アーティスティックスイミング

特集:東京オリンピック・パラリンピック

「イチローになりきる」 ASスペイン代表が水中で野球

デュエットテクニカルルーティンで野球をテーマに演技したスペイン(撮影・諫山卓弥)

 東京オリンピック(五輪)のアーティスティックスイミングのデュエット・テクニカルルーティンで3日、スペインが披露した演技が話題を呼んだ。テーマは「野球」だ。

日大・本多灯「名前通りに明るく、日本中を沸かせたい」 後半の強さを武器に世界へ

 「イチローが、一塁蹴って、二塁を蹴って、そして三塁へ!」

 青い帽子に縦じまのユニホームに見立てた水着を着た2人が登場すると、リズミカルな曲に乗せて聞こえてきたのはこんな日本語の実況中継。イチローになりきった2人は生き生きとした表情で、水中で打って、走って、投げた。SNSでは「斬新」「めちゃくちゃ面白い」などと評判だった。

■きっかけはイチローの引退会見

 「これや」

 ヘッドコーチの藤木麻祐子さん(46)は2019年3月、テレビでイチローの引退会見を見て「誇れる日本の象徴だ」と感じた。松井秀喜や大谷翔平。大リーグでもその名を残す日本人選手は数多くいる。彼らを演じて「日本」を表現しようと考えた。

 ハスキーな女性歌手の曲にイチローや大谷、松井の野球の実況中継を重ね、コミカルに仕立てた。録音した日本プロ野球や大リーグの実況中継の数は120種類にも及ぶ。曲になじみ、重ねてもはっきりと聞こえる音声を音楽家と選んだ。

 選手のイリス・ティオカサス(18)とアリッサ・オソヒナオソヒン(20)は、イチローのことを知らない。試合も見たことがなかった。でも、藤木さんは「スペインで言うと、サッカーのメッシみたいな存在。スペインのサッカーファンが情熱をかけて応援するように、日本の野球ファンは熱い」とかみ砕いて伝えた。

■水中でキャッチボールも

 リアルを追求し、2人はスペインの野球連盟の指導のもとでプレーし、試合も見に行った。毎朝のウォームアップは、水中ではなく陸上でのキャッチボールで始めた。3カ月続けて慣れてくると、水中でバットやグラブを持ってボールを打ったり捕ったりして、表現を磨いた。イチローが打席で袖をつまむ動きも再現した。

 演技後、ティオカサスは「すごい緊張したけど、アドレナリンがでて感情を爆発させられた」。オソヒナオソヒンは「選手村ではメキシコの野球選手にも会えた。この舞台に立ててすごく幸せ」と興奮した様子で語った。

(河崎優子)

=朝日新聞デジタル2021年08月04日掲載

in Additionあわせて読みたい