陸上・駅伝

特集:第53回全日本大学駅伝

藤本珠輝が攻めて日本人トップ、日体大が最後の切符をつかんで4大会連続の全日本へ

藤本(25番)は自分のペースでレースを進め、日本人トップをつかんだ(撮影・藤井みさ)

第53回全日本大学駅伝対校選手権大会 関東地区選考会

6月19日@神奈川・相模原ギオンスタジアム
1位 東京国際大学 3時間56分39秒39 
2位 國學院大學  3時間56分47秒04
3位 法政大学   3時間57分14秒64
4位 拓殖大学   3時間57分17秒26 
5位 中央大学   3時間57分17秒61
6位 中央学院大学 3時間57分23秒16
7位 日本体育大学 3時間57分47秒90
----------ここまで本戦出場------------
8位 駿河台大学  3時間58分16秒34
9位 国士舘大学  3時間58分51秒31
10位 山梨学院大学 3時間59分07秒98

6月19日、全日本大学駅伝の関東地区選考会が開催され、日本体育大学は総合7位で4大会連続43回目となる本戦出場を決めた。選考会には20校が出場し、本戦に出場できるのは上位7校までだった。3組目を終えた時点では日体大は暫定8位。最終組で逆転し、本戦に滑り込んだ。

日体大・藤本珠輝が見せたエースの覚悟、攻めた走りで関東インカレ2種目入賞

暫定7位から4位へ順位を上げるが……

選考会は各校2名ずつ出走する全4組の10000mタイムレースで行われた。各組では同じチームの2名が前後に並んでスタートする。多くのチームが2名そろってレースを展開し、他校とのタイム差を計算しながら走るスタイルをとっていた。日体大もそのスタイルでレースを進め、1組目は盛本聖也(3年、洛南)が16着、漆畑徳輝(2年、山梨学院)が18着に入り、暫定7位だった。

2組目は1組目よりスローペースとなり、6000mで國學院大學の木付琳(4年、大分東明)が飛び出すまでは、ひとつの大きな集団でレースが進んだ。その木付も残り4周で後続集団につかまり、日体大の加藤広之(4年、学法石川)が先頭集団の3番手に上がる。10人ほどの先頭集団は少しずつ人数を減らしながら周を重ね、ラスト1周へ。加藤は9着でゴールし、中盤まで一緒に走っていた後輩の吉冨純也(2年、大牟田)は18着。日体大は暫定4位に浮上した。

2組目の加藤(5番)は最後まで先頭集団でレースを進めた(撮影・松永早弥香)

3組目は日本大学の樋口翔太(3年、佐野日大)を先頭にレースが進み、6000mをすぎたところで大きな集団はばらけた。日体大の九嶋大雅(3年、伊賀白鳳)と名村樹哉(3年、四日市工)もその先頭集団の後方でレースの流れをうかがっていたが、1000mのペースが3分5秒から2分55秒に上がる中で次第に後退。九嶋は23着、名村は33着でゴールした。

レース中に知った暫定8位に、藤本「やばい!」

最終組は各校のエースがそろう。日体大のエースとして藤本珠輝(3年、西脇工)も先輩の大畑怜士(4年、島田)とともに出走し、最初の2周は留学生の前に出たが、「今の自分の力的にまだいくところではないな」と見極め、東京国際大学のイェゴン・ヴィンセント(3年、チェビルベルク)に首位を明け渡した。ヴィンセントは最初の1000mを2分49秒で入り、次の1000mでは更に2分45秒とハイペースで周を重ねる。ヴィンセントの後に留学生たちが続き、國學院大の藤木宏太(4年、北海道栄)も食らいつく。その展開を藤本は冷静に見定め、日本人トップ集団の先頭でレースを進めた。

藤本(25番)はスタート直後に首位に立ったが、今の自分の力を考え、留学生たちの後ろについた(撮影・松永早弥香)

3000mをすぎたところで3組目までの総合順位が電光掲示板に表示された。日体大は暫定7位の東京国際大と2.13秒差での暫定8位。後ろの駿河台大学との差は9.87秒しかなかった。レース中にもかかわらず、藤本は「やばい!」と声を出してしまったという。ここは絶対に攻めないといけない。気持ちを入れ直し、エースとしての覚悟を胸に前を追った。

後ろには東京国際大の丹所健(3年、湘南工科大付)がぴったりとついている。ときおり強めの風が吹き、「誰か前に出てほしい」と思わずにはいられなかった。それでも自分がレースを作れたら、自分の思うような展開に持ち込めるかもしれないと前向きに捉え、周を重ねた。ヴィンセントはその後も1000mを2分50秒前後で刻み、次第に藤木が後退。5000mをすぎてから藤本は藤木を捉え、そのまま抜き去った。

日本人トップ集団は藤本、丹所、中央学院大学の栗原啓吾(4年、東農大二)と吉田礼志(1年、拓大紅陵)の4人に絞られた。ラスト1000mで他の選手が出てくるかもと予測していた藤本は、ラストに備えて力を温存。しかしレースが動いたのはラスト1周になってからだった。ラストスパートは自分の持ち味。「自分を信じていこう! ここで負けたらもったいないぞ」と、藤本は集団の3番手から一気に追い上げ、日本人トップの7着でフィニッシュ。タイムは28分35秒73だった。大畑は29分00秒90の記録で15着(日本人7着)でゴールし、日体大は最終組で総合7位をつかんだ。

レース後、西脇工の先輩である三浦(右)に「つえーわ!」と言われ、三浦は笑顔を返した(撮影・松永早弥香)

42年ぶりの日体大新記録

5月20~23日にあった関東インカレでは男子1部10000mで4位(日本人2位)、5000mでは6位(日本人4位)とダブル入賞。更に6月6日の日体大長距離競技会5000mでは13分32秒58をマークし、中村孝生さんが持っていた日体大記録(13分33秒7)を42年ぶりに塗り替えた。

今回の選考会ではチームの全日本大学駅伝出場が最優先だったため、特に日本人トップは狙っていなかったという。「(タイムを)しっかり稼ぐような走りをしようと思っていたので、関東インカレに続いてできすぎだなって思っています」と、藤本は控えめに口にした。

関東インカレに続いて今大会でも結果を残せた要因として、藤本は自分の体を理解できるようになったがことが大きいという。それまでは痛みがあっても無理して走り、結果、悪化してしまうこともあった。しかし今は、自分の状態を見て玉城良二監督と相談し、自分でメニューを組み立てている。「自分の体の限界ギリギリを見極めることができるようになりました。痛みが出たらすぐにやめて、2日くらいでまた戻す、という感じで練習を継続できています」。ただがむしゃらに走るのではなく、自分の走りを見つめ、チームにおける自分の存在を考える。学年が上がったことで上級生としての責任が芽生え、それがエースとしての覚悟がつながっている。

関東インカレで藤本(20番)は「攻める」と心に決め、最初から先頭集団で勝負した(撮影・藤井みさ)

今レースは終始、藤本が集団を引っ張ることになったが、「練習からずっとひとりなんで、こういうのがレースにも生きているなと思っています」とさらり。結果が出ている中でも、「全日本と箱根のシード校とは勝負する機会がほとんどないので、自分の力を過信せず、しっかり謙虚に、かつ攻める気持ちで走りたい」と現在地に満足していない。

6月24日には日本選手権5000mが控えている。連戦になるが、「疲労を抜いてしっかり2本挑むことが、自分の力の証明になる」と言い切った。今乗りに乗っている男が日本選手権でどんなレースを見せるのか、注目したい。

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