日本大学の飯田光紀主将、小さな体からみなぎる豊富な運動量とタックル
一昨季2位、昨季も3位に入るなど関東大学リーグ戦1部で台風の目となっているのが「ハリケーンズ」こと日本大学だ。今季、リーグ戦制覇だけでなく全国大学選手権優勝を目標に掲げるチームのキャプテンに任命されたのが、タックルと運動量を武器にチームを引っ張る身長170cmの小兵FL(フランカー)飯田光紀(4年、日川)だ。
1部復帰後、チームの総合力アップ
2015年は2部に甘んじていた日大だが、16年から1部に復帰し中野克己監督の下、かつて「ヘラクレス軍団」と称されたスクラム、モールといったFWのセットプレーを強化し見事にV字回復を果たした。さらに、年々、バックスの展開力やディフェンスにも磨きをかけて総合力も増している。
キャプテン飯田も「昨季はFWが強みでしたが、今季もFWの強みは残しつつ、バックスは昨季とあまり変わらないメンバーで経験を積んだ選手が多いので、今季は、アグレッシブなアタック、展開力も強みに加わったかな」と実感している。もちろんFWの一人として「FWのモール、スクラムで勝たないと勝利につながらない。負けられない」と語気を強める。
飯田キャプテンだけでなく、副キャプテンのLO(ロック)趙誠悠(4年、大阪朝鮮)とCTB(センター)フレイザー・クワーク(4年、開志国際)の3人はコーチ陣からの指名だった。チームの中軸の3人がリーダー陣に選ばれた。
地道なリハビリで大けがから復帰
大学2年の秋、社会人相手の練習試合で左膝(ひざ)の靱帯(じんたい)を断裂し、8カ月にもわたるリハビリに真摯(しんし)に取り組んでいた姿勢とプレーでチームを引っ張ることができるという理由でコーチ陣は飯田をキャプテンに選んだ。飯田は「1年生から学年リーダーをやっていたので、なるかもと思っていましたが、本当になるとは思っていなかったですね! 緊張感とともに大きな責任感が生まれました」と話す。
飯田がキャプテンになってから特に意識しているのは私生活の部分だという。毎朝6時半から、寮の清掃をしているが、キャプテンが率先しつつも全員でしっかり取り組むように声を掛けている。また7月末に新型コロナウイルスの陽性者を出してしまい3週間ほど活動停止となってしまったため、よりマスクの徹底など予防対策を心がける日々だ。
今季のスローガンは「躍進と同心」と決めた。
「躍進は昨季の大学選手権ベスト8を超えるという意味で、リーグ戦と大学選手権で優勝して躍進するという意味です。同心には3つの意味があって、人間的成長とリーグ戦優勝、大学選手権優勝です。人間的に成長し昨季よりレベルアップすれば大学選手権優勝とリーグ戦優勝が見えてくると思い決めました」(飯田)
サッカー少年が「季節部」でラグビーへ
飯田は山梨県笛吹市出身。小学校時代はサッカーに熱中、「Uスポーツクラブ」でセンターバックとしてプレーし全国大会でベスト16に入った。春日居中学校時代もサッカー部ではなくクラブチーム中心で活動していたという。
ただ山梨県では春夏秋の大会に向けて、他の部活に入っていても期間限定の「季節部」としてラグビー部の活動をすることができ、飯田も拓殖大学でプレーしているFL平賀優太(4年、佐野日大)に誘われて、中学2年の冬にラグビー部に入部したという。
飯田は「サッカーをやっていたとき、少しぽっちゃりしていて体が大きかったので誘われました。最初のポジションはセンターでキッカーも任されていましたね。体を当てるのが楽しくて、ラグビーの方が向いていると思いました」と懐かしそうに振り返った。そして中学3年になるとサッカーから足が遠のいてラグビーに専念する。
高校は山梨県のラグビーの名門・日川に進学する。入学当初はSO(スタンドオフ)だったが、試合に出られず、夏には現在のポジションであるFLに転向する。「SOはセンスがなかったと思います。タックルなどがむしゃらにいった方がいいかな」と手応えを感じ、それ以来、フランカーを続けている。
日川の同期は11人、明治大学のキャプテンSH飯沼蓮、専修大学の副キャプテンLO小笠原颯らとともに高校2年、3年と「花園」こと全国高校ラグビー大会に出場した。だが1回戦、2回戦負けと全国の舞台で結果を残すことはできなかった。高校3年時は飯沼がキャプテン、飯田が副キャプテンだった。
飯沼のいる明治大とは昨季の大学選手権の準々決勝で対戦して敗戦し、春季大会でも惜敗したため、今季も再戦を心待ちにしている。「日川の同級生と対戦するのは面白いですし、(飯沼)蓮はリスペクトしているので、今季も大学選手権で対戦できればうれしい! 高校から大学でラグビーを続けたのは3人で、3人とも大学でリーダーをやるとは思っていなかったですね」(飯田)
大学でもラグビーを続けたいと思っていた飯田は、日大にスポーツ推薦で合格した。教職を取ろうと思い、文理学部史学科に進んだものの、勉強と部活の両立が忙しく教員免許の取得は断念したという。
王者の東海大と真っ向勝負
FWに強みを見せる日大でも、飯田は豊富な運動量と激しいタックルで1年から試合に出場を果たした。「サイズが小さいのでタックルとブレイクダウンで体を張るプレーは意識しています。目立つプレーやゲインは留学生がいるので、サポートの部分はしっかりやれればいい」。今季に入って、接点で相手からボールを奪う「ジャッカル」を意識して取り組んでおり「1試合で1回や2回は決めたい!」と目を輝かせた。
大ケガも乗り越えて、ベンチプレスでは150kgをあげるようになり、入学時より体重も6kg増えて88kgになった。好きな言葉は「継続は力なり」。目標としている選手は自分とサイズが似ており、タックル、ジャッカルに長(た)けた静岡ブルーレブズ(前ヤマハ発動機)のFL廣川翔也(慶應義塾大出身)だ。
リーグ戦開幕にあたり一番、ライバル視するのは、もちろん4連覇を狙う王者・東海大学だ。「昨季はコロナの影響で不戦勝となりましたが、実際に対戦して勝ったことがないので最終に勝ちたいですね! FWの強い東海大にいい勝負できると思いますし、勝たないとリーグ戦の優勝もない」とキッパリと言い切った。
飯田は「コロナの影響で焦りもありましたが、目の前の試合に集中しつつ、簡単な試合はないと思うので、1試合ずつ丁寧に戦っていきたい。そしてチームとしても個人としてもレベルアップし、リーグ戦優勝、大学選手権優勝に向かって頑張っていきたい」と腕を撫(ぶ)した。
決してボールを持ってのプレーやアタックで目立つような選手ではない。ただ誰よりも接点で体を張り、黒衣としてタックルやジャッカルなどで勝利に貢献して「ハリケーンズ」に1985年以来のリーグ戦1部優勝の歓喜をもたらす。