東海大が法政大を破り“ジャイキリ日本一” 面矢行斗が思う「他の大学より強い」もの
#atarimaeni CUP 決勝
1月23日@東京・味の素フィールド西が丘
東海大学(関東第9代表) 1-0 法政大学(関東第7代表)
東海大学が2000年の総理大臣杯優勝以来、20年ぶりの全国大会優勝
1月23日、大学サッカーの特例全国大会「#atarimaeni CUP」の決勝が行われ、神奈川県リーグの東海大学が関東1部リーグの法政大学を1-0で下し、2000年の総理大臣杯優勝以来、20年ぶりの全国大会優勝をつかんだ。都道府県リーグ所属チームが全国を制するのは初のこと。「CHAMPIONS」ボードでの記念撮影前、東海大の選手たちはなかなかポジションが決まらない。「慣れてないからさ」と互いに顔を見合わせ、一層笑顔を深くした。
攻める法政大を鉄壁の守備で東海大が流れを変える
今シーズンは新型コロナウイルスの影響で夏の総理大臣杯と冬の全日本大学選手権(インカレ)が中止となり、代替大会として今大会が開催された。誰も経験したことがないシーズンを戦い、改めてサッカーができることへの感謝も込め、今大会は「#atarimaeni CUP サッカーができる当たり前に、ありがとう!」と題されている。
試合は序盤から法政大がボールを支配し、主導権を握る。揺さぶりをかけて守備を崩しにかかるが、東海大も主将のDF米澤哲哉(4年、湘南工科大学附属)らが気迫のこもったプレスを仕掛ける。法政大はMF松井蓮之(3年、矢板中央)、続いてMF長谷川元希(4年、大宮ユース)のシュートが東海大ゴールを襲う。東海大もセットプレーからゴールを狙うが、シュートまでつなげられない。前半終了間際には東海大が法政大のゴール前に迫る惜しいシーンもあったが、スコアレスのまま前半を終えた。
後半も法政大のペースで試合が始まった。法政大は開始早々にフリーキックのチャンス。MF竹本大輝(4年、成立学園)のクロスに長谷川が合わせてシュートを放ったが、ボールは壁にはじかれた。東海大は後半に入ってから一気にプレスラインを上げた。ハーフタイムの間、今川正浩監督は法政大のスピードに圧倒された前半を振り返り、「もっとアグレッシブにいこう。今までやれていたゲームがあるんだから、それを思い出していこうよ」と選手たちに声をかけ、副将のDF面矢行斗(おもや・ゆくと、4年、東海大学付属仰星)も「後ろを信じてプレスをかけてくれ」と要求。堅い守備から攻撃につなげ、少しずつ流れを引き寄せる。
後半27分、東海大が得た左からのコーナーキックのこぼれ球をMF高田悠(2年、東海大学付属福岡)が拾い、右サイドを突破。相手ディフェンダーをかわして送り込んだクロスボールを法政大のGK中野小次郎(4年、徳島ユース)がはじいたが、そのこぼれ球をDF水越陽也(3年、東海大学付属相模)が押し込み、東海大に待望の先制点をもたらした。
先制された法政大は、そのキックオフ直後のプレーでFW佐藤大樹(3年、札幌U-18)がペナルティエリア内からシュートを放ったが、ボールはポストを直撃。法政大はMF服部剛大(4年、横浜FCユース)とFW飯島陸(3年、前橋育英)を投入して猛攻を見せる。対する東海大はカバーリングを徹底し、堅い守りを継続。最後のチャンスとなったコーナーキックで法政大GKの中野もゴール前へ。長谷川のクロスから中野はボレーシュートを打ち込もうとするが空振りとなり、そのボールがクリアされた瞬間に試合終了のホイッスルが鳴った。
水越「本当に勝ちたいという欲が出た」
東海大が20年前に総理大臣杯で優勝した時も、今川監督がチームを指揮していた。昨年3月に母校でもある東海大の監督に復帰した先での再びの優勝ではあるが、今川監督自身は「私が(監督に)就いて勝ったというより、勝った年に就いたのかな。前任の後藤(太郎)監督の元で培われたベーシックなものにこの1年間やってきた上乗せがあり、一人ひとりが頑張ろうとしていることをチームの中で頑張ろうと考え、ストロングポイントとかがこの1年でうまくかみ合わさったのかなと思っています」と話す。
