ラグビー

筑波大学の松永貫汰主将、関東対抗戦での強豪との連戦に「防御にこだわる」

フィニッシャーに加え主将で引っ張る筑波大の松永貫太(撮影・全て斉藤健仁)

大学ラグビーは9月12日に関東対抗戦から幕を開ける。開幕カードで注目されるのが帝京大学に挑む筑波大学。Aグループで確固たる地位を築いてきた「国立の雄」の97代目のキャプテンに任命されたのが、身長167cmながらスピードを武器に7人制でも活躍してきたFB(フルバック)松永貫汰(4年、大阪産大附)だ。高校時代は同じFBの河瀬諒介(早稲田大4年、東海大仰星)のライバルと目されていた選手である。

早稲田大学のFB河瀬諒介 連覇へのキーマンは明治大学の「怪物」を超えられるか

最後まで「Link」する

今季もWTB(ウィング)植村陽彦(3年、茗渓学園)、新人のWTB大畑亮太(東海大大阪仰星)らとともにトライが期待されているフィニッシャーのひとり。嶋崎達也監督も「強みのランニングを常に出しつつ、厳しいディフェンスができないときも先頭に立ってプレーしてくれる」と期待を寄せる。

松永は「今季のチームは個人として強い突出した選手がいないので、組織としてディフェンスを強みにしていかないといけない。春からずっと日本一を目標に掲げてきているので、最後まで『Link(リンク)』していきたい」と意気込む。1年生からツクバブルーのジャージーに袖を通して活躍してきた松永は同期に推されてキャプテンに就いた。「他にキャプテンをやりたい人がいたら、その人でもいいかなと思っていましたがいなかったですし、自分以外に低学年から試合に出ている人もあまりいなかったので」とその経緯を説明。副キャプテンHO(フッカー)髙田風吾(4年、桐蔭学園)も同様に、同期の話し合いで決まった。

1年生から出場し、2年ではユニバ-シアードの金メダルメンバー

今季のスローガン「Link」という言葉も4年生が話し合いの末に選んだ。「自分たちの学年の色を考えたときに、同期とも後輩とも仲がよく、つながりがあるので、それを強みにしようということで『Link』という言葉をスローガンにしました。最後まで学年に関係なく、日本一にベクトルを向けて、つながり続けるという思いを込めました」(松永)

夏合宿にかけて成長

春季大会で、筑波はなかなか調子が出ず法政大学、大東文化大学とリーグ戦の強豪に敗れたが、練習試合で流通経済大学に38-35で勝利。6月末には昨年度の大学王者・天理大学に20-35で敗れたが手応えを得た。8月の夏合宿では関西学院大学に65-14、関東学院大学に50-14と連勝した。

松永は春から夏を振り返って「春の5試合は1試合平均でペナルティーが12回あり、そこから失点するのがパターンだということがわかった。その中で選手たちが意識して減らせるオフサイドなど3つの反則をゼロにしようと練習に取り組みました。その結果、夏の関東学院大戦は4つ、関西学院大戦は9つと反則数が減り、普段の練習から意識していることが浸透してきている」と胸を張った。

またスキッパーはスクラム、ラインアウトといったセットプレーも昨年度より安定してきたと感じている。「セットプレーは基本的には大学院生の学生コーチが見てくれているのですが、スポットコーチとして榎真生さん(元NEC、明治大出身)がスクラムを教えてくれているので、昨年よりも互角に戦えている」と目を細めた。

兄追い大阪産大附では花園に一歩届かず

松永は幼少から小学校時代はソフトボール、グローブ空手に汗を流していた。ソフトボールの監督からラグビーを勧められたこと、1学年上の兄SO拓朗(天理大-東芝)が先に大阪・中野中でラグビー部に入ったこともあり、楕円(だえん)球の道へと進んだ。足の速さが買われて中学1年時はWTBで、2年からはFBとしてプレーした。兄と一緒に出場した大阪府の大会で準優勝の好成績を収めた。

