陸上・駅伝

立命館大は出雲・全日本で入賞を目指す 山菅善樹監督と永田一輝主将に聞く現状 

近年、関西では負けなしの立命館大。1年の集大成として駅伝シーズンに臨む(写真提供・立命館大学陸上部)

関西学生駅伝では昨年まで3連覇、関西長距離界でトップを走る「関西の雄」立命館大学。しかし今年の前半シーズンは苦しい戦いとなった。主将の永田一輝(いつき、4年、豊川)と山菅善樹監督にチーム状況と駅伝シーズンの展望について話を聞いた。

歯車が噛み合わなかった前半シーズン

昨年の立命館大では、岡田浩平(現安川電機)、前川紘導(ひろと、現旭化成)、吉岡遼人(現三菱重工マラソン部)といった力のある4年生が中心となり、チームをけん引していた。その代が卒業し、練習を引っ張るのも山田真生(3年、中京)、高畑凌太(4年、草津東)の2人に任せっぱなしになってしまったと永田。「4年生のリーダーシップが足りない部分もあって、後輩の不信感にもつながり、チームの歯車がなかなか噛み合わなかったなと思っています」。1つ上の代、そしてその上の今井崇人(現旭化成)、高畑祐樹(現トーエネック)の代は「戦力的にも雰囲気作り的にも、チームにすごく必要な存在だったのだなと改めて感じました」。自らの代になってみて、改めて先輩の大きさ、偉大さを痛感させられたという。

山菅監督も「昨年、一昨年、その前は出雲駅伝で入賞に食い込んだり、5000m13分台、10000m28分台といったタイムを持つ、関東の大学とも戦えるレベルの選手がいました。その頃に入学してきたのがいまの4年生です。彼らはある意味、その先輩たちに引っ張られて過ごしてきた。その学年が抜けたところでチームを任されてしまった動揺やバタつきは、正直ありました」と認める。

チームが始まって前半シーズンは、なかなか歯車がかみあわなかったという(写真提供・立命館大学陸上部)

本来なら3年生になったときから、上の学年を見て最高学年への心の準備をしていくものだが、昨年は休校や活動制限などもあり、「やれていた部分とやれていない部分があった」。上級生からの見えない部分の引き継ぎやコミュニケーションをやりきれていなかった部分も影響しているのではないかともいう。

選考会1位通過も「負けに等しい」

昨年は一切学内に入れず、グラウンドを使えない期間もあったが、今年は制限はある中でも、ある程度例年通りの練習をすることはできた。だが故障者などもあり、あまり記録会やレースには出ずに、6月の全日本大学駅伝関西地区選考会を迎えた。

2組では山田がスタートから飛び出し、ぶっちぎりの1着を取ったが、3組を走った永田は31分24秒20で10着と「チームに貢献する走りができませんでした」。過去、立命館大は選考会では力がありながらも苦戦する傾向にあった。「今年は力のある先輩が抜けた中で、戦力が落ちている中でさらに苦戦という感じでした」。選考会中、暫定順位は1位をキープしていたが、全4組中、3組が終わった時点で2位の関西学院大との10000mの平均タイムの差はわずかに4秒、ボーダーラインまでも7秒しかないという僅差だった。「すごくヒヤヒヤしていた」と永田。最終的に10000m8人の合計タイムは、2位とはわずか23秒差での1位通過だった。

永田は選考会ではキャプテンらしい走りができなかったと振り返る(撮影・藤井みさ)

苦戦している中でも、山田、高畑(4組3着)は実力通りの走り、さらに2組を走った山﨑皓太(洛南)が2着、中田千太郎が4着、4組では大森駿斗(ともに智辯学園奈良カレッジ)が10着と1年生の活躍が目立った。「選考会を1位通過できたときは、ホッとした、良かったな、という気持ちでした。1位通過できたのは1年生と、けが明けからしっかりと調子を戻して来てくれた谷口(晴信、2年、網野…4組7着)の力が大きかったです。と同時に、キャプテンとしての走りができなかったことに関しては、チームのみんなには申し訳なかったと思ってます」

山菅監督は「完全に負けたと思っていた」とレースを振り返って口にする。「普通に練習通り走れていれば、あんなに僅差にはならなかったと思います。想定では3組目でほぼ(1位通過を)決められたはずだったのにそうはならず、最終組までもつれた。6月の状況からすれば負けに等しい結果だと思いました」。特に3枠目を争っていた大阪経済大、京都産業大の選手たちの最終組の走りを見て、考えさせられるものがあったという。「同じ状況になって自分たちがその立場だった場合、本当にあんな走りが自分たちにできたのかなと」。いまなお厳しい社会状況で開催される大会に、関西代表として出るのにふさわしい戦いができるのか考えてほしい。山菅監督は選手たちにそう問いかけた。

全員が危機感、チームは変わった

実際に選手たちも選考会の結果を受けて、危機感を自分ごととして感じるようになった。選考会は日曜日の夜9時すぎまでかかったが、次の日の朝6時の練習には全員が集合し、仕切り直しとして取り組みをはじめた。それまでどこか陸上に対して向き合いきれていないような雰囲気があったが、一人ひとりがしっかりと改めて考え直し、チームの雰囲気は変わった。

夏合宿では過去と比べてもしっかり走り込み、チームは上昇気流に乗っている(写真提供・立命館大学陸上部)

「夏合宿では過去最高の練習量をこなせたと思います」と永田。例年だと30km走は1~2回だが、今年は4回、最終日にも20km走を入れた。単に距離走を増やすのではなく、インターバル走で追い込んでからの30kmなど、質も高められた。「けが人もほぼなくできました。過去と比べてもかなりギュッとつまったような、いい合宿ができたと思います」。けが人がいないというのは、何か取り組みを変えたのですか?と問いかけると「予想ですけど」と前置きし、「今年のチームは飛び抜けた選手がいるわけではないんです。だから部員15人全員に駅伝メンバー入りの可能性があると思っています。けがをしたらメンバー入りの可能性が遠のいてしまうので、全員がケアの意識を持って練習外でも取り組んだのかなと思っています」との答え。全員がしっかりと競技に向き合えている証拠でもある。チーム状況はいま、駅伝を前にして上向きだ。

「少数精鋭」というわけではなく……

永田は自分について「優柔不断な性格」と表現する。キャプテンになってみて、改めて今までのキャプテンたちのすごさのようなものを感じていると話す。「先輩たちはバシッと方向性を決めて、自分たちを引っ張っていってくれました。でも自分はガツンと決めて、ビシバシ引っ張っていくタイプではないなと……。だからこそ、みんなの意見を聞いて尊重しながら、いい方向に持っていけたらと思っています」。山菅監督も「彼は人としてはしっかりしているけど、やっぱり遠慮しいなところはあるかなと思います」と永田を評する。「でもそれが彼の性格なので。言いにくいところは僕や高尾さん(憲司、アドバイザー)から伝えたり、ということもありますね」

選手が少数精鋭で、監督、アドバイザー、選手の距離が近い立命館ならではでもありますね。と話を向けると「決して少数精鋭にしたいわけではないんですけど……本当はもっと部員がほしいです(笑)。でも推薦は毎年3人のみということに加え、入部にあたって基準タイムを設けていることもあり、一般入試で入ってきてくれる選手となると少なくなってしまいますね」。今ある戦力でいかに戦うかは、常に立命館の課題でもある。

感じる「関東との差」、だからこその思い

前回の全日本大学駅伝で、4区を走り区間13位だった永田。これが大学での全国デビューだった。走ってみた感想をたずねると「率直に、関東との力の差をすごく感じました」という。10kmの通過は永田の自己ベストと同じぐらいのペースで、自分としては及第点の走りだったが、それでも区間13位。「完全に力の差を感じました。主要区間になるともっと力がいるし、それを8人揃えないと戦えないのか、と」

6区間45.1kmと距離の短い出雲駅伝は、スピード勝負となる。「だからこそ関西や、地方の大学でもメンバーを揃えられれば上位争いできるチャンスがある大会だと思います」。実際、立命館大は昨年、出雲駅伝優勝を目標に掲げていた。全日本大学駅伝に関しては距離が伸び、区間も8区間となり、選手層が厚くないと上位争いにはからめない。

選手として、キャプテンとして完全燃焼したい。永田は最後の駅伝シーズンを駆け抜ける(写真提供・立命館大学陸上部)

永田は「だからこそそこで、上位入賞したいな、という思いもあります」という。チーム目標は、出雲駅伝で過去最高順位となる5位入賞、全日本大学駅伝8位入賞、関西学生駅伝(丹後駅伝)優勝。永田個人のテーマは「完全燃焼」だ。陸上を大学で辞めると決めているからこそ、しっかりとやりきりたい。出雲、全日本では区間順位1桁でチームに貢献したい、とはっきりと言い切る。「できればみんなの思いのつまった襷(たすき)をかけて、アンカーでゴールテープを切りたいとも思いますが、チームの状況でどこでも走るつもりでいます」

山菅監督は、関東の大学との力の差を認めつつも、「箱根駅伝のない関西の大学からすると、出雲駅伝からチーム状況を高い状態にもっていって、関西学生駅伝まで駆け抜ける感じです」と戦い方について表現する。特に全日本大学駅伝については、日本一を決める大会となるためそこを「最高の舞台」として置いている。現状はどうしても関東の大学が上位を占めるが、「自分たちがその状況を変えていく、という気持ちは常に持っていきたいですね」

どうしても関東以外の大学を形容する際に「打倒関東」という枕詞が使われがちだが、そこについて聞くと「打倒関東とは思っていません」という。「目の前にいる大学なら、関東の大学であろうと、東海、関西の大学であろうと勝つ。それが入賞という結果につながればいいと思うし、目標に向かって自分たちの力を精一杯発揮できるような走りができればいいと思います」

日本インカレ10000mで、山田は序盤唯一留学生に食らいつき速いペースでレースをすすめた(撮影・藤井みさ)

エースの山田は先日の日本インカレ10000mで苦しい走りとなったが、足の裏にマメができたことが原因だったといい、今は問題なく走れている。さらにチームの核となるのは、4年生の高畑に、ポテンシャルを持った1年生たち。それから永田は伸びてきている選手として3年生の安東の名前もあげた。そしてもちろん、永田自身の存在も重要になる。チーム状況がうまくハマれば、目標の順位に近づいていく。今年の立命館はどんな戦いを見せてくれるだろうか。

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