アメフト

南山高が5度目の挑戦で関学下す エースが躍動、就任21年目の監督の戦術もさえた

関学を初めて下し、南山の選手たちは泣いて抱き合った(撮影・全て篠原大輔)

第50回関西高校選手権大会1回戦

6月6日@神戸・王子スタジアム

南山(東海代表)13-7関西学院(兵庫2位) (1クオーター8分)

南山の3年生はこの大会で引退

アメフトの第50回関西高校選手権大会は6月5日に開幕。6日の1回戦最後の試合で波乱があった。東海地区代表の南山(なんざん、愛知)が、過去26度の優勝を誇る関西学院(兵庫2位)を13-7で下した。関学が東海代表のチームに負けるのは初めて。南山はベストアスリートのQB内川誠(2年)をRBやWRにも起用して関学ディフェンスに的を絞らせず、勝負どころで就任21年目の朝内(あさうち)大輔監督(44)のプレーコールもさえた。

両チームとも、これがこの春2試合目。南山は海陽学園(愛知)との東海地区代表決定戦だけ。関学は兵庫県予選の準決勝で星陵に勝ち、決勝は辞退していた。ただ、チームとしての仕上がりに決定的な差があった。この大会で3年生が引退する南山はコロナ禍にあってもバッチリ仕上げてきた。

南山のディフェンス陣は試合を通じてしぶとくタックルした

南山のキックオフで試合開始。南山は関学の最初のオフェンスを1度の攻撃権更新でとどめ、パントを蹴らせた。自陣22ydからのオフェンスは内川をランナーとして使い、敵陣へ。この間、関学ディフェンスは2度続けてオフサイドの反則を犯している。その後南山に反則があり、サックを受けたことでフィールドゴール(FG)圏内に入れなかったが、この試合に向けた準備の確かさとライン戦で負けていないことが分かった。

ともに前半無得点、盛り上がる南山ベンチ

次の関学オフェンスも1度の攻撃権更新でパントに追い込み、自陣27ydからの最初のプレーでQBに入った内川がカウンタープレーで走った。タックルされたが、モール状態になって12ydのゲイン。このとき関学の選手は何人も途中でプレーをやめていた。このゲームにかける思いの差を感じた。ともに無得点で折り返したが、無観客の王子スタジアムに南山ベンチの盛り上がりが響き渡る前半だった。

後半は南山のオフェンスから。自陣32ydからの最初のプレーで内川の走力を最大限生かす策に出た。ボールは右ハッシュにある。左に3人のレシーバーを出し、ラインもアンバランスで左を強くした。右のWRにいた内川が左にモーション。QBに入った中原秀城(3年)が内川にボールを託す。広い左サイドのオープンラン。両ガードもプルアウトで左へ。左に壁をつくるためのブロックもオープンブロックも見事。内川はスピードに乗ってゴール前15ydまで達した。

神戸大のとっておきプレーで先制

この日両チームを通じて初のロングゲインで試合が動く。2プレー後の、勝負の第3ダウン8yd。南山の朝内監督はスタンドの上方から、パスをコールした。ラインをアンバランスにして、右タックルの位置にTEの倉田直(3年)をセットさせた。関学は倉田が有資格レシーバーであることに気づいていない。プレー開始。倉田が縦に走ると完全なフリーに。内川が難なく倉田へタッチダウン(TD)パスを通した。キックも決まって南山がついに7-0と先制した。

試合後、朝内監督は「あのパスは神戸大さんがやってたのをそのまま使わせてもらいました。関学さんが珍しくマンツーマンで守ってきてたので効くだろうと思って」と明かした。2019年秋の関西学生リーグで、神戸大が関西大に勝ったとき、逆転TDになったプレーと同じだった。奇しくもそのパスを投げたQBの是澤太朗(現アサヒ飲料チャレンジャーズ)は、南山と同じ東海地区の東海高アメフト部出身だ。

最初のTDを決める南山のQB内山。OLが相手DLに低いブロックを打ち、内山はやすやすと投げられた

関学に火がつくかと思われたが、ちぐはぐなまま。次のオフェンスで敵陣に入ってから交代違反の反則。とらなくてもよさそうに見えたタイムアウトもとった上に、QB葛城悠太(2年)がオーバースローしたパスが南山のDB後藤航太郎(2年)に奪われた。WRでもある後藤は飛び込んでキャッチした。

万全の準備、特殊隊形も駆使

次のオフェンスから南山は内川をQBに固定。右へスクランブルすると、鋭いカットを切って17ydのゲイン。QBカウンターに出るとOL横山侑汰(3年)のナイスブロックもあって13yd前進。第4クオーター(Q)に入ると南山は特殊隊形の「ロンリーセンター」を繰り出す。たまらず関学は後半2度目のタイムアウトをとった。残るタイムアウトは1回だけに。しかも続くプレーのとき、関学は相手のヘルメットのフェイスガードをつかむ反則。南山はゴール前28ydまで進んだ。ここで第3ダウン10ydとなるが、内川が右から入ってきたWR榎本有一郎(2年)へセンタースクリーン。きれいに決まってゴール前1ydまで進んだ。これも関学がマンツーマンで守ってくることを見越したプレーコールだった。最後はRB後藤領太(3年)が持ち込んでTD。キックは失敗したが、試合残り6分11秒で13-0とした。

