卓球

東京富士大・西村卓二監督、選手とのコミュニケーションの先に見えるもの

自らラケットを握り指導する東京富士大学の西村卓二監督(撮影・全て朝日新聞社)

東京富士大学の女子卓球部の監督になって50年目を迎えた西村卓二さん(72)。半世紀近く同じチームで指揮を執り、18人の世界選手権日本代表らを育ててきた。苦労や失敗もしながら、選手との対話を大切にしてきたという。「常に言い続ける。根気比べでもあるが、指導者側と選手の目指すものに温度差があってはいけない」と目線をそろえて高みを目指す。

なぜスポーツをやるか問い続けて成長を促す 東京富士大・西村卓二監督

対話の中から生まれる気付き

西村監督は、卓球がうまくなりたいと全国から集まる延べ400人以上の選手をみてきた。選手の数だけ個性や特徴があるという。緩やかながら、確実に成長する選手。小さなきっかけでグンと伸びる選手。才能がありながら、けがなどで伸び悩む選手……。「未熟な選手ほどそうですが、言い続けなければいけない。『リーグ戦で優勝する』『できるよ』『やろうじゃないか』。もちろん、勝負なので技術でかなわず、負ける時はある。それでも、これだけのことはやれた、と最後に感じられることが大事」と力を込める。

選手からすると、日々の練習が惰性になりかけた時、監督の何げない言葉から気付きを得ることがある。西村監督は「選手の性格などから、どういう言葉をかけるかは各指導者の力でしょう。私も全部うまくいったわけではない。(言葉を)受け取る選手ともども最後は人間愛。強くなれなくても、卒業後、便りをくれたり、近くに来れば寄ってくれたりするOGがいる」。

選手の成長を感じながら、それぞれに合う声をかける

西村監督が日本代表女子の監督を務めた時、こんなことがあった。伸び盛りのダブルスのペアがいた。個人の実力ではかなわないが、ダブルスは1+1=2ではなく3にも5にもなる可能性を秘める。世界チャンピオンも夢ではないと思っていた。ある公開練習で、そのペアはあきらかに手を抜き取り組んでいた。多くの観客の前で監督が怒鳴りつけると、2人は泣き出した。会場は静まりかえった。「中国の強豪を倒さないといけない。こちらも真剣に指導をしている。それをわかってほしかった」。そのペアは結局、世界一にはなれなかったが、再会すると、当時のことを振り返るという。

場面に応じた言葉と対応

うまくなりたい、強くなりたい。あるいはけがから早く復帰した。選手はどうやって気持ちを持ち続けるのか。西村監督は選手と指導者の距離のとり方も大切とみる。「何mとるんですか? と聞かれたことがあるが、もちろん、そんなことではない。精神的に選手との距離を縮めたり、ある時は離れたり。つかず離れず、ということ」

その感覚は指導者それぞれが持っており、言葉での説明は難しいという。ただ、できないことをできるように取り組む練習では、その距離はおのずと遠いという。いろんなバックグラウンドを知った上で、先の日本代表の話のように厳しくもなる。「練習場の中で『いいよ』と肯定ばかりでは、技術の向上は不可能。全否定ではなく、具体的に指摘する。男同士でかける言葉と、僕らが20歳前後の女性にかける言葉も違う。距離のとり方をその場、その場面でコントロールしないと、選手のモチベーションは上がらず、つぶしてしまうこともある」。選手は逆に指導陣の問いかけから気付きをみつけ、次へつなげる作業が必要になる。

卓球は個人競技だが、学校対抗などは団体戦になる。「自分が勝てばいい、シングルの場合はそれでいいが、チーム戦になったら、駅伝と同じように1台の卓球台でたすきを渡していく。チーム力として育てなければならず、学生スポーツの難しいところ」でもある。

7月の全日本大学総合選手権で3位に入った

練習のコーチングと試合のコーチングは当然、別物になる。「試合場では(選手が)リラックスできて、力を発揮できるような雰囲気作りをする。距離を縮めて」。卓球の試合では選手がタイムアウトをとると、監督らベンチコーチと話すことができる。その60秒が勝負でもある。「短い一言でいかに化学反応を起こせるか。ベンチにいながらいつも考える。その選手だから化学反応を起こせる言葉を選んで声をかけようと。でも、これまでの7、8割は、『あの時、こういう風に言っておけば』という反省ばかり。ぴったりうまくいくことはまず、ない。試合に見入ってこっちも熱くなり、つい余計なことを言ってしまう」。選手との言葉のやりとりは、ベテラン指導者でも永遠のテーマだ。

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