陸上・駅伝

東京五輪の準決勝、悔しさがあった自分はまだ上を目指せる 早稲田・山内大夢(下)

東京オリンピック男子400mH予選、山内は気負い過ぎることなく大舞台に挑めたという(撮影・池田良)

山内大夢(ひろむ、早稲田大4年、会津)は7月2日、黒川和樹(法政大2年、田部)と安部孝駿(ヤマダホールディングス)とともに東京オリンピック男子400mHの日本代表に内定した。事前合宿には補欠の豊田将樹(富士通)も含めた4人で臨み、選手村にも4人そろって向かった。豊田と過ごしたのは初日だけだったが、山内は「豊田さんは一言『頑張れよ』と声をかけてくれました。4人で標準切ってここまで勝負をしてきたので、豊田さんの分も頑張りたいという気持ちがより一層大きくなりました」と思いを引き受けた。レース前に豊田がTwitterにアップした3人へのメッセージとイラストも、しっかり受け止めた。

父が指導する会津高で全国2位、東京五輪は見えていなかった 早稲田・山内大夢(上)

Wポーズとレミフラポーズ

7月30日、男子400mH予選。山内は2組目に登場。後の組に出場する黒川と安部のためにも、自分の走りでいい流れをつくれたらと考えていた。レース前、自分にカメラが向けられたら、「早稲田大学の代表として」という思いから「W」ポーズをすると決めていた。しかしポーズを終えた後も、まだカメラが向いている。だったらと、いつかできたらと考えていた「レミフラ」ポーズも披露。このポーズはオーディション番組「Produce 101 japan season2」のテーマ曲「Let me fly」の振り付けが元になっている。レミフラポーズをした理由を、山内は「日本選手権前にオーディション番組の最終審査を見ていて、これから日本選手権に臨む自分と重ね合わせていました。同世代が頑張っている姿に元気をもらいました」とはにかみながら明かしてくれた。

会場の国立競技場は今年5月に48秒84の自己ベストを出した場所であり、相性の良さを感じている。中盤や後半にかけてもスピードを維持できるのが山内の強みだが、更にタイムを狙うため、この大会に向けて序盤のスピードアップにも取り組んできた。

スタート直後、想定よりもスピードが上がってしまった。中盤で思うような走りができなかったが最後は粘り、49秒21での3着でフィニッシュ。着順で準決勝進出をつかんだ。「オリンピックの雰囲気もあって、周りの選手の雰囲気に流れされてしまったところはあると思うんですけど、後半しっかり粘れたのでレース的にはまずまずだったと思います」と振り返る。

今大会は無観客開催となり、家族もテレビ越しでの応援となった。両親はレース後にはいつも、LINEでコメントを送ってくれる。予選の後には、家族みんなで喜んでいる動画とともに「よかったね!」と反応があった。「素直に頑張って良かったなという気持ちになりました」。黒川と安部は予選敗退となり、予選を終えて選手村を出る前には安部が山内と黒川の2人部屋に訪れてくれ、黒川も「マジで頑張ってください!」と言葉をかけてくれた。表情には出さないものの、2人の悔しい思いは伝わった。

準決勝で感じた格上のレース、決勝で見た異次元のレース

8月1日の準決勝、リオデジャネイロオリンピック男子400mHで準決勝を走った早稲田大の先輩である野澤啓佑(ミズノ)から「オリンピックは準決勝から雰囲気が変わる」と聞いていた。それでも予選でアップからの流れを確認できたこともあり、気負うことなくレースに集中できたという。

準決勝は予選よりも遥かにレベルが上がったことを肌で感じた(撮影・林敏行)

3組目の8レーン。山内はアウトレーンに苦手意識こそなかったが、インレーンから選手が迫る気配を感じ、彼らのスピードは後半になっても落ちない。山内は予選同様、序盤からスピードを上げてスタートし、最後は目を開けていられないほどもがきながらゴール。49秒35で6着だった。「全体のレベルが予選に比べて急に1段階も2段階も上がり、その流れに少し負けてしまいました。前半からいっても後半も強い。国内で体感してきたレース展開とは違うなと思いました」

8月3日の決勝、山内はテレビ越しに世界最高峰のレースを見守った。カルステン・ワーホルム(ノルウェー)が45秒94の世界新記録で優勝。2位のライ・ベンジャミン(アメリカ、46秒17)と3位のアリソン・ドス サントス(ブラジル、46秒72)までがオリンピック新記録という異次元のレースとなった。山内はレース後、しばらく呆然(ぼうぜん)としてしまったという。

「この人たちと勝負をすることになるのか。自分はここで勝負できるのか。そんなことも考えてしまったんですけど、まずは48秒前半を狙って、そのタイムをコンスタントに出していけたらファイナルにつながるのかなと思うので、めげずに頑張ろうと思っています」

準決勝を走り終え、満足する気持ちはなく、悔しさでいっぱいだった(撮影・林敏行)

山内は早稲田大2年生の時に日中韓3カ国交流大会に出場しているが、それ以外では今大会が初の国際大会だった。絶対的に経験が足りないという自覚もある。まずは周りに飲まれてしまった前半の走りを見直し、中盤・後半にもスピードを維持できる走りを目指す。

今度こそ黒川に勝って有終の美を

自身のレースが終わってすぐに、山内は早稲田大の合宿に合流した。夢の舞台で世界トップレベルの選手たちの強さを見せつけられた一方で、ここから鍛えれば自分も勝負ができるのではないかという手応えも感じられた。「オリンピックに出られて良かった、と目標を見失うんじゃないかなと思っていたけど、悔しいという気持ち、世界で勝負したいという気持ちになりました。来年、再来年の世界選手権でも日本代表になって、3年後のパリでリベンジしたいです」。山内は今、明確に世界を見据えている。

来年、再来年の国際大会で勝負するためにも、大学ラストイヤーにやらなければいけないことがある(撮影・藤井みさ)

その前に、学生ラストイヤーで成し遂げたいことがある。山内は今シーズン、黒川に負けが続いている。昨年の日本インカレでも、山内は4位で黒川は2位だった。「黒川もオリンピックの悔しさがあって本気出して頑張ってるだろうから、4年生の意地でねじ伏せて有終の美を飾りたいです。だから最後のインカレで優勝することは絶対目標です」

最後に笑って終わるには優勝しかない。オリンピアンとしてではなく1人の挑戦者として、山内は日本インカレでの勝負を待ちわびている。

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