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稲見萌寧、国内女子プロゴルフで無類の強さをみせるモネは大学4年生(下)

今年ツアー5勝の稲見萌寧。強さを発揮できるまで苦労もあった(撮影・矢崎良一)

今、日本の女子プロゴルフ界でもっとも勢いのある選手だ。日本ウェルネススポーツ大学の稲見萌寧(もね、4年、日本ウェルネス/都築電気)、21歳。今年、国内ツアー出場13試合で5勝。コロナ禍でシーズンが昨年と統合されているため、昨年の1勝と合わせ今季6勝。東京オリンピックの日本代表も視界に入ってきた。とはいえ、そのゴルフキャリアは決して平坦なエリートコースを進んできたわけではない。

稲見萌寧、国内女子プロゴルフで無類の強さをみせるモネは大学4年生(上)

ビリ通過の最終プロテスト

「追い込まれた状態になるほど燃えてくる。究極まで追い込まれたら、力を発揮するタイプ」と稲見は自らのメンタルを分析する。「決めたら優勝、決められなかったら負けという一打は必ず決まる。プレーオフは楽しくて仕方がない」とも言う。

エポックとなった試合がある。大学1年生になった2018年に受験したプロテストだ。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のプロテストは、1次、2次と試合形式でスコアが下位の者をふるい落とし、残った者が最終テストに臨む。そこで20位までが合格となり、日本女子ツアーへの出場権が認められる。

稲見は20位タイで合格を果たしている。つまりビリ通過。それも最終ホールで、外したら順位が下がるという状況から難しいロングパットを決めて20位に滑り込んだのだ。「プロテストの最後の1打はメチャ痺(しび)れました。あれを経験したら何でも大丈夫だと思う」。今もそう振り返る。

また、プロとしてのスタートも、国内ツアーのシード権を得るための予選会を突破できず、思うように試合に出場することができなかった。しかし、限られた出場機会で何度もトップ10入りを果たし、リランキング(獲得した賞金額によって予選会の順位を入れ替える精度)で復活している。「チャンスをいただいたら、絶対にものにしないといけない。出してもらった試合は必死に頑張る。毎試合が優勝を目指す勢いでした」と稲見はそのときの心境を話している。

そしてプロテストから約1年後、19歳最後の日の19年7月28日、センチュリー21レディスでツアー初優勝を果たす。やはり最終ホール、外したらプレーオフという苦しい局面で、3mのバーディーパットを決めて逃げ切った。

2019年7月のセンチュリー21レディスでツアー初優勝した(撮影・朝日新聞社)

勝利の瞬間、右手を空に突き上げガッツポーズで喜びを表現した稲見は、試合後、「1年前のプロテストと比べたらまだ余裕がある、大丈夫と言い聞かせたら、心臓の鼓動が静かになった」とコメントしている。

プレーオフ3勝の勝負強さ

その後、2勝目となった20年のスタンレーレディス、21年の明治安田生命レディス・ヨコハマタイヤ、富士フイルム・スタジオアリス女子オープンとプレーオフでの勝利が3度。「緊張しないし、プレッシャーはあったほうがいい」という言葉はあながち強がりとも思えない。

そのメンタルの強さの源泉となっているのが、今も続く1日10時間の練習なのだろう。「世界一の練習をして、世界一になる」。稲見はそう言う。「世界一の練習」の定義を問うと、「量だけでなく、質だけでもない。質の高い練習を量やることが結果につながる」と答えた。

20年スタンレーレディスで、稲見(中央)は浅井咲希(左)、ペ・ソンウとのプレーオフを制した(代表撮影)

この1カ月で、プライベートの時間はどれくらいありましたか? 軽い気持ちで質問すると、「0です。まったくありません」と表情も変えずに言う。こちらの驚く顔を見ると、「そんなことは、他の選手もみんなやっていることですから」と続けた。まさに食事と睡眠時間以外はゴルフに費やす毎日。なぜそこまで努力できるのか?

「楽しかったからです。今も変わらず楽しいので続けています。それに、同じ年頃の普通の大学生とかがどんな生活をしているのかを知らないし、興味もあまりないので。私はゴルフという職業を選んで、こういう毎日を過ごしているだけだと思っています」

稲見を子供の頃から見てきた河野栄治・日本ウェルネススポーツ大学ゴルフ部顧問が興味深い話をしてくれた。

「ゴルフは家族の覚悟も必要なスポーツなんです」

ゴルフという競技は、中学校までは学校の部活動の環境がほとんどない。ほとんどのジュニア選手が、稲見のように親との二人三脚で練習に取り組んでいる。「そりゃ稲見だって、今日は練習をしたくない、休みたいという日もあったと思います。そんな時でも、ご両親が厳しい言葉を掛けたり、なだめたりしながら、彼女の頑張る気持ちを切らせなかったことが今につながっているのではないでしょうか」。経済的な負担も決して小さくはない。

家族の支え、勝つことが恩返し

稲見家は娘の中学入学と同時に、東京から千葉に引っ越している。都内では施設の使用料やボール代も高い。少しでも多くの球数を打てるようにと、練習環境に恵まれた千葉県に生活拠点を移したのだ。試合のために毎週全国を転戦するのがプロゴルファーの生活。稲見の両親もそれに付き添い、食事など身の周りのサポートをしている。

そんな両親に対して、日頃、あらたまって感謝の言葉を口にすることはないという。「言葉で何かを言うよりも、勝つことがいちばんの恩返しですから」。やはり凛とした口調。

「モネ」は今年のキーワードになるか(撮影・朝日新聞社)

また軽い質問。好きな俳優は?と聞くと、「フフフ」と少し笑って、返ってきた答が「トム・クルーズ」。21歳の女の子にしてはいささかシブい。たまに練習が早く終わった日には、ゴルフ場からの帰りに家族で外食をしたり、映画を観にいったりしたことがあったという。両親の世代の作品を一緒に観て影響を受けたのかもしれない、と勝手に想像している。

「萌寧」という名前は、母の直美さんが付けた。フランスの画家「クロード・モネ」が由来ではないようだが、その響きから「有名になった時に、世界に出ても外国の人から覚えてもらえるように」という思いが込められている。

そういえば、5月から放送が開始されたNHKの連続テレビ小説は「おかえりモネ」。モネには、しばらく目が離せそうにない。

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