駒澤大主将・田澤廉 最初からトップで走れるような、「強い駒澤大学」に
学生ナンバーワンの実力を持つ駒澤大学の田澤廉(3年、青森山田)。今期から主将に就任し、より責任も求められる中で競技に取り組むことになった。東京オリンピックを目指して走った前半シーズンを振り返ってもらった。
記録は良くとも、満足せず
「記録としてはまずまず出たのかなという感じだけど、満足するレースができてないなと思います」。前半シーズンを振り返ってどうでしたか、という質問をした時に、一番にこう返ってきた。
今年年始の箱根駅伝で2区を走った田澤。その1カ月前には日本選手権10000mを走り、初の27分台。日本選手権、箱根駅伝とハイレベルなレースが続いた影響からか、1月末には疲労骨折していることがわかった。3月10日頃から走りはじめ、ポイント練習ができるようになったのは4月に入ってから。1カ月ほどの急ピッチで仕上げ、5月3日の日本選手権10000mに再度挑んだ。
日本選手権直前に取材した際には「不安がある」と口にしていた田澤。だがレースでは終始先頭を引っ張り、残り2周を過ぎたところで伊藤達彦(Honda)に離されたが、27分39秒21で自己ベストを更新しての2位だった。その時のことについてたずねると、やはり「不安でした」という。「あんまり調子が上がってきてる感覚もなかったです。でも同じ場所に鈴木(芽吹、2年、佐久長聖)がいたのが大きかった。負けられないという思いがあって、結果的に良い記録になったんだと思います」。レース中は一時、鈴木が前に出る場面もあった。鈴木は27分41秒68で3位だった。
オリンピックへの挑戦と悔しさ
田澤は昨年の2月にアメリカに渡り、OBの中村匠吾(富士通)とトレーニングをともにした。その頃から東京オリンピックを意識し始めて、日本選手権である程度記録を出せば代表を狙えるかなという気持ちもあった。世界ランキングのポイントを積み上げれば10000mの代表に入れる可能性があり、6月6日に新潟で開催されたデンカチャレンジ10000mにも出場した。「その時もあんまり状態は良くなかったんですけど、諦めたくなかったです。結果的に(暑さ、湿度もあり)記録を狙うのは厳しい条件でした。それでも27分台(27分52秒52)で1番だったので、やってよかったなと思います」
五輪派遣標準記録の27分28秒00を切ることができず、ランキングでの出場も叶わなかった。ここで田澤の東京オリンピックへの挑戦は終わった。東京オリンピック、10000m決勝は寮のテレビで見た。田澤の胸にあったのは、その舞台に立てなかったことへの悔しさだった。そして「自分がその場に立ってないから何も言えないですけど」と前置きして、「トラックだったら入賞、マラソンだったらメダルを獲得できるような選手になりたいと思いました。そこを目指してやっていきたいです」。世界との勝負を目の当たりにして、改めて田澤の心に火がついた。
チーム内で高いレベルの競争がうまれる
キャプテンとなって半年以上が経つが、何か変わりましたか? と聞くと「あんまり……(笑)」。ただ、夏の練習を通してチーム感、一体感を増していきたいといい、「自分も駅伝を走るんだな、と思わせられるような声がけをしていきたい」と考えている。チーム全体の底上げができていることについては、田澤も日々「同じチームの中でもライバル視して、練習に励んでほしい」と言っているといい、全体的に選手の気持ちが変わってきているかなと感じるともいう。
7月のホクレンディスタンスチャレンジで、鈴木は網走大会5000mで13分27秒83で走り、駒澤大学記録を更新。その後の千歳大会5000mに出た田澤は13分29秒91だった。この時は足の状態があまり良くなかったが、5000mの資格記録を更新するために出たという形だった。「鈴木が27秒で走ってるので、(その記録を)切りたかったです。どんなコンディションであれ、トップで走らないといけない立場だと思うので」とトップの自覚をにじませる。
チームでは唐澤拓海(2年、花咲徳栄)の成長もめざましく、田澤、鈴木と同じ練習ができるようになってきている。「日本選手権が終わった後あたりから伸びてきてて、面白いと思います。質の高い練習もできてると思います」と評価する。1年生はどうですか? と聞くと、「タイムは出てるけど、まだ弱いなという気はしますけどね。駅伝となるとどうかな。これからじゃないですかね」と厳しく見ている。
日本トップの、皆から意識される選手を目指して
他の大学で意識する選手はいますか?と聞いてみると、特にいないとの答え。「学生だけ見ると、自分の大学の中にいる選手の方が強いのではという気がするんで。意識しちゃうのは鈴木とかですね(笑)。あとはもっと上を見ているので」。田澤が意識しているのは、相澤晃(旭化成)や今回のオリンピックマラソン代表となった大迫傑(Nike、引退)、中村、服部勇馬(トヨタ自動車)などだ。
特に大迫の走りを見て、「キツいところで上げていく感じがすごいなと思った」という。「自分だったらキツいところであんなにペースを上げて、淡々と一人で刻んでいけるかな? と……。マラソンをやったことがないからなんとも言えないですけど、無理だろうなと思うので。そういうことをできる選手が強い選手だと思うので、目指していきたいです」。そして大迫のように、多くの人たちから意識される選手を目指してこれから頑張っていきたいと思っていると話してくれた。
では、いまどんなところが自分の弱点だと思っているか。その質問には「上りがちょっと苦手」という。「駅伝で上りをしっかり押していける力が、相澤さんとかと比較すると足りないんじゃないかなと思って。そういうところを強化していきたいと思っています」。夏の強化練習でも距離を踏むとともに、上りを意識してトレーニングしている。逆に強みは「スタミナとスピード」だ。「ともに強化していって、駅伝でもトラックでもどっちでも走れるような選手になっていけたらと思います」
新型コロナウイルスが猛威をふるい、多くの大会が中止または延期となっているが、学生3大駅伝が予定通り開催されれば2年ぶりの出雲駅伝からになる。「スピードは自分たちの大学が一番強いんじゃないかなと思っているんで」とも言いつつ、東京国際大学のイェゴン・ヴィンセント(3年、チェビルベルク)を最も警戒している。「ヴィンセントが来るまでにどれだけ貯金を作れるかですね。あとは駒澤では、出雲の距離ぐらいなら誰が走ってもおかしくない状況だとは思います」
昨年度は全日本大学駅伝、箱根駅伝で優勝したが、「どっちも残り3kmぐらいしかトップを走ってないので……」といい、「最初からトップを走れるような、強さを持った駒澤大学にしていけたらなと思います。そんなに甘くないなとはわかってますけど」。そういい添えたが、圧倒的に勝ちきりたい、という思いが感じられた。
「大学のうちにできることは大学でやっておきたい」とも言いつつ、高みを見すえている田澤。彼がキャプテンとなることによって駒澤大学のレベルが底上げされていることは間違いない。どんな快走を見せてくれるのか、今から楽しみだ。