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特集:東京オリンピック・パラリンピック

森下暢仁、米国を5回無失点 「どの球も通用」監督の期待に応えた

5回を無失点に抑えた森下暢仁(撮影・杉本康弘)

 ギアを入れたら、止められない。先発した森下暢仁(広島)が、緩急自在の投球で米国打線をねじ伏せた。

明大・森下暢仁、大学ナンバーワン投手がつかんだ日本一の栄光

 一回を三者凡退に抑えるとリズムに乗った。大きく曲がるカーブに、コーナーを突く直球がさえる。五回は2死一、二塁のピンチで、前の打席で安打を許したアルバレス。フルカウントから遊ゴロに仕留めて、ピンチの芽を摘んだ。5回を投げて1点も許さず、リードを守って救援につないだ。

 「立ち上がりをうまく入れて本当に良かった。その後、村上選手がホームランを打ってくれたので、0点で抑えたい気持ちで投げた」

 昨季はルーキーながらいきなりチーム先発陣の柱となり、10勝を挙げてセ・リーグ新人王に輝いた。最速156キロの直球と大きく縦に割れるカーブ、チェンジアップやカットボールを制球良く投げ込むのは今季も健在。立ち上がりに苦しむ場面は見られたものの、前半戦を6勝4敗。防御率2・29とリーグ2位につけて折り返し、23歳の右腕は「2年目のジンクス」を感じさせない。

 フル代表の一員になったのは初めてだが、高校時代から日の丸をつけてマウンドに立ってきた。

 大分商でエースだった2015年夏、U18(18歳以下)ワールドカップで銀メダル獲得に貢献。この年、甲子園に出場せず代表入りしたのは森下だけで「お客様みたいな感じで、本当に行っていいのかなという気持ちだった」。明大では2年から大学日本代表で活躍し、「結果を残したいという思いでやっていた」と当時を振り返る。

 国際大会の経験が豊富だからこそ、五輪へ臨むにあたって「日本開催で絶対に勝たないといけない。本当に重みのある大会だと思う」と口にした。そんな森下に対し、「ジャパンの経験が全くないのと、国際大会はこういうもんだと知っているのとでは違う」と稲葉篤紀監督。「しっかりゲームを作れる。彼はどの球も通用すると思っている」と全幅の信頼を寄せる。

 普段の森下は、目標を問われても具体的な答えをすることは少ない。だが、東京五輪については違った。「金メダルをとれるように頑張ってきたい」。珍しく貪欲(どんよく)な姿勢を見せていた通り、大舞台のマウンドを無失点で守った。

(辻健治)

=朝日新聞デジタル2021年08月07日掲載

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