東海大は後藤監督のころより、プレッシングをかけて相手の攻撃を壊す「ストーミング」のサッカーに取り組んできた。法政大のようにボールを握って崩して勝つという攻撃型なサッカーに比べると、華やかさに欠けるところがあるかもしれない。しかし「いい守備をしたら必ずと言っていいほど攻撃につながっていた実績があったので、なるほどなって思いながら、みんな納得しながらやってこられました」と面矢。県リーグに降格した昨シーズン、自分たちは守備に対する意識がまだまだ薄い集団だと感じた。
これまで培ってきたものを土台とし、今川監督の元で組織的なサッカーを強化。練習でも守備のカバーリングができていない選手には全員が強く反応して声かけを徹底し、守備の意識を高めてきた。また、ロングスローとセットプレーはチームの強みになるまで、何度も繰り返し練習を重ねた。
決勝という大舞台で点をもぎとった水越は、この得点が今シーズンの公式戦初ゴールだった。心の中では自分が得点を挙げたいという思いもあったが、それ以上にチームの勝利のために自分にできることをやろうと考え、ピッチに立った。「(ボールが)こぼれてきた時、何も考えずにボールに反応しました。なんとか入ってくれって。自分が一番速く動けていたので、本当に勝ちたいという欲が出たんじゃないかなと思っています」と水越は言う。
ピッチに立つ時は1部も2部も関係ない
東海大は昨年のアミノバイタルカップで関東1部リーグのチームも倒し、5位で今大会の切符をつかんだ。神奈川県リーグでは6戦全勝し、1年で関東2部リーグに復帰。限られた舞台の中でも結果を残し、自信をもって今大会に挑んだ。
チームメートを見ると付属校上がりの選手が多く、ユース経験者は少ない。しかし今川監督は「自分たちの気持ちが萎縮して負けると後悔しか残らないですから、ピッチに立つ時は(関東リーグ)1部も2部も関係ないという気持ちでやってほしかったですし、実際選手たちは、試合を重ねる毎にいい意味で気にせず戦えるチームになったのかなと思っています」と言う。今シーズン、関東リーグで戦えなかった悔しさを全員が抱えながら、この大会に向けて準備を重ねてきた。
アミノバイタルカップを終えた時、今川監督を胴上げしようという雰囲気になったという。しかし今川監督は「日本一になったらな」と言ってその時は断った。そしてチームは日本一をつかんだ。記念撮影が終わってすぐ、チームの端にいた今川監督を学生たちが囲み、学生たちの手で今川監督は空を舞った。「ただただもう、うれしいですね」と今川監督は笑顔で答えた。
現状、Jリーグに内定しているのは面矢(栃木SC内定)ひとりだが、チーム内にはサッカーを続けたいと考えている選手は複数人おり、この大会中にクラブから声をかけられた選手もいるという。大学サッカー最後の舞台で、これ以上ないアピールをした選手たちのこれからにも期待がかかる。
強豪校を次々と倒し、都道府県リーグ所属チーム初の快挙を成し遂げた今、強さの要因を面矢はこう話す。
「東海大学を選んで、4年生はみんな本気でサッカーを続けてきました。1~3年生もその背中を見てついてきてくれ、素直で元気で明るく、取り組む姿勢のいい選手たちがそろっていました。そういう選手が集まったというのが一番大きいと思う」
周りのことを常に考え、互いの気づきを言い合い、1日1日を無駄にすることなく過ごしてきた。練習以外の時間でもサッカーを見て、仲間とサッカーの話をしながらご飯を食べる。「サッカーが好きという気持ちは他の大学よりも強いんじゃないかな」と面矢が言う東海大の選手たちは、今シーズン最初で最後の全国大会で、歴史に残るジャイアントキリングを起こした。