高校は東海大仰星への進学も考えたが、結局、兄がいたこともあり大阪産大附で「花園」こと全国高校ラグビー大会を目指すことに決める。しかし、兄と一緒に出場した高校2年時は大阪第3地区予選決勝で大阪桐蔭に7-17、3年でも同じ決勝で常翔学園に22-28で惜敗。「2年連続接戦だったので、花園に行けなくて悔しかった。特に高3年時は自分がキックを外してしまったことが大きかった……」

天理大の日本一に貢献した兄の拓朗とはプレースタイルは違う

それでも高校2年の時にはU20男子7人制日本代表に選ばれるなど、松永は全国的に知られるようになるまで成長した。それはひとえに東海大仰星高から東海大に進んだ金谷広樹コーチの指導が大きかったという。「自分はフィジカルが他の選手より劣っていたので、相手になるべく触れられないようなコースを走ったほうがいいなど教えてもらって、それは今も生きています!」

大学進学時、もともと兄がいた天理大学に進もうと思っていた。ただU20のアジア勢との大会へ出場したことで筑波大から誘いがあり「関東対抗戦という一番高いレベルで戦えることが魅力でしたし、寮ではなく一人暮らしで自分のことは自分でしないと、という環境だった」ことからスポーツ推薦で体育学群に合格。結局、大学は兄と違う道を選ぶことになった。

松永は昨年度、全国大学選手権を制した1つ上の兄・拓朗に対して「選手として尊敬している部分はたくさんありますが、まったくプレースタイルが違うのでライバルと思ったことはありません。でも上手(うま)いなと思いますね」という。

様々な学びからパワーアップも

大学では勉強と部活の両立でバイトをする暇はないという。栄養の授業や栄養講習で学び、毎日体重を量りながら練習量を見て炭水化物、タンパク質の量をコントロールしている。コロナ対策として、ラグビー部員以外の学生と会食に行かない、大勢の食事は避ける、大学外の銭湯には行かない、行動記録を付けるなどの部のルールを徹底している。

また、昨年からのコロナ禍で大学のウェートルームが閉鎖されており、個人でスポーツクラブと契約してトレーニングする日々だ。高校時代に比べて体重は5kgほど増えて78kgほどとなり、ベンチプレスも20kg増えて135kgがあがるようになった。

松永は大学1年時からレギュラーとして試合に出場するだけでなく、2年になるとイタリアで行われたユニバーシアードの7人制日本代表にも選ばれて優勝に貢献。「フィジカルの強い海外の選手にどれだけスペースを突くランをできるかが大事と感じました。自分はランニングが武器だと思っているので、そこだけは社会人になっても通用する選手になりたい」。大学卒業後はバックスリーだけでなくSH(スクラムハーフ)への挑戦も視野に入れている。

筑波大は2020年度、慶應義塾大学に勝利し4勝3敗と存在感を示し、大学選手権では3回戦で関東大学リーグ戦2位の流通経済大学に19-19で引き分けたが抽選の結果、準々決勝に進出できず悔しい幕切れとなった。今シーズンは帝京大戦の後、慶大(9月26日)、早大(10月9日)、明大(24日)と優勝候補との対戦が続く。

オンライン取材で「勝つためにチャンスを作り続ける」

松永はチームとして「筑波が強豪に勝つためには失点を抑えてロースコアにすることが重要。失点20点以下を達成できれば自分たちにも勝機が出てくる。ディフェンスにこだわって帝京、早慶明に戦っていかなければいけない」と冷静に話した。個人としても「筑波が勝つためにはチャンスを作り続けるような選手になりたい。全試合、トライにつながるようなプレーができたらいい」と腕を撫(ぶ)した。

3年後に創部100周年を迎える筑波大学。粘り強いディフェンス、そして松永キャプテンを筆頭としたバックスの決定力を武器に、悲願の日本一に向けてチーム一丸となり、ひたむきに泥臭く戦う。

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