ぶりとなる日本人海外メジャー制覇を成し遂げた渋野日向子、一時はその渋野を抜き去り世界ランキング日本人2位に躍り出た古江彩佳……。国内のトーナメントでは毎週のように20歳前後の選手たちが上位に名を連ねている。

一学年上の渋野や勝、畑岡たちが「黄金世代」、古江をはじめアマチュア時代から名を馳(は)せた逸材が揃(そろ)う一期下が「プラチナ世代」と称され注目を集める中で、間に挟まれ、やや出遅れた感のある稲見たち1999年度生まれの世代は「はざま世代」と呼ばれている。

先頭を切るように飛び出した稲見は、かつて出演したテレビ番組でその話題を振られると、「(活躍している人が)いないからこそ自分だけが輝けるチャンス。一つだけ輝いていたら余計にそこが輝いて見えるじゃないですか」と笑い、「はざま世代のダイヤモンドになりたい」と口にしていた。

「LPGAアワード2019」で稲見(左から2人目)、渋野(同4人目)、古江(右から2人目)ら(撮影・朝日新聞社)

だが、そうした「○○世代」という表現も、じつは「私自身は、あまり意識したことはありません」と本音を漏らす。

「それは周りの人がそう言っているだけであって、やっている選手たちは一人ひとりの勝負ですから。お友達付き合いをしているわけではないし、“みんなで一緒に”みたいな空気ではないんですよ。だから“世代”じゃなくて、すべての選手の中で“私がダイヤモンドになる”と思っています」

9歳、7番アイアンでボールを捉えた

ゴルフとの出会いは9歳、小学校4年生の時。プロゴルファーになろうと思ったのは?と聞くと、「もう、最初からです」と稲見は即答する。「最初」とは、初めてクラブを握った日のことだ。

5月の連休中、父の了(さとる)さんに「ゴルフやってみるか?」と誘われ、家族で遊園地に行くノリで近所の“打ちっぱなし”に行った。当時は了さんもゴルフは遊びでやる程度。とりあえずショップで購入した7番アイアンを手に打席に立つと、稲見は一球も空振りすることなくボールを捉え続けたという。

打席の後ろで思わず足を止めて見守るギャラリーたちに「凄(すご)いねぇ」「上手だね」と褒めたたえられ、9歳の少女はどれほど気分が良かったことだろう。了さんも驚きつつ、「この子にはゴルフの素質がある」と我が子の才能を確信する。

ちょうど宮里藍というスターの出現で、女子ゴルフが盛り上がっていた時期だった。1カ月ほどして稲見が「プロゴルファーになりたい」と口にすると、了さんは「やるなら本気で」と、家族で夢に向かって歩み始める。

朝は4時30分に家から近い河川敷コースに行き、2周(18ホール)プレーしてから学校へ。授業が終わると急いで下校し、父の運転する車で自宅から40分掛けて練習場に向かう。そこで日没までコースを何周も回り続け、その後はアプローチやパターの練習。帰宅後も素振り。練習時間は1日10時間を超えた。それを毎日、ほぼ年中無休で続けてきた。

今、稲見の最大の武器と言われているのが、ハイアベレージを記録するパーオン率。「パーオン」とは、各ホールで定められている規定打数(パー)より2打以上少ない打数でグリーンオンすることで、その確率をパーオン率と言う。トッププロになれば70%を超えるが、稲見は常に上位を保っている。パーオン率が高ければ当然スコアが安定するし、パットの調子が伴えば、13バーディーを記録した「ブリヂストンレディス」のような爆発的なスコアにつながる。

この驚異のパーオン率を生み出しているのが、狙ったところに飛ばすショットの精度。グリーンの状態や風などを瞬時に見極め、スイングの強度を合わせていく稲見の能力の高さを、音楽で音程を認識する能力を「絶対音感」と言うのになぞらえて、「絶対距離感」と評する人もいる。

これは初めてクラブを持った日から空振りせずボールを捉えたセンスに加え、幼い頃から毎日コースを回って、あらゆる状況下でのショットを繰り返してきたことで身に付いたものだろう。中学を卒業し、通信制の日本ウェルネス高校に進学したのも、「プロゴルファーを目指し、ゴルフ中心の生活が出来る環境を望んでいたので」という明確なビジョンがあったから。ジュニア世代の育成を支援するNPO法人「パピポ」を主宰する河野栄治が、ウェルネス高のゴルフ部の創部に伴い招聘(しょうへい)されたのが2014年。中学時代にパピポに所属していた稲見は、この縁でウェルネス高に入学する。同校ゴルフ部の2期生にあたる。

高校1年の日本女子アマは首位で決勝ラウンドに進み「メダリスト」に(撮影・朝日新聞社)

ウェルネス高のゴルフ部は創部7年になるいまや全国大会常連の強豪となり、稲見自身も17年の愛媛国体の個人戦で優勝している。稲見は日本ウェルネススポーツ大学に進学し、今年、4年生になった。

大学生とプロの両立

ウェルネス大のゴルフ部は、インカレなど学生の大会を目指す他大学とは一線を画し、在学中からプロとして活動をする者に対して、その活動をバックアップするという立場をとっている。なので稲見も現在、プロとしてシーズン中は毎週トーナメントに出場し、オフシーズンに集中講義やレポートなどで卒業のための単位を取得している。

プロゴルファーとして活動していくには、スポンサーの支援や多くの人の協力が不可欠になる。そのため高校生の段階では、ごく一般的な礼儀や、年長者と接する際のマナーといった人間教育の部分も厳しく指導される。

ゴルフ部を立ち上げ現在も高校と大学の部長を務める柴岡信一郎氏(学校法人タイケン学園副理事長)は「お世話になっているゴルフ場や応援していただいている方々への感謝の気持ちを忘れないように、と日頃から言っています。でも、稲見はチャラチャラしたところがなく、非常に賢さを持った子なので、そういうこともしっかり出来ていました」と振り返る。

また、プロとして活動している選手は、練習拠点は選手個々が探し、コーチやトレーナーとも個人で契約している。稲見の場合は、中学時代から通う千葉県の北谷津ゴルフガーデンで現在も練習を続け、プロデビュー後から師事する奥嶋誠昭コーチらと、全国各地で行われるトーナメントを転戦していく。そこには河野や柴岡も関与せず、自立した選手達の活動を見守る形となる。

優勝した中京テレビ・ブリヂストンレディス、笑顔を見せる稲見(右)と奥嶋誠昭コーチ(撮影・朝日新聞社)

稲見は現在、ウェルネス大のゴルフ部に籍を置きながら、ICT(情報通信技術)企業の都築電気の所属として試合に出場している。日本生命など複数企業のサポートに加え、4月には新たにIT大手の楽天ともスポンサー契約を結んでいる。

プロ野球の楽天ゴールデンイーグルスやJリーグのヴィセル神戸だけでなく、スペインの名門バルセロナFCとの提携など世界規模でブランド戦略を展開する楽天だが、プロゴルファーをスポンサードするのは稲見が初めて。それは稲見がトップアスリートの仲間入りを果たしたことの証明でもある。

とはいえ、そのゴルフキャリアは決して平坦なエリートコースを進んできたわけではなかった。

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