南山の二つ目のTD。味方のナイスブロックでRB後藤領太がエンドゾーンへ駆け込んだ

関学はQB葛城からWR塚本涼太(2年)へのパスでロングゲインし、RB東耕傳之助(3年)がランでTD。試合残り1分22秒で13-7と追い上げたが、続くキックオフでオンサイドキックを決められず、ボールは南山に。時間をつぶし、南山に歓喜の瞬間が訪れた。30人の選手たちは泣き叫んで抱き合った。

名古屋の中高一貫校が悲願

南山は名古屋市昭和区にある中高一貫の私立。1974年にアメフト同好会が部に昇格したのをきっかけに中学にも部ができた。今回の30人の選手たちは全員、中学から一緒にやってきた仲間だ。大活躍の内川は「チームの一体感が僕らのストロングポイントです。今日はチームが一つになって盛り上がりました」と言って笑った。内川が中2だった2018年には甲子園ボウルの「中学生タッチフットボール招待試合」に初出場。啓明学院(兵庫)に14-19で負けたが、夢の大舞台に立って、よりフットボールを頑張っていく刺激になった。

第50回を迎えた関西大会で南山が関学に挑んだのは、これが5度目。初出場だった1996年は13-48と大敗。2001年に朝内監督が就任したあとは13年が2-27、16年が12-19、19年が14-28と光が見えてきていた。「朝内先生からこれまでの関学戦の話を聞いて、『今度こそ』という思いが強かったです」と内川。しかも内川たちが中3のときは関学中学部に負け、2年連続の甲子園ボウル招待試合出場を逃している。「打倒KG」の思いは膨らんでいた。

試合の序盤は関学ディフェンスの圧力がすごいと感じたそうだ。内川は言う。「でもOLが頑張ってくれました。安心して走れました」。前半を0-0で終え、「ここまでやれるんだ」と手応えを感じた。そして後半、準備してきたプレーを関学にぶつけ、大金星を手にした。

初勝利、この日QBに入ることが多かった3年生の中原(9)が2年生のエースQB内川(1)を迎える

OB李卓からのインスタ指導も

南山のOBといえば、NFL選手を目指しているRBの李卓(り・たく)(26)だ。2012年、第42回大会の準々決勝で南山は大阪1位の大阪産大附に挑んだ。李が鬼気迫る走りを繰り返し、優勝した相手に43-56という激戦を演じた。高校フットボール界の伝説となっている試合の一つだ。内川は李から直接、インスタのDMでアドバイスを受けてきた。最も影響を受けたのは体づくりに関しての助言だという。「食事にしっかり気を配ってトレーニングして、けがしない体をつくる。それと体のケアですね。すごくためになりました」。中2で甲子園ボウルに出たときは身長174cm、体重72kgだったのが、高2のいまは177cm、84kgになっている。

2年生の内川には少し気が早い質問かもしれないが、進路について尋ねた。「大学でも関学を倒せるチームに、というのはあります。大学でも勝ちたいです。でも(関東か関西か)迷ってます」と笑った。「まずはこの大会の目標が優勝なので、次の立命館宇治にも勝ちます」

初勝利まで7年かかった朝内監督

朝内監督は「中学も含めて関学さんには1度も勝ってなかったんです。ウチはこの大会で引退ですから、中学から一緒にやってきたメンバーがつながって高いモチベーションで戦えました。そこが大きかったかもしれないです」と喜んだ。

オフェンスもディフェンスもプレーコールを出し、関学戦初勝利を支えた監督は、中央大附属高(東京)で3年生のときにアメフトを始めたという異例の経歴の持ち主だ。「どうしても日体大にいきたくて。先生に相談したら『あそこの推薦は全国大会ベスト8が条件だから、アメフトに入れ』と言われまして」と苦笑いで振り返る。ずっとやってきたハンドボールでは全国ベスト8には届かない。しかしアメフトなら秋の関東大会でベスト4に入れば全国ベスト8と同じだ。そんな計算が働いてアメフトを始め、関東王者となって関西王者とのクリスマスボウルにも出て、日体大合格も手にした。

朝内監督が南山に赴任した2001年、アメフト部は休部中だった

ポジションはTE。日体大時代は甲子園ボウルに届かず、1999年に卒業して東京の私立高で非常勤講師になった。同時に社会人Xリーグのアサヒビールシルバースターに入ってプレーを続けた。南山が教員を募集しているのを知り、アメフト部があることも知らずに応募して採用された。でも、名古屋に行くかどうか迷っていた。シルバースターの仲間に話すと、「俺の大学の同期に南山のアメフト部のヤツいたよ。絶対やりがいあるって」と背中を押してくれた。いざ赴任してみると、部員不足で休部中だった。中学の部員を増やすことから始め、就任後の初勝利まで7年かかった。「あれはうれしかったな。きょう関学さんに勝ったことよりうれしかったです」。自身も名古屋サイクロンズで35歳までプレーした。

就任当初から選手主体を貫く。練習メニューも選手が決める。「僕は組織づくりだけ。最近はOBが教えに来てくれるけど、最初は僕しかいなかったんで、それがてっとり早かったんですよね。ウチは中学生と一緒に練習するし、高校生が中学生を教えます。生徒にはいつも『尊敬される先輩になろう』『自分がやろうと決めたことをやりきる、カッコいい男になろう』って言ってます。3年生がどんどんカッコよくなってきてますね」。朝内監督が感慨深げに言った。

カッコいい監督が、カッコいい男たちとともに、6月13日の立命館宇治(京都1位)戦に臨む。

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