サッカー

産能大がアミノバイタルカップ初V、PK11人目の牧野恋音主将「粘り強く泥臭く」

牧野(右から2人目)がPKを決め、産能大が初優勝をつかんだ(撮影・全て松永早弥香)

アミノバイタルカップ2021(第10回関東大学サッカートーナメント大会)
決勝

7月25日@ 流通経済大学龍ケ崎フィールド
産業能率大学 1-1(PK9-8) 法政大学
産業能率大学が初優勝

7月25日、アミノバイタルカップ(関東大学選手権)の決勝が行われ、関東2部の産業能率大学がPK戦の末に関東1部の法政大学を下し、初優勝を飾った。PK戦は11番目のGK対決にまでもつれ、最後は産能大主将のGK牧野恋音(れのん、4年、磐田U-18)が高校の後輩である法政大のGK近藤壱成(3年、磐田U-18)が守るゴールにシュートを決めた。

スコアレスで延長戦へ

産能大はDF土屋翔(4年、麻布大附)らが堅い守りを継続し、法政大の攻撃のチャンスをつぶす。その一方で産能大は攻めあぐね、特に後半45分間でのシュートは1本のみだった。スコアレスで延長戦へ。試合が動いたのは延長後半2分、産能大のMF小野寺亮太(3年、湘南工科大附)はゴール前でボールを受け取ると、ドリブルで相手DF2人をかわし、左足でシュート。ボールはゴールネットをゆらし、小野寺は満面の笑みを浮かべながらベンチの仲間の元へ駆けた。

「自分の持ち味はああいうところですぐにシュートを打たないで、足元でさばけるところ」と小野寺(中央)

法政大も負けられない。ボールをキープし、産能大ゴール前で攻撃をたたみかける。延長後半8分、法政大のDF宮本優(4年、清水ユース)の右クロスからMF松井蓮之(法政大4年、矢板中央)がヘディングでゴールを狙い、浮いた球が競り合いの末、オウンゴールとなった。産能大は円陣を組み、気持ちを引き締める。その後も法政大の攻撃が続いたが、産能大は最後まで守りきり、1-1のままホイッスル。勝敗の行方はPK戦に委ねられた。

PKは11人目、GK対決へ

両チームは選手同士が肩を組み、PKを見守る。先攻は法政大。その1人目のMF田部井涼(4年、前橋育英)が蹴ったボールは枠外へ。しかし法政大GKの近藤は産能大の3人目を任されたFW中島怜意(3年、前橋商)のシュートを止め、2-2の同点へ。両チームは互いにシュートを決め、迎えた9人目、法政大のMF青木俊輔(1年、東福岡)がボールを上に浮かしてしまい失敗。後攻の産能大が決めれば優勝が決まるという場面で、DF小山田賢信(2年、町田ユース)のボールもゴール上へ。

PK戦はついに11人目のGK対決となった。まずは法政大の近藤から。左に飛んだボールを産能大の牧野がはじき、産能大ベンチから歓声が沸き起こる。今度はキッカーとして牧野は近藤と向き合い、放ったシュートはゴールネットをゆらした。牧野は仲間の方を向いて右腕を空に突き上げ、すぐに仲間たちに囲まれた。

「壱成がどっち蹴るとか全然分からなかったけど、思いっきり飛んだだけ」と牧野

牧野、磐田U-18の後輩との勝負「一生の思い出」

PK戦における2人のGKは対照的だった。法政大の近藤は仲間たちから声をかけられ、背中を押されながらPKに臨んでいた。その一方で産能大の牧野は、仲間のPK時には背を向けて座りこみ、自分の番になれば静かにゴールへと向かっていた。牧野は言う。「自分は仲間を信じるだけだったので、自分のことに集中していました。(仲間がゴールを)外すのを自分の目で見てしまうとイメージが悪くなってしまうんで、声援で決まったかどうか、背中で感じるようにしていました」

これまで牧野はPK戦で負けたことはないという。PK戦前に円陣を組んだ時、「俺が3本止めるから、思いっきり蹴れ!」と仲間に伝えていた。「自分ならやれる」と気持ちを込め、PK戦に臨んだ。相手GKは磐田U-18時代の後輩・近藤だ。高校生の時は牧野が試合に出て、近藤がベンチだったということもあり、先輩として絶対に負けられないという気持ちがあった。その一方で、後輩たちの活躍は先輩として素直にうれしいものでもあった。

「自分で大学を選んだんですけど、法政という名門校で後輩が出て活躍しているのは悔しい部分もあるし、でもうれしい部分もあるんです。1部には立正に杉本(光希、2年、磐田U-18)とかもいて、あいつらが1部で結果を出して選抜とかにも出てて、悔しい気持ちはあるんですけど、後輩たちの活躍はうれしいという気持ちの方が大きいです」

牧野(右)はPK戦の前に近藤(21番)へ声をかけようとしていたが、緊張している近藤を思い、勝負が決した後に声をかけた

決勝という舞台で近藤と相まみえ、PK戦の最後で勝負する。「一生に一度あるかどうかの経験」だと牧野は言い、その舞台で勝てたことは「一生の思い出」と笑顔で話してくれた。そんな牧野に対し、産能大の小湊隆延監督は「日頃から練習の時間だけでなく、授業の合間や空いている時間など、1人で寮から出てボールを蹴っています。最後のPKはジュビロの後輩との勝負になりましたけど、それこそ陰で苦労していることで、サッカーの神さまが微笑んでくれたのかなと思います」と話した。

一番の強みは「みんなが愚直に頑張れるところ」

産能大は初めてアミノバイタルカップのタイトルをつかみ、8月23日に開幕予定の総理大臣杯に挑む。産能大にとっては初となる全国大会だ。その前の7月31日には2部リーグ戦後期が始まる。産能大は前期11位と苦しんだ。牧野自身、前期はあまり試合に出られず、悔しい思いを抱えている。「リーグ戦は結果が出てないし、優勝したからには結果を出さないといけないというプレッシャーはありますけど、この戦いで学んだことをリーグ戦でも全国大会でも継続してやって、それまでに更にステップアップして前進していけば、おのずと結果が出るのかなと思います」

初めてつかんだタイトルの喜びを、何度も何度も仲間たちと分かち合った

小湊監督は産能大の一番の強みを「誰か一人に頼るのではなく、みんなが愚直に頑張れるところ」だと話す。それは選手自身も感じていることだ。「正直、自分たちはうまいチームでも強いチームでもないんですけど、1部とか2部上位チームが相手でも『粘り強く泥臭くやっていくぞ』とチームに声をかけています」と牧野は言う。

おごることなく、臆することなく。自分たちの戦い方をこれからも貫く。

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