陸上・駅伝

特集:第33回出雲駅伝

出雲駅伝初出場初優勝の東京国際大 大志田秀次監督「びっくり、感謝している」

ゴールの直線で勝利を確信し、敬礼をして仲間に合図するヴィンセント(撮影・佐伯航平)

第33回 出雲全日本大学選抜駅伝競走

10月10日@島根・出雲大社~出雲ドームの6区間45.1km
優勝  東京国際大学 2時間12分10秒
2位 青山学院大学 2時間14分07秒
3位 東洋大学   2時間14分13秒
4位 國學院大學     2時間14分17秒
5位 駒澤大学   2時間14分53秒
6位 早稲田大学  2時間15分00秒
7位 創価大学   2時間15分37秒
8位 帝京大学   2時間16分24秒

2年ぶりに開催された出雲駅伝で、初出場となった東京国際大学が初優勝の偉業を成し遂げた。3区でトップに立つと、そのまま一度も先頭を譲らず2位に1分57秒の大差をつけてゴール。選手たちは笑顔でアンカーのイェゴン・ヴィンセント(3年、チェビルベルク)を迎えた。

いい意味で裏切られた「45秒差なら逆転できる」

東京国際大は昨年年始の箱根駅伝で5位と、初めてのシード権を獲得し、出雲駅伝の出場権を得た。昨年度のチームでも「出雲駅伝で初出場初優勝」を目標に掲げていたが、大会は新型コロナウイルスの影響で中止に。今年の箱根駅伝で明治大学との競り合いの末10位に入り、2年連続シード権を獲得。今年こそ初出場、そして初優勝を。その思いで選手たちは練習に取り組んできた。

アンカーの6区最長区間、10.2kmにエントリーされたのはヴィンセント。これまで箱根駅伝3区、2区で区間新記録で区間賞、今年の関東インカレでも2部5000m、10000mでともに優勝と、大事な大会でこそ驚異的な実力を発揮してきた。エントリー選手中で10000mの持ちタイムは27分30秒24とトップ。距離が短い出雲駅伝では、最終6区での大逆転も容易にありえる。東京国際は前半シーズン好調だった駒澤大学と並び、優勝候補と目されていた。

前日会見でもヴィンセントに話題が集中した(撮影・藤井みさ)

前日会見でもヴィンセントの存在をどう思うか、何分離せば勝てるか、といった質問がなされた。駒澤大のアンカーは日本人学生トップの田澤廉(3年、青森山田)。大八木弘明監督は「1分ぐらい(リードが)あれば面白いかな」と言い、大志田秀次監督は「1分なら田澤くんに逃げ切られてしまうと思うので、(遅れは)45秒以内なら」と言っていた。先行する他チームに、東京国際大がアンカーでどれほど追いつくか、逆転するか。順位予想をするほとんどの人がそう考えていたはずだ。だが、その予想は大きく裏切られることになった。

3区で抜け出した丹所、単独走でトップに

当日は厳しい日差しが照りつける快晴、気温は30度超。1区を担当したのは昨年、けがに苦しんだ山谷昌也(3年、水城)。レースが進み先頭集団が8人に絞られても、その中にしっかりとつく。青山学院大学の近藤幸太郎(3年、豊川)のラストスパートにも食らいつき、トップと5秒差の3位で2区の佐藤榛紀(1年、四日市工)へ襷(たすき)リレー。山谷は「初出場初優勝を狙う大事なチームの1区なので、しっかり先頭と5秒差でつなげてよかった」と振り返った。

佐藤は高校2、3年時に都大路(全国高校駅伝)で1区を走り、ルーキーで大学駅伝の初戦にデビュー。「緊張した」というが、第2集団でしっかりと前を追う。4.6km付近で集団から國學院大學の木付琳(4年、大分東明)と順天堂大学の平駿介(3年、白石)が抜け出し木付がトップに立つと、佐藤もペースを上げ、青山学院大の飯田貴之(4年、八千代松陰)、早稲田大学の井川龍人(3年、九州学院)を抜いて3位に。そのまま第2中継所で待つ丹所健(3年、湘南工科大附)に襷がわたった。

2区・佐藤は臆することなく先頭についていった(代表撮影)

エース区間の3区には、各校力のあるランナーがそろった。最初の1kmは2分40秒とハイペース、次の1kmは2分55秒とややペースが落ち着いたが、丹所は2km付近で集団の先頭に立った。丹所は軽快な走りで徐々に後続を引き離し、単独走に。5kmの通過は14分10秒とペースを落とすことなく走りきった。区間賞は後ろから追ってきた創価大学のフィリップ・ムルワ(3年、キテタボーイズ)に譲ったが、2位とは29秒の差をつけた。

4区ルーキーの白井勇佑(1年、仙台育英)は区間5位、5区の宗像聖(3年、学法石川)も区間3位と好走し、1位を守ったまま襷はヴィンセントへ。「暑さはあまり得意ではない」というヴィンセントだが、187cmの身長を生かしたダイナミックで美しいフォームでぐんぐんと前に進んでいく。暑さもあり区間記録の更新とはならなかったが、結果的に2位の青山学院大に1分57秒の差をつけてのフィニッシュとなった。

大志田監督「選手、スタッフに感謝」

「天候にも助けられて、各チームスローというか暑さ対策を考えたペース配分でしたので、我々にとってはそれが良かったなと思います。流れが良かったなと思いますね」。大志田監督はまず、例年にない暑さが味方したと口にした。ヴィンセントに少しでも負担をかけないようにするのが狙いだったと言い、その通り選手たちが前で走ってくれたと健闘をたたえた。45秒差のビハインドであれば逆転できると前日会見では言っていたが、いい意味で予想を裏切られましたね? との質問には「みんながリラックスして走れたのかなと思います」

とりわけ、1区でトップと5秒差、区間3位で走った山谷がチームに戻ってきたのは大きい、という。夏合宿でも9月に入ってからAチームに合流し、質の高い練習を積めていた。「戻ってきた、という感じですね。もともと去年までの実績でいうと、丹所よりも速かったので。けがをしてなかなか浮上のきっかけがつかめませんでしたが、丹所が頑張っているのを見て彼も奮起した部分もありますし、トラックのタイムも更新してくるだろうと思います」。今回は1年生が2人メンバーに入ったが、長い距離を走るようにトレーニングしている上級生に代わり、夏の疲れがとれるこの時期に短い距離で試して次の駅伝にステップさせる、という意図があって起用したと明かした。

出雲駅伝初出場初優勝はどの学校も成し遂げたことのない偉業だ(撮影・藤井みさ)

選手たちには「初出場で初優勝は今年しか目指せないから目指すんだ」と言っていたが、正直なところ「優勝は来年、再来年目指せればと思っていて、正直それが現実になるとは想像していませんでした」と率直な思いを口にした大志田監督。2011年の創部から11年、1年目は誰も部員がおらず入学式の校内放送で部員を集めた。勧誘に行っても大学の名前すら覚えてもらえなかった頃もあった。それが5年目で箱根駅伝初出場、9年目で箱根駅伝初のシード権、そして今年の快挙。「びっくりしています。学校の理解も大きく、選手だけではなくスタッフも本当によくやってくれている。感謝しています」

全日本でも「いいレース運びができると思う」

この勢いでは、全日本大学駅伝でも優勝のチャンスがあるのでは? と問われると「いやいやいや!」とかわしたが、チーム状況は充実している。今回走らなかったメンバーでも、夏合宿でしっかりと鍛え、自己ベストを更新している選手は何人もいる。過去2回出場した全日本大学駅伝では、アンカーにルカ・ムセンビ(3年、仙台育英)を置いて戦ってきたが、「いろいろなパターンを考えていきたい」と大志田監督。ロードレースが少ないという現状を踏まえ、箱根駅伝に向けて長い距離の区間に日本人を置き、留学生を中間の区間に置くということも示唆した。「全日本ではどこかの区間でトップにはなりたいと思っています」という。だが、目指している順位は「過去最高順位」、すなわち3位以上。「丹所が伊藤(達彦、現Honda)とまでは言わないまでも成長してきているし、3区以降を担当する選手たちもいるので、いいレース運びができるかなと思っています」

大きく成長し自信をつかんだ丹所。初めて「区間賞」という言葉を口にした(撮影・藤井みさ)

駅伝を走るときは最終的に、選手自身の判断が重要となる。考える力を養うため、練習時からABCの3つの練習メニューを提示し、「今の状態で全部こなせる」練習を選ばせるようにしているのだという。夏合宿もいままではとにかく距離を多く踏むということに主眼を置いていたが、その影響で秋にダメージが大きかったということもあり、まんべんなくさまざまな練習をし、練習を継続できる形に変えてきた。「それがいいかどうかはこれから長い距離の試合になってくるので、課題というか考えていかないといけないと思います」

レベルアップした丹所、次は区間賞を

結果的に優勝を決定づける走りとなった丹所は、「最初はペースを抑えて、行けるなら後半に行け」という指示を受けていた。しかし最初の1kmが2分40秒と突っ込んで入ることになり、「突っ込む形になっちゃって、後半うまく切り替えられなかったという部分ではレース運びに課題が残りました。粘れてたけどこれじゃタイムは出ないので」とし、自らの走りの評価を「70点か80点」とした。「出雲は短い距離だったから耐えられたけど、次はそうは行かないので、次こそはペースを守っていきたいと思います」と快走にも厳しい自己評価を下した。

正直なところ、トップと7秒差の4位という好位置で佐藤が襷を持ってくるとは思っていなかったという。「戸惑いもあっておお、と思いました(笑)。でもここまでの仕上がりとしては自信があったので、『よし、行くか』という気持ちで走りました。結果的に区間2位で、3位とも30秒以上あけられたので良かったなと思います」。優勝できるなと初めて思ったのは、襷リレーをして中継所からドームに移動するタクシーの中で、4区の途中経過を見た時だという。

今まで「自分はエースではない」という言葉をたびたび発していた丹所。今回の走りで誰がどう見てもエースなのでは? と問われると「いやまだ、山谷がいるんで。夏のエースは自分だと思ってるんですけど、秋になってから山谷が強くなってきて、今も仕上がりがいいです。山谷がいる限りまだエースではないですね」。チーム内競争もあり、戦力がさらに充実してきていることも感じさせた。

けがから復帰して好走した山谷。今後のレースにも期待がかかる(撮影・藤井みさ)

9月の日本インカレ5000mで3位になったときは、「3つの駅伝とも区間3位以内」と目標を口にしていた丹所。「今回区間2位で、内容的にも後ろと30秒以上あいてたので、次は3番じゃなくて区間賞という目標にして、レベルアップしていきたいです。今回はここまで来たんだと証明する大会だったので、次の大会からは区間賞を目指していきたいです」と言い切った。先輩の伊藤達彦は丹所が1年の時の4年生。夏合宿で同部屋になったときに、真摯に、ほとんどの時間を真剣に陸上に向き合う姿に衝撃を受けた。入学時のタイムが14分30秒台という共通点もあり、「達彦さんのように」と目標にしてやってきた。「達彦さんがこうだったから、自分はそれ以上いくんだ、という目標を持ってやっています」。今回の結果がさらに丹所の自信となったことは間違いない。

残る2つの駅伝、目標順位は「どちらも3位以内」と丹所。それもまったくありえる話だと感じさせる、今回の出雲駅伝だった